第54話 未来と運命
「瀬戸 奏多殿、というのが正しいであろうか」
続けて放たれた女性の言葉に俺は驚愕する。また正体がばれている相手が増えた。もしかして隠すの下手なのか? 俺は。
「そうじゃが、この姿の時はクラリカと名乗っておるのじゃ。今はそう呼んでくれ」
「了解した。拙者は今は鎌久……永瀬と名乗っている」
鎌久 永瀬、か。少し珍しい名前をしているな。それと、なぜこんな普通の日に和装を着ているのかが気になる。そういう家で過ごしているのだろうか。
すると、次の瞬間に鎌久さんのお腹の音が辺りに響いた。
「す、すまない。もう三日三晩何も食っていなくてな……」
「なら今から何か食いに行くのじゃ。何か話があるんじゃろう?」
俺を探していたみたいだしな。きっと何か話があるのだろう。三日も何も食べていないなら、食べながらの方が話しやすいだろう。
「いいのか? すまない、クラリカは優しいんだな」
「苦労している人が居たら助けるのが当然じゃろう? 困ったときはお互い様じゃ。事情等は深くは聞かんから、とりあえずゆっくりご飯を食べるのじゃ」
そういうわけで、鎌久さんを連れて俺は近くの飲食店に来た。ここはオムライスが評判のようだから、それを二つ注文した。
「おむらいす、とはなんだ?」
オムライスを知らないのか? 今の世代で知らないなんて、相当厳格な家で育ったのかもしれない。もしかしたら口に合わないかもしれないな。
「知らないのじゃな? 口に合わなかったら申し訳ないのじゃが、いってくれ。他の店で何か食べるのじゃ」
三日も何も食べなかったのに久しぶりに口にする食べ物が口に合わないってのは可哀想だしな。というか三日も何も食べてないのに痩せてる様子とか、辛そうな様子はあまり見受けられないな。一体なぜだろうか?
「本当にすまない。拙者は食わず嫌いなどはしない故、安心してほしい」
「それなら大丈夫じゃ。それで、本題に入ろうではないか。なぜ妾を探していたのじゃ?」
そして、俺の正体を知っていたのがなぜなのか、そこが気になるな。
「そうだな。本題に入る。まず、クラリカの事を探していた理由は、クラリカが『運命』の力を持っているからだ」
運命の力? 特にそんなものを持っているという自覚はないが。
「そんな大層な力は持っていないがのう……」
ランダムブレスは運命の能力かといわれるとしっくりこないしな。
「いや、持ってはいる。片鱗をだ。拙者も同質の『未来』の力を持っているからわかる」
そう言われてもわからないものはわからない。しかし、その能力を持っていると仮定して、なぜ今俺に会いに来たのか。それも不明ではある。
「その能力を持っていると仮定してじゃ。なぜ今妾に会いに来たのじゃ?」
「備えるためだ。これから3度訪れる危機に。その危機から日本、世界、そして宇宙を守るために」
3度訪れる危機。それは一体何を表しているんだ?
「その危機の詳細を聞いてもよいかのう?」
「構わない。一度目の危機は未曾有の迷宮大氾濫だ。日本全土のダンジョンで同時多発的に起こる。そして二度目。世界最大の犯罪組織が世界を壊そうと動く。三度目の危機だが、天使がこの宇宙を滅ぼそうとする。それが拙者が知っている未来の大きな出来事だ。これ以上の詳細を知ることはできない。未来は常に変わるものだからな。しかし、この3点の危機が訪れることはすでに確定した未来だ。それに備えるために、拙者と相性のいい運命の能力を持つクラリカをさがしていたんだ」
待ってくれ。情報量が多すぎる。未曾有の大氾濫。これは確かに起きる可能性が高い。最近のスタンピードの頻度を考えればこれの兆候だったとしてもおかしくはないわけだ。
これに信憑性があるおかげで残りの二つの危機に関しても完全に否定することができない。確かに、対策を考えなきゃいけない案件ではある。
しかしだ。
「それは妾たち二人の備えだけで変わるものなのか?」
はっきり言って他人には信じてもらえない話だと思う。俺もにわかには信じがたいと思っている。しかし、俺の勘が言っている。おそらく、鎌久さんが言っていることは本当だと。
「大きく変わる。拙者とクラリカの能力は相性がいい。臨界点を使えれば、天使にだって余裕で対抗可能なはずだ」
臨界点? 多分能力のステージの名称だろうな、話の流れからして。
「力の使い方については、教えてくれるのかのう?」
「できうる限りはな」
ならば、協力する価値はあるのかもしれない。まだわかっていないことは多いが、おいおいわかっていくだろう。
普段の俺なら、こんな唐突な話でうなずくことは無いが、俺の中の何かも言っているのだ。本当の話だから備えた方がいいのだ、と。
「ならばよい、手を組むのじゃ。日本、世界。そして宇宙を守るために!」
「ありがとう、クラリカ。そういえば聞きたいことがあるのだが……」
と、鎌久さんが言いかけた所で、ついにオムライスが席に届いた。
俺たちは顔を見合わせて苦笑いすると、「続きの話は後にしよう」ということで、オムライスを食べ始めた。
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