第4話 似たもの同士

 別れて数時間後に幼馴染と付き合うなんて、そんな展開あっていいものなのだろうか。

 すぐに乗り換える男などと思われないだろうか。


「でも、いいのか本当に? その……振られた俺を拾うような形でも」


 笑来も思う所があるに違いない。

 そもそも俺の事を好きかすら分からないしな。慰めで言っている可能性だって十分ある。

 別れてすぐの男と付き合うとか、周囲の目も気になるだろうし。


「私は、悠の事好きだよ。ずっと好きだった」


 俺の手を握りながら言う笑来。


「ずっとって、どのくらい」


「中学の時にはもう好きだったかな。けど、やっぱ言いにくくて」


「なんだ、同じかよ」


「うそぉ~。だって彼女作ったじゃん」


「それはだな……幼馴染と恋愛は難しくて、踏み込んでいいか分からなかったんだよ」


「もろ私と同じじゃん」


 クスッと笑う。


「だな。似たもの同士だな俺達」


「幸いね」


 お互いに目が合うと、小さく笑う。


「それにさ! 私、悠と付き合えるなら、誰になんと思われようといいの! ずっと悠の事を見て来た私にさ、周りがどんなことを言って来ても流されないしね」


「その安心感は大きいな」


「振られてすぐ付き合ったからってなんだ! 振った実心が悪い! それに実心より私の方がずっと悠の事好きだったもん!」


 胸を大きく張る。

 ずっと一緒にいるからこそ分かる。笑来がどんな人で、どんな性格で、どんなことが好きか。恋愛に関してはさっぱりだったけど、それ以外なら何でも分かる。

 そんな笑来が俺の彼女になる。


 これ以上のことはない。

 幼馴染として一緒に過ごした日々、その中に楽しくない日などは一日もなかった。

 それが、幼馴染より深い関係にステップアップするとなると、想像しただけで楽しい毎日が待っている。


 好き……と聞かれたなら、正直今はキッパリと答えられない。

 まだ実心のことを忘れられる気がしないから。つい数時間前の事だし、忘れるのには多少なりとも時間はかかる。


 だけど、笑来と一緒に過ごす事によって、遥かにその時間は短くなることだろう。

 実心のことを好きと言われればまだ好きな自分がいる。それくらい、付き合っていた時は楽しかった。


 楽しかったのは俺だけだったかもしれないが、それでもだ。

 しかし、すぐにその気持ちはなくなる。


 だって、笑来が隣にいるから。

 これまで実心と過ごした記憶をすべて塗り替えてくれるくらいに、笑来と過ごす時間は楽しいものになる。


 幼馴染だからこそ確信が持てる。

 好きという気持ちなどは、絶対にこれから芽生える。

 映画を見に行ったり、服を買いに行ったり、海やプールに行ったり。その都度見える笑来の笑顔を見れば、確実に惚れるだろう。

 なにせ、一度惚れた俺が言うんだからな。


「これからよろしくね! 悠!」


「こちらこそだよ、笑来」


 と、俺達は笑みを浮かべながら優しく握手を交わした。



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