第55話 暴走する母

「う、美味い! 美味いぞ!?」


 オムライスを口にした鎌久さんが大きな声でそんな事を言う。それはよかったが、少し目立ってしまうな。


「それはいいのじゃが、周りに迷惑じゃから、もう少し静かにするのじゃ」


「し、失礼。しかし、こんなに美味いものは初めて口にした。そして、米が赤いぞ?  茶色くない米など初めてだ。素材から美味いな」


 ……茶色い米? 玄米か? この現代に玄米?


「米は白いのが基本だと思うのじゃが?」


「む? そうなのか? 白い米か、少し気になるな。きっと美味いのだろう」


 白米すらも知らなさそうな反応。一体どこから来たんだ?


「白米もしらないとは珍しいのう。どこの出身じゃ?」


「拙者は陸奥の国出身だぞ」


 陸奥の国……? 奥州ってやつか? 昔の呼び名じゃないか?


「その呼び方は相当昔の呼び方だと思うのじゃが、お主、何歳じゃ?」


「一応18歳で成長が止まっているから18歳だな。生まれたのは1143年だがな」


 1143年? それは平安時代じゃないか? そんな生まれの人がどうして?


「平安時代じゃのう。そんな昔の人がどうして今を生きているのじゃ?」


「最近まで悪魔の力で封印されていたんだ。さっき言っていた話したい事っていうのはそれに関する内容になる」


 悪魔の力?


「悪魔の力とはなんじゃ?」


「うん? クラリカも持っているだろ? 『運命』の悪魔の力を」


 『運命』の力が悪魔の力?


 ……なるほど、つまり、『未来』の力は、悪魔の力によるもので、話の筋を取るならその悪魔に封印されていたのだろう。それで時代を超えて、問題視する事象が起きる時代に来たというわけか。


