閑話『学び』

 Aクラス探索者になって初めて、俺は自分の能力が使えないという状況に立たされている。Aクラスになってから、ではないな。探索者になってスキルを手に入れてからずっと、俺はこの能力と共に過ごしていた。


 それが何の冗談だろうか、目の前の少女と対面した瞬間にずっと共に戦ってきた能力が使えなくなった。


「マジかよ……」


 俺の前には相手の少女が作りだしたのであろう矢の群れが浮かんでいる。俺と全く同じ魔力の質。しかし数が桁違いだ。俺が同時に出せるのはせいぜい20~30。


 今目の前には数えきれないほどの矢が舞っている。あの量を精密操作なんて、俺にはできない。


 まさか俺の能力の上位互換なのか……? しかしそれなら俺がいまスキルを使えなくなっている原因はなんだ?


 可能性として上がるのは相手の少女の能力が、相手の能力を奪う能力であるという事。


 しかしそれならあそこまで俺のスキルを使いこなしている理由がわからない。俺のスキルはかなり技術が必要で一朝一夕で使えるものではないからだ。


 俺ですら使いこなせていないのに奪ったばかりで使いこなせるはずがない。


「行きますよ但木さん!!」


 相手の少女、河野 美咲からの声と同時に、矢が俺に向かって飛んでくる。


「かかってこい新入り!」


 啖呵を切ったはいいが、俺の矢と比べて弾速が速い。こういう時に自分の速度のステータスが高くてよかったと思う。ステータスだよりではあるが、躱せる。


 矢を一本躱したと思ったその時、その矢が着弾した地面が爆発した。マジかよ!?


 吹き飛ばされるも空中で体勢を立て直して着地する。完全に俺の上位互換だな、彼女は。


 俺が勝っている点といえばステータスくらいだ。この試験では、俺がステータスでゴリ押しするしかないな。


「但木さんの能力、使い勝手いいですね」


「なるほど、そういうことか」


 きっと俺の能力を奪って使用しているんだろうな。しかも強化されてる始末だ。俺は困ったときの癖で頭を掻いて、そのまま少女に接近する。


「ステータスと経験は奪えないみたいだな!」


 そう言って正直憚られるが物理的に殴りかかろうとすると、目の前から少女の姿が消えた。


「こっちですよ」


 背後から少女の声がする。いつの間に? 俺のステータスをもってしても全く追いつけない、というか認識すらできない速度だった。


 ……そういえば移動する直前に背後に矢が突き刺さる音が聞こえた気がするが。もし俺の予想が当たっていれば、さすがに俺の能力は強化されすぎだ。


「どんどん行きますよ!」


 少女の号令と共に舞っていた大量の矢が俺に向かって降り注いでくる。一発一発が爆発する矢だ。正直言ってまともに喰らいたくはない。


 俺は矢の軌道を読んで避けながら直接攻撃を狙って少女に近付いていく。あの少女に戦闘経験がないおかげで予測可能な矢しか飛んでこなくて助かった。


 雨のように降り注ぐ矢を全て躱しながら少女に接近するが、攻撃を加えようとする直前で消えるように移動されてしまう。


 これじゃあ千日手だな……。どうにか現状を打破できないものか。


 そう考えているうちにいつの間にか、地面が光りだしていた。これは一体なんだ?


 まるで俺を中心として結界が張られているような、そんな感覚に陥った。なにか、嫌な予感がするな。


「集中砲火!!」


 彼女の合図で、俺に向かって集中的に矢が向かってくる。先ほどと同じように躱そうとするが、その矢は光に接触した瞬間に加速した。


 速い! ダメだ、間近で爆風はもらってしまう! 加速するくらいだ。この光には矢を強化する何かがある。


 俺の予想は見事に当たり、先ほどよりもかなり大きな爆風に襲われる。痛ってぇ。


 だがまぁ、やられるほどではなかったな。ステータスのおかげだ。あの少女とステータス差がなければこちらがぼこぼこにされていた。


 さすがにこれが奥の手だったのか、ついに俺の中のいつもの感覚が戻る。使えるぞ、俺のスキルが。


 使えるようになってすぐさま、俺はこのスキルの深いとこまで、理解の深度を深めようとした。あの少女が使用して見せた爆発。そして瞬間移動。それが俺の力でできるのかどうかを。


 今の俺のスキルの扱いかたでは、着弾と同時に爆発する技術は再現できないが……。


 もう一つ、俺が予想していた能力は……。


「もう、限界か?」


「いいえ、まだステゴロで……」


「まぁ俺は能力使うけどな?」


 俺は手をかざして、矢を発射する用意をする。


「戦って見せますよ」


「その意気やよし」


 俺は少女に向けて矢を飛ばす。


「それくらいなら私でも回避できます」


 少女は俺の矢を避けて見せるが、その矢が避けられた瞬間に俺はその矢の軌道を操作して、即座に地面に着弾させた。


 これであれが使える。


 その矢が着弾した瞬間に俺の視界が切り替わる。


「教えてくれて、ありがとよ」


 俺は少女の首に手刀を落として気絶させる。スキルが使えるなら、こんなもんか。しかし、あの蜘蛛ほどではないにしろ、ここまで俺を追い詰めるとは、最近の少年少女は恐ろしいな。吉野さんも新人Bクラスと引き分けになったらしいし、俺は彼らに抜かされる前にSクラスになることができるだろうか。

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