第20話 メンヘラ気質


「よりによってなんでラブホに……」


 部屋に入り、俺は早速笑来に聞く。何か話をするくらいだったら、どこか喫茶店でも入ればいいだろう。

 もしかして、怒鳴られるくらいするから個室に来たのだろうか。

 だとしたら怖いな。


「とりあえず、ベッド座って」


「あ、うん」


 と、言われるがまま俺は指示に従う。


「私がなんで怒ってるか、悠は分かる?」


 俺の正面にあるソファーに座った笑来は、顎に手を付きながら聞いてくる。


「やっぱ怒ってるんじゃんか」


「怒ってる理由、分かるの?」


「正直、あんまり分からない」


 何か、直接的に笑来を怒らせるようなことはしていないはずだ。

 もし、俺が気づかないうちに笑来を傷つけていたなら、今すぐ謝りたい。


「本当に分からない? 結構私怒ってるんだけど」


 太ももに指をトントンと叩きながら、俺が答えるのを待っている笑来。


「もしかして、俺が実心と話してる時になんかやらかしてた?」


 思い当たるとしたら、それしかない。


「正解。でも完答ではないよ」


「謝るからさ、教えて欲しい」


 こういう時は、素直に聞いて謝るのが正解だろう。

 変に別な事を言っても火に油を注ぐだけだ。


「悠さ、なんで実心ちゃんに手を握られた時にデレデレしてたの? それになんで心配そうな顔をしてたの?」


「なっ――笑来⁉」


 刹那、ベッドに俺を倒すと、馬乗りになって来る。


「振られた女にデレデレしてる理由は何? それにあの心配そうな顔はなんなの? まさか実心ちゃんに未練でもあるの?」


「ちょっと、目が怖いんだけど」


「私は真剣に言ってるの。ちゃんと答えて」


 確かに、いきなり手を握られたことでデレっとしてしまったのは俺が悪い。実心について深く考えてしまったのも、全部、あの実心の不審な行動や表情が原因だ。

 誤解を生んでいるかもしれないから、説明しよう。


「実心に未練はさらさらない。これは本当だ。デレっとしたのは、いきなり手を握られたからで不可抗力。心配そうな顔をしてたのはさ、実心が何か企んでそうだったんだよね」


「企んでる?」


 小首を傾げる笑来。


「うん。彼氏がいるのにさ、俺の前で寂しそうな顔してたんだよあいつ」


 あれは、明らかに何か企んでいる顔だ。


「じゃぁ、悠は私が一番だよね? 実心に戻ったりしないよね大丈夫だよね? 悠は私がいるから心配ないよね?」


「うん、笑来が一番だから安心して」


「分かった……それなら信じるよ」


 笑来も落ち着きを取り戻したからか、俺の上から体を退かす。

 とりあえずは誤解が解けたようで一安心。


 にしても……笑来ってメンヘラ気質があったのか。あの言葉のマシンガンはメンヘラ特有のやつだ。

 それにあの目……完全にハートの形をしていたぞ。

 別にメンヘラが嫌いって訳ではない。むしろ大切にされてる感があって嬉しい。


 けど、面と向かって言われると、少し驚く。笑来のああゆう一面はこれまで見たことがなかったからな。

 とりあえず分かったことは、俺の幼馴染はメンヘラ気質があるということだ。


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