第14話 今回は許してあげる
実心の話をしている時だった。
「ねぇ、あれ実心じゃない?」
笑来は、俺の肩に手を置くと、反対の手で前の方を指差す。
「え、ガチ」
少し体をビクつかせながら、笑来の指先に視線を送る。
「ほら、あれ。男子と腕組んで歩いてるの」
「うわガチだ」
指の先には、身長高めの男子と、腕を組み、体を寄せ合いながら歩いている実心の姿があった。
「悠ちょ、こっち!」
「えぇ⁉」
いきなりり笑来に引っ張られ、物陰へと身を隠す。
「どうするどうする⁉ せっかくのデートがこのままだと台無しになっちゃよぉ⁉」
あたふたと目を回しながら慌てる笑来。
「確かに、バレたらまずいよな」
「修羅場ってレベルじゃないからね?」
「知ってるよ! しかもあっち……」
「男といるしな」
陰からひょこっと俺達は顔を出し、実心の方を見る。
雰囲気はイケメンの男子と、水槽を見ながらイチャイチャとひけらかすように歩いている。
やはりすぐに男ができたな。
俺も今回ばかりは人の事言えないがな。
にしても別れてすぐに他の人とこんなにイチャイチャ出来るのはすごいと思う。それくらい前の人に興味がないっていうことだな。
目の前でやられると、本当に何やってたんだと思う。そっちの方が吹っ切れるから俺にとっては助かるんだがな。
この一週間で、もう実心のことを考える場面は減ったし、このまま順調に完全に忘れられるかもしれない。
「やっぱクズだ。すぐにあんな男とイチャイチャしやがって」
笑来も同じ意見らしい。まぁ、あれだけボロクソ言ってるから想像はできていたけど。
「もう、どうでもいいじゃん」
「え、でもバレたらどうするんよ」
「バレたところでって感じじゃない? お互いもう相手がいるんだし、どうでもいいでしょ過去の人なんか」
「え、待って悠⁉」
と、俺は笑来の手を握りながら物陰から出る。
「せっかくのデートなのに、あんな奴らに邪魔されたら溜まったもんじゃないだろ?」
「デー、ト……そ、そうだよね! 今日はデートだもんね! しかもあの女を忘れるためのデート!」
赤面ながらも、デートを楽しもうとフンスと意気込む。
「だから気にしないで行こうぜ? もし鉢合わせたら、その時に考えよ」
「だね~! 私たちの方がイチャイチャしてるって見せつけよう!」
「それはまぁ、考えとく」
顔を背けながら言う俺に、
「ちぇ~、そこは男らしくして欲しかったけど~……今回は許してあげる」
小走りで俺の前に出ると、前のめりになりながら俺の顔を小悪魔な笑みで見つめる。
今日は存分に楽しもう。
あいつらよりも、思う存分。
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