第8話 モテ女


「色々って、具体的に何があったん?」


 俺の前の席に座ると、背もたれに肘を付きながら言う。


「今は言うつもりはない」


「でも、おいおい言ってくれると?」


「時が来たらな」


 事が落ち着いたら話すことにしよう。今騒がれても面倒だしな。


「実心もよく平然とした顔で学校来れるよな」


 実心の席をジト目で見る奏。


「振った側なんて別にどうも思ってないだろ」


「分からんぞー? なんてたって今回は3ヵ月も続いたんだからな」


「まぁ、俺も異例だとは思うけど」


「これまで付き合ってきた男子は、もって2週間が限界だったしな」


「俺もその覚悟で付き合ってたからさ、その分反動がデカい」


「だよな~」


 容姿は整っているし、さほぞ悪い噂も流れていない実心はそれはもうモテる。

 ただ、男癖が悪い。


 浮気とか、ワンナイトとかはしないものの、彼氏がしょっちゅう変わることでは有名だ。

 学校でイケメンと言われている同級生、先輩、後輩は大体付き合っている。

 しかし、早くて3日、遅くて2週間で別れている。


 理由はどれも明確にはなっていない。

 この中で3ヵ月続いている俺は異例なのだ。特にイケメンでもない、ただのクラスメイトがイケメンを差し置いて長続きしていた。


「実心のやつ、次は何日で新しい彼氏が出来るんだろうな」


「知るか」


「どうせ3日後には新しい人と手を繋いで校内を歩いているだろうよ」


「……かもな」


 早くあっちも彼氏を作ってくれたら、俺も吹っ切れそうだ。

 逆に、早く目の前で新しい彼氏とイチャついてほしい。

 そうしたら、俺と笑来も堂々と交際宣言できるしな。まぁ、誰かに自慢することはないだろうが。


「てかさ、ずっと気になってることがあるんだけど一個いいか?」


「なんだ?」


「さっきから、女子2人からの視線を感じるんだが」


「周りを見渡す前にその2人の名前を聞いてもいいか?」


「お前の元カノと幼馴染だよ」


「ガチ」


「マジのガチだな」


 名前を聞いて、気づかれないように視線を動かす。

 右斜め前に視線を移動させると、実心が友達の陰に隠れながらこちらをチラチラと見ている。


 次は左斜め前に目を移すと、笑来がスマホを見るフリをしながらこちらに視線を送っていた。

 笑来がこちらを気にする理由は分かるが、実心は本当に何をしたいんだ?振った男になんの興味があるのだろうか。


 俺の反応を見て楽しんでいるだけなのか? それとも未練が……ってそれはないか。

 だとしたら自分から振ったりなんてしないはずだ。


 気にしたくはないが、気になる。これは笑来か奏に調査を入れてもらうしかなさそうだ。

 この真相が解明しないと、モヤモヤして吹っ切れなくなる。


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