第22話 お預け


「それじゃ! デートも変な所で終わったし、再開しますか~!」


 ベッドに寝っ転がりながら拳を高々と上げる。


「今からか? どっか行きたいところでもあるのか?」


「本当だったら、そのまま街中歩いてご飯食べて丘の上で夕日でも見ようかなーって思ってだけど、流石にその気力はもうない」


「確かに、今から戻ると時間もかかるし、それに混んでるよな」


 今の時刻はお昼過ぎ、ご飯屋は最高潮に混んでいるだろう。


「どうする?」


「どうしよっ……か?」


 お互い間合いを見るが、この流れ完全にヤる。

 ラブホに2人きり、やることがない、ムードが流れている。これはヤらないわけがない。


 ここで疑問だ。俺は経験したことがあるものの、笑来はどうなのか。

 笑来に彼氏ができたことはないし、特に男絡みの話は聞いたことがない。

 必然的に未経験という事になる。


 俺的にはそっちの方が嬉しいけど、笑来が怖がるなら俺はしない。

 傷つけてまで、自分の欲に従うほど俺はサルではないからな。


「そのー、ラブホで男女が2人ってさ、すること限られてるくない?」


 頬を赤らめながら、ジーっとこちらを見てくる。

 踏み込んできたか。これは様子を見ながら会話を続けよう。

 絶対に性欲を表に出してはいけない。


 いやしたいよ⁉ ものすごくしたいし幼馴染とのエロマンガでよくある『昔見た時の裸と違う』っていうやつを切実にやりたい。

 けど、今は我慢だ。


「悠はさ……私と、えっと……シたい……の?」


 スルっとこちらに体を近づけてくると、上目遣いで聞いてくる。


「しなくないって言ったら嘘になる」


「そ、そっか」


「……お前はどうなんだよ」


「え、したい。めちゃくちゃしてみたい」


「え、まじ? そんなあっさり?」


「うん、ガチ」


 もっと初々しく言ってくるかと思ったが、目を見開いてハッキリと言ってくるので、俺は動揺する。

 なんか、ロマンチックな展開とはかけ離れているような……


「私さ、分かってると思うけど初めてなんだ……だから、最初は悠がいいって」


「俺も、ゆうて実心と一回したくらいでほぼ未経験みたいなもんだからさ……」


 照れくさく、頬をかきながら言うと、


「は? 今なんて?」


 急に笑来の目から光がなくなり、声のトーンが下がる。


「ん、未経験じゃないって言ったんだけど」


「実心としてたわけ? 一回だけだけど、シたわけ?」


「まぁ、誘われたというか流れで」


 というか、半ば襲われた。うん、食われたという表現が正しいだろう。

 また激怒されると思ったのだが、


「ふーん、それなら今日はお預けだね」


 フンっと、不満そうな顔をしてそっぽを向けられるだけであった。

 まぁ、笑来も初めて同士がよかったのだろう。その気持ちはすごく分かる。


 けど、襲われてしまったからには仕方ない。俺も抵抗できなかったからな。でも、俺も初めてとか嘘でも言えばよかったかもしれない……


 そう言ってたら今頃始まってたかもしれないのに……過ちを犯してしまった。

 とりあえず、初エッチはお預けになった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る