「なるほど、理解したのじゃ。ということはつまり……」


「この時代に来たばかりで何もしらないし、住む場所もない。ある程度、文化と言語は『未来』に教えてもらっているが」


 俺は頭を抱えた。住む場所がない、かぁ。それはある意味今後起きる事象よりも大変だぞ。


 鎌久さんはかなりの美人だ。多分、夜外に居るのは危険なんじゃないだろうか。たとえ強かったとしても寝込みを襲われれば大変だしな。うーむ。仕方ないか。


「しばらく妾の家に来ないかのう? 大変じゃろう? ご飯もなんとかなると思うからのう」


 俺がこの人に手を出そうものなら特定の人に殺されるし、安全だろうとは思う。


「本当か? それは助かる! そろそろ寝たいと思っていたんだ」


 三日間寝てないんだろな。俺を見つける前までふらふらだったからな。


「食べ終わったら家に向かうのじゃ。まだたくさん残っておるからな!」


「そうだったな!」


 俺がそういうと、勢いよくオムライスを食べ始める。


 そういえば、平安時代の人間なのに、スプーンの使い方がうまいな。というか、スプーンを知ってるんだな。


 多分、未来を見て覚えたか、悪魔に教えてもらったとか、そんな感じだろう。


「しかし、この料理は本当に美味いな。また食べたいものだ」


「現代には他にもおいしい料理がたくさんあるからのう。今度は他も食べに行くのじゃ」


「楽しみだ!」


 少し自慢げに俺が言うが、そんな事は一切気にせずに満開の笑顔で鎌久さんは言う。


 これからも美味いものをたくさん食べていただきたい。


 せっかく現代に来たのだから。


 食事も終え、自宅まで向かう。家族にはクラリカの事は言ってないからな。とりあえず家に入る前に変身しておかなくては。


「お主、少し待っておるのじゃ」


「む、わかった」


 俺はすぐにその場で闇を召喚して変身する。よし、これでいいだろう。


「待たせた。瀬戸 奏多だ」


「なるほど、これは……」


 鎌久さんは品定めをするような目を見せると、何かに納得したようにうなずいた。


「いい戦闘経験を積んでいるようだ。こっちの姿だと圧が違う」


 ステータスの総合値的には変わらなかったはずなんだけどな。


「そうか。じゃあうちに入ろう。さすがにそろそろ休みたいだろ?」


 三日三晩外に居たんだよな確か。


「いや、それは大丈夫なんだが……。うまい食べ物が食べたい」


 さっきオムライス1人で完食してたよな? まだ食べるのか。結構華奢な体系をしているとは思うのだが……。


「そうか、なら上がっていくといい」


「ああ、お邪魔する」


 二人で家に入ると、いつもとは違う物音からか、妹が玄関まで来た。


「ただいま、唯華」


「お帰りお兄。で、そのお方は誰なのよ?」


 妹の唯華はかなり機嫌が悪い様子だ。どうした?


「拙者は鎌久 永瀬と申す。瀬戸 唯華……さんでよろしいだろうか」


「ママ~、お兄が女連れてきたんだけど」


 唯華は相当機嫌が悪いようで、挨拶になにも返すことなく居間へ向かっていった。


「悪いな、今は相当機嫌が悪いらしい」


「あ、ああ。構わないが……。母に言いつけられているのはいいのか……?」


「まぁ最初からいう気ではあったしな。きっと大丈夫だろ」


 今から唯華と母が話す声が聞こえてくる。まぁめんどくさいことにはならないだろ。


「ついに彼女を連れてきたのね!! お母さんうれしいわ!! 今日は赤飯ね!! もうピザできてるんだけど!!」


 いつになくテンションの高い母が玄関に滑り込んできた。


 ……めんどくせぇ。


 母はそのままの勢いで鎌久さんの手を取ると、その手を激しく振りながら自己紹介を始めた。


「奏多の母の弓香よ! お義母さんって呼んでもらってもいいわ!」


「……鎌久 永瀬と申します。お母様、お若いですね」


 母の勢いに押されてか、鎌久さんがすごく普通の話かたをしている。ふつうに話せるのかよ。


「あら、お世辞がうまいのね。是非上がっていって? なんなら泊まって行ってもいいのよ?」


「それに関してお願いなのですが……しばらくここに泊めていただくことはできないでしょうか」


 その言葉を聞いた母がこちらを見る。なに? 訳アリ? とでも聞きたそうな顔だ。


 まぁ実際そのようなものだろう。なんならそういった想像よりひどい状況と言えなくもない。


「家はまぁ奏多のおかげでそこそこ経済的にも余裕あるし、全然いいわよ。なんならそのまま籍入れても……」


「落ち着いてくれ、母さん。とりあえずピザを食べよう。な?」


 鎌久さんに視線を向ける。


「ピザ……」


 そういえばピザが何か知らない、のか? まぁ知らないか。


◆◆◆


 かなり色々流したが、食卓に着くことができた。唯華はすでに部屋に戻ってしまった。


「奏多殿、これはどうやって食べれば?」


 鎌久さんは俺に食べ方を聞いてくる。


「この部分、まぁ耳っていうんだが、そこを持って先端部分から食べるんだ」


「そうか! 感謝する」


 母さんはキッチンからにやにやしながらこちらを見ている。ちなみに父さんだが、まだ仕事中である。

 

 鎌久さんは慣れない手つきでピザを口に運ぶ。一口食べた鎌久さんの目の色が変わる。


「これは、美味い……! いくらでも食べれてしまいそうだ!」


 鎌久さんは慣れないながらも上品にピザを食べていく。俺はオムライスのおかげか腹は膨れているので、つまみぐらいしか食べていないわけだが、いつの間にか、一枚消えていた。


「いくらでもあるから遠慮せずに食べてね」


 どこから出してきているのかわからないが新しく2枚のピザが出てきた。そこそこ本格的だが、小さめの。


「なくなってもまだ食べたいようだったら作るからね」


 母さんの手作りだったらしい。


「ありがとうございます。お母様」


 鎌久さんは母さんの前だと普通に敬語を使うことに決めたらしい。母さんはそう言った後、俺の方に近付いてきて耳打ちをしてくる。


「どこかのお嬢さんなの? 彼女、結構箱入りじゃない?」


 鎌久さんのもともとの家についてはしらないな。なんて答えればいいか……。

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