第16話 バチ当たり
「さぁ~! お待たせしました! これからイルカショーが開幕しますよぉ~!」
スタッフの陽気な声と共に、観客の歓声もどっと沸き上がる。
「見て見て! イルカがトレーナーと一緒に出てきたよ! めっちゃかわいいんですけど」⁉」
「いや、見てるって」
「やばくない⁉ クッソかわいい~!」
「やばいのはお前だ。ちょっと落ち着け」
さっきから俺の服を引っ張りながら興奮している笑来に、呆れた表情を浮かべる俺。
はしゃぎたい気持ちも分からなくはないが、周りにいる小さい子供より騒いでいると、流石に俺も注意したくなる。
普通に恥ずかしいからな。
「まずは、イルカさんを誘導してこの宙に浮いている輪っかにくぐらせる技を披露したいと思います~ 最初から水が飛び跳ねるかもしれないけど、みんな準備はできてるかな~?」
「「「は~い!」」」
「はぁ~い!」
小さい子供たちが元気な声で返事をする中、笑来の声もその中に混ざっていた。
そもそも、俺たちが選んだ席は水がちょうどかからないラインだろ。
その場のノリで返事するなよ。可愛いから許したいけど、今回ばかりは周囲の目が気になってそうは思えない。いや、可愛いのは事実なんだけど。
「にしてもイルカって、人間があんなに器用に操れるものなのね」
あれだけはしゃいでた笑来は、いきなり真面目で言い出す。
「訓練とか色々してるからな、イルカだって」
「知能が高いってことだね」
「だろうな」
「あと、聞いた話によると、快楽でエッチするのは人間とイルカだけらしい」
「どこ情報だよそれ」
「ネット」
「それ信じていいのかよ」
「ちゃんとアメリカの大学で結果が出てるらしい」
「なら信じるしかないな」
俺も、つられて真面目な顔になってしまうが、今、その話をしていい場面ではない。俺たちはイルカショーを見に来ているんだ。
ショーを純粋に楽しむはずなのに、なんでセックスの話になっているだ。しかも公共の場で。
「見て! イルカがジャンプしたよ! ――え?」
「……マジか」
刹那、俺と笑来の口が止まる。
イルカが輪っかを可憐にくぐり抜けると、水面に飛び込み派手に水しぶきが上がる。
そして、水がかからない場所にいたはずの俺たちにも、容赦なくしぶきがふきかかり、頭からびっしょりと濡れた。
うん、完全にバチが当たったな。
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