閑話『雷撃戦士の苦悩』
俺は雪花 竜二。日本でSクラス探索者をしている者だ。今、Aクラス昇格試験の試験官をしているのだが、今の俺には過去最大のピンチが訪れている。
新しくAクラスになろうとしているお嬢ちゃんの攻撃方法、これが一切わからない。先ほどから勘だよりで攻撃を避けているが、当たれば大きなダメージになる上、不可視だ。どうすれば反撃できるかわからないのが正直言ってきつい。
このままただ避けるだけだと体力勝負になってしまう。それは試験官として避けなければならない事態だ。なんとかして攻撃を通したい。
「まぁこういうときはお約束のAoEだよな」
俺は不可視の攻撃を避ける度に自分を中心として雷の範囲魔法を放つ。単純な放電ではあるが、当たれば効果があるはず。
しかし、俺の放電は何度放っても効果を得られた様子はない。まさか、当たり判定すらない透明化の能力でもあるのか?
そもそも男のロマン的な能力してるくせにそんなに戦闘でも活用できるのかよ。ずるじゃねぇか。
ダメ元で範囲を拡大していってみるが、当たりそうな様子は微塵もない。なんなんだ一体。殺気をうまく隠せていないところは弱点だけどそれ以外が強すぎる。
最終的に俺の限界範囲ギリギリまで放電したところで攻撃が止まった。効果あったか?
すると、少し離れた木々の先から魔力の膨張を感じた。相当な魔力量。この魔力を使った魔法は相当な威力だろう。下手に喰らえば即アボンだ。
その魔力の塊がついにこちらに向かって飛んでくる。青白い光の魔法。
俺の予想だがあれは見えている場所だけに当たり判定があるわけじゃないな。おそらく、あれを中心に広範囲の弱攻撃判定がある。
下手によけてその弱い攻撃を喰らってダメージを負うより、正面から迎え撃った方がかっこいいだろ。
俺は槍に雷を流し込み、その雷を解き放つ衝撃でその魔法との相殺を試みる。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
この魔法単品でSクラスの魔物にも致命傷を与えられる威力。Aクラスの試験を受けにくる実力じゃないっつーの!
俺はさらに槍に魔力を流し込んで、ついにその魔法を相殺する。威力高すぎなんだよこの野郎。さすがにもう魔力ないだろ。
すると次の瞬間、一向に姿を見せなかったお嬢ちゃんが剣で俺に斬りかかってくる。得物は剣か。なら槍を使う俺に一応の有利があるな。
そこそこダメージを負った俺とあれほどの魔法を撃ったのにも関わらず万全な状態に見えるお嬢ちゃん。
まずいよな、これ。仮にもSクラスなんだよな俺。威厳を保つにはさすがに奥の手を使う他ないか。
「雷撃武装!」
俺の尊敬する人、紅さんからインスピレーションを受けて開発した俺の奥の手。今まで使う機会がなかったから使っていなかったがついに使わされることになるとはな。
俺はすぐさま槍でお嬢ちゃんに攻撃を加える。耐久力のテストだ。一撃で死亡するようであれば減点だが……。
俺としてもこれで終わってくれると楽なのだが……。
さすがにそうはいかないな。俺の速度に対応してしっかり剣でガードしてやがった。
「迫雷!」
雷の弾丸を追撃として飛ばすが、速攻で回避される。弾速結構早いはずなんだけどな。俺はお嬢ちゃんが雷の弾丸を回避した先に移動すると、お嬢ちゃんの脳天に向けて、魔法を上乗せした槍を叩き落とす。
俺相手にここまで立ち回れた時点でAクラスとしての素質は十分だ。これ以上は点数のつけようがないし、ここからはこの戦いを終わらせるために立ち回る。
つまり、本気で潰しに行く。
Sクラスとしてのメンツもあるからな。間違っても負けることなんてできないしな。
「網雷!」
俺は地面に触れ、蜘蛛の巣状に魔力を流す。次の瞬間、魔力にそって雷が地面から発生する。地面が蜘蛛の巣状に砕けていく。相変わらずあの人の能力で作られる世界は現実の再現度が高い。
移動速度が早くても範囲攻撃ならとらえられるかと思ったが、まぁ無理だったな。網雷はしっかり躱された。
さて、こっからどうしようか。お嬢ちゃん、速度が異常だからな。遠距離攻撃だとまず当たらない。
まぁそれなら距離を詰めて近距離戦を挑むだけだけどな。
俺は雷撃武装によって強化された速度を生かしてお嬢ちゃんの前に一瞬で移動する。できればこの一撃で勝負を決めたい。槍に今まで以上の魔力を流し込み、突きと同時に放電する。しかし、その突きは地面に叩き落とされ、地面に電気が持っていかれた。
今、何が起きた? 次の瞬間、俺の体が袈裟切りにされる。馬鹿な! あまりにも剣を振るう速度が早すぎる。圧倒的な技術だ。俺の槍術よりも圧倒的。技術に関してはSクラスを余裕でしのぐ。
まだ傷は浅く、ここで俺が死ぬことは無い。しかしだ。これで近距離戦も俺が少ししんどいことが分かった。完全に技術面で負けている。俺の槍がお嬢ちゃんに届く事はないだろう。
しんどいぞこれ。どうしよ。まじでどうしよう。大人げないが、あれをやるか。
「万雷!」
俺の魔力を全て使って、雷の球体を生成する。俺の奥義的な魔法だ。この森を更地にしてでもお嬢ちゃんを倒す。
俺の魔法は一瞬にしてこの森のステージ全体に広がり、全ての木々を焦がしつくした。
更地になったこの森の中に、立っていたのは俺だけだった。
危なかった。マジで。なんだよあの嬢ちゃん。もうあんなのとは戦いたくないわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます