第19話 怒ってる?

「そのー、悠は笑来ちゃんとデートなのかな?」


 体をもじもじとさせ、後ろに手を組む。


「デートだよ! 今私は悠とデートしてるの!」


「おい笑来⁉」


 バッと俺の腕に抱きつくと、食い気味に笑来はそう答える。


「へぇ~そうなんだ。悠にも新しい人が出来たんだね」


「ま、まぁな」


「よかったじゃん。幸せそうで」


「おかげさまでな」


 俺も目を細くして実心の方を見るが、少し気になる所がある。

 なんで、ちょっと寂しそうな目をしてるんだ実心は。

 不満そうな、そして悲しそうな目をしている。


 もしかして俺に未練が……ってそれはない。もう新しい彼氏がいるんだ。それに振ったのはあっちだし。

 変な事を考えるのはやめよう。


「なら! お互い幸せにならなくちゃだね!」


「……⁉」


 実心は、急に俺の手を握ると、笑顔を向けてくる。

 急な事に、かぁっと頬が赤くなるが、すぐにその赤みは引いた。


 何故なら、その笑顔は嘘偽りない笑顔ではなく、完全なる作り笑顔。

 本当に、何を考えているんだ実心は……全く検討が付かない。


「じゃ、今日は会えてよかった。またね」


 と、俺が深く考えている内に、スっと実心は新しい彼氏と一緒に行ってしまった。


「なんなのあのゲス女」


 チッと舌打ちをしながら、笑来は2人の後ろ姿を睨み付ける。


「ホント、何を考えるか分からん」


「新しい彼氏もなんか胡散臭い。絶対マルチやってる顔だよあれ」


「なんかしっくりくるなその例え」


「実心もなんであんな男と、ねぇ~。絶対に悠の方がいい男なのに。まぁ、今は私がいるけどさ~」


「さぁーな。俺にはさっぱりだ」


 あの表情。絶対何か裏があるぞ。

 気になって仕方がない、なんで彼氏ができたのに、あんな顔を……やっぱりまだ俺の事が……


「何ボーっとしてるの?」


「あ、ごめん」


 人混みをボーっと眺めていると、笑来は俺の顔を覗き込んでくる。


「何? 実心ちゃんの事考えてたわけ?」


「いや……まぁそうだけど」


「なんで?」


「ちょっと、あの顔が気になってな……裏がありそうな顔だったあれは」


 顎をさすりながら言うと、


「悠、ちょっと行くよ」


 強引に俺の手を引っ張りながらどこかへ向かう笑来。


「えいきなりなに」


「いいから行くよ!」


「もしかして怒ってる?」


「怒ってない!」


 明らかに不機嫌な笑来。どうしたんだ急に、俺なんかしたか?

 それか、実心に怒っている? もしくはどっちもか。

 とりあえず、今は付いて行こう。ここで止めてもケンカが始まるだけだ。


「……あの~」


「……」


「どこまで行くかだけでも教えてくれると~……」


「……」


 水族館から出ても、駅を超えても笑来は止まらず歩き、とある建物に入るとタッチパネルで部屋を選び、エレベーターに乗り込み、部屋の扉をガチャりと開ける。


「なんでホテル」


 行先は、ラブホであった。

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