第17話 可愛いけど腹黒い


「……なんか一気に最悪な気持ちになったんだけど」


「……同じく」


「……無心でショー見てたしね」


「……お通夜みたいだったよな」


 イルカショーが終わり、俺たちはびしょ濡れな服を絞ってから館内に入った。

 かからないゾーンとか書いてあったけど全然かかるじゃないかよ。3つ後ろくらいの席までちゃんと水が飛んでたし。


 所詮、飛ばない目安ってことだ。安牌を取らずにギリギリを攻めた俺たちが悪い。


「なぁ、そこでTシャツだけでも買ってこうぜ」


 売店の前まで行くと、壁にかけてある水族館限定のTシャツを指さしながら俺は言う。


「買うかぁ~。下はそこまで濡れてなかったけど、上はびしゃびしゃだもんね」


「そうそう」


 あと、笑来に関してはブラが透けそう。


「これが記念のおみやげってことで」


「デート記念?」


「まぁ、そんな感じだな」


 これまで笑来とは色々なところへ行ってお揃いのキーホルダーだったりぬいぐるみを買って来たが、今日はそこに特別な意味が加わる。

 仕方なく買った感はあるが、どうせキーホルダーとかも買うだろうし、これもまぁ……思い出だ。


「柄どれにしよっかな~」


 並べられているTシャツを眺めながら、笑来は喉をうならせる。


「柄ね~」


 と、俺も並べられているものを見渡すが、


「……いいのがイルカのやつくらいしかない」


「マジでそう! よりによってイルカ!」


 笑来も、少しキレ気味にそのシャツ指さす。

 それ以外は、それもパッと来ないもばかりだ。


 胸元にでっかく水族館の名前が書かれていたり、いろんな種類の魚がこれでもかと書かれていたりと、外で着るには小っ恥ずかしい。

 一番シンプルで落ち着いているのが、イルカのTシャツ。


 白の生地に、イルカが大小3匹描かれており、色も青とピンクの2種類あるからちょうどいい。


「これにするか」


 2着手に取ると、そのままレジへと向かう。


「イルカに濡らされたのに、イルカかのTシャツを買って着るとか……なんか複雑な気持ち」


「イルカは可愛い顔して鬼畜だったようだな」


「可愛いけど腹黒い人みたいだよね。まるで――」


「おいおい、今日は言わない約束だろ?」


 名前を出そうとする笑来に、すかさず止めに入る。

 気持ちはすごく分かるけど、今日はその名前は厳禁だ。思い出したくないものを思い出してしまう。


「だね」


 分かった、と、にかみながら頷く。

 こういう俺の気持ちを考えてくれるところが、笑来のいいところだ。

 幼馴染とうい過程があったからこそ、恋人になってもいい関係を築ける。


 アニメでよくある『幼馴染とのラブコメ』は、ちょうどいい距離感で円満なイメージがあるが、現実でも同じようだ。


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