第13話 どっちも可愛い


 実心と付き合う前まで笑来の事を何年も好きだった俺が言う、笑来は可愛い。

 そう思っているのは俺だけではない。学校でも実心ほど表だってはいないが、陰で人気がある女子だ。


 仕草も、表情も、服も。すべてが可愛い。

 水槽に反射して映る、しゃがみながら魚を眺める笑来。


 白のワンポイトTシャツに、ハイウエストのデニムショートパンツには黒のロングベルト。

 このコーデが可愛くないわけがない。


「……なにジロジロ見てんのよ」


 魚を見ていた笑来は振り返ると、赤らめた頬をプクリと膨らませながら俺の方を見てくる。


「え、なに」


「それこっちのセリフなんだけど」


「別に普通に見てただけなんだけど」


「魚じゃなくて、私を?」


「まぁ、どっちも」


 嘘は言ってない。ちゃんと魚を見ていた。


「え~なに~? 私に見惚れてたの~」


 クスクスと口元に手を当てながらがら笑う。

 いきなりのメスガキ発言。俺をいじりたいのか、照れを隠したいのかどっちか分からない。


「普通に、可愛いなーって」


 そう、どっちも可愛い。魚も笑来も。


「それって、私が?」


 と、手をもじもじさせながら言う笑来だったが、


「どっちもだな」


「はぁ?」


「だから、どっちも可愛いって」


「はぁ……」


 お気に召さなかったからか、呆れた顔をしてため息を吐く。


「笑来、可愛いよ」とドヤ顔で言ってあげたいのは山々だが、キャラに合ってないし、それで自信満々になる笑来がウザいのでやめてくる。その後絶対茶化してくるし。

 でも、ガチ照れしている笑来も見てはみたい。それはまた別の機会にするとするか。

「ホント、悠は女心を分かってないね~」


 不機嫌になった笑来は、目の前の水槽を後にして順路に沿って進み出す。


「別に分かってるけどな、大体」


「ならさっき言ってくれても……」


「ん、何を?」


「いやっ! もうなんでもない!」


 小首を傾げる俺に、笑来は顔を赤くしながらそっぽを向く。

 自分から言わせようして、また顔を赤くしてる。

 ホント、可愛いやつだよな笑来は。


「そんなんだから私くらいしかいい女しか見当たらないんじゃないの?」


 俺の数歩前を歩きながら笑来は呟く。


「一応、3ヵ月ほど続いた彼女がいたんだけど?」


「クズだったじゃん」


「否定はしないけど……クズというより謎な奴だよな」


「クソみたいな振り方して、その次の日にちょっかい掛けてくる女子とかロクなやつじゃない!」


「うん、納得」


 これに関しては納得せざるを得えない。

 しかも、自分でイイ女とか言うなよ。俺の前では別に言ってもなんでもないが、他の男子の前で言ったら引かれるぞその発言。

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