第53話 解析者と魔法の矢
5分以上たってしまうと、特に戦闘向きの能力を持たず、ステータスもまだそこまで高くない河野さんだと少し厳しい状況になる。それまでどう戦えるかが勝負だ。
解析者でものにした能力を確認したであろう河野さんは攻勢にでる。空中にたくさんの魔力でできた矢のようなものを浮かべ、それを魚の群れのように動かす。
あっけにとられた顔をする但木さんに向かって一本、また一本と魔法の矢が飛んでいく。但木さんは、軽くそれをかわすが、その矢が地面に着弾した瞬間、爆発した。
その爆発は但木さんを少し吹き飛ばすも、但木さんはダメージを受けた素振りを見せず着地する。
着地と同時に河野さんに向けて手をかざす但木さんであったが、何も起こらなかった。まぁ能力は使えないしな。
頭の後ろを掻いた但木さんはそのまま高速で河野さんへ接近する。しかし、河野さんの姿は一瞬にして消えた。
「見えた?」
「いや、見えなかったのじゃ」
俺たちには一切視認することができない速度で河野さんは別の場所に移動したのだ。但木さんの背後に。
もはやテレポートといっても差し支えないレベルの高速移動。一体何をしたんだ?
但木さんの能力の一部なのだろうか。それにしては但木さんも驚いた顔をしているし、違うのかもしれない。
ならばこの力は一体なんだ? 次の瞬間、幾つもの矢が但木さんへ降り注ぎ、爆発、そして閃光を作り出した。
しかし依然但木さんにダメージは見えない。やはりステータスが足りないか。まぁ普通の試験ではダメージは入らないのが普通なんだけどな。
しかし但木さんの能力の燃費は異常なほどいいんだろうな。魔力系のステータスが1000オーバーくらいだった河野さんでも、あれだけの事が出来て、さらにまだ空中に大量の矢が舞っている。
河野さんはそろそろ効果時間が終了するからか、一層激しく矢を但木さんに飛ばしていく。爆発の合間を縫って瞬間移動を繰り返す河野さんを追う但木さんのその様子はまるで特撮映画のワンシーンのようであった。
次の瞬間、突如として地面が光り始めた。但木さんは何事かといった様子で辺りを見回す。その光は但木さんを中心とした円形で、その端には矢が正六角形を形作るように地面に刺さっていた。
その光の中に入った矢は速度を増して、目に見えるように爆発も強力なものとなった。結界の類なのか?
そんな気がするな。河野さんはこれで最後だといわんばかりに浮かべていたすべての矢を一斉に但木さんに向けて照射した。
大量の矢が爆裂し、今までとはくらべものにならないほどの大爆発が起こる。
大量の土埃が舞い上がり、二人の姿は見えなくなった。煙が晴れてきたころ、ついに矢の能力が戻った但木さんが、河野さんに向かって手をかざし、何か声をかけていた。
但木さんの体からはかなり煙が上がっている。それなりのダメージは入ったのだろう。
但木さんはかざした手から一本の矢を放つ。かなり直線的な矢だったために、河野さんは回避できた。しかし、次の瞬間河野さんの前方に居たはずの但木さんが河野さんの後ろに立っていた。
振り返ろうとする河野さんの首を但木さんが叩く。これで河野さんは気絶。そこで映像は終了した。
「これは合格してそうだね」
「そうじゃな、合格は確実じゃろう」
ここまでやって合格してないわけがない。しかし、最後の矢と移動を見る限り、河野さんが使ったのは但木さんの能力で間違いなさそうだ。どれだけ但木さんがあの能力を使いこなしているのかは知らないが、爆発する矢、瞬間移動する矢は初見であるかのような反応をしていた。
そこから察するに、河野さんの解析者で手に入れた能力は、持ち主の練度関係なく、最高練度で使えるのではないだろうか。
前に統率のスキルで強化をもらった際も、念話というものを使っていたが、ゴブリンジェネラルの部下はまるで念話で統率を取るような行動を見せなかった。ゴブリンジェネラルは多分念話を使えないのだろう。
やはり河野さんを仲間にしてよかった。かなり強力な能力だからステータスが伴えばSクラスにだってなりえるだろう。
まぁ、人物としての河野さんと俺が合うかどうかは置いておいて、いい仲間を持ったものだ。
後で合格を祝ってやらないとな。合格だったって情報も公式サイトに書かれていたし。
「彩佳、河野さんについてはどうおもったか聞かせてもらってもよいかの?」
「解析者だったっけ? 本当にすごい能力だから、仲間でよかったなと思うよ」
彩佳からもかなりいい意見をいただいた。
その後、今後の展開について話し合ったあと、すこし暗くなってきたところで彩佳の家を出た。直前に彩佳のお母さんと会って挨拶もした。
かわいい友達を持ってよかったねと彩佳に言っていたので普通にいいお母さんなのだと思う。
その後、青森の中を歩いていると、なぜか急に神社に祈った時の事を思い出した。そうだな、久しぶりにあの神社にもう一度行ってみよう。あの神社で祈ったおかげでこんな能力を授かったといってもいいのだからな。
そしてその神社に向かう途中、長い髪を結んだ、和服を来た女性が道端の塀で体を支えながら歩いているのを見つけた。その女性は俺と眼があったとたん急にこちらに走ってきた。
「なんじゃ? 妾になにかようかの?」
「ついに見つけた。『運命』の……!」
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