閑話『銀の結晶の失態』
この世界にステータス、スキル、ダンジョン産の武具がもたらされるようになってからそれを利用した犯罪がこの世にあふれ出した。魔石という希望を与えたのちに混乱を与える。まさにパンドラの箱といえるのがダンジョンだった。しかし、日本という国ではダンジョン効果を持ったものによる組織的犯罪が抑えられている。
警察庁特殊犯罪対策課。ここに所属するある1人の男がこの日本の均衡を保っている。その彼の能力は……。
「今日はどこへ?」
ある男の自宅。彼が電話をとって発した第一声はそれであった。
彼の名は
『Bクラス探索者同士で喧嘩が起きていると石川県の探索者協会から通報が……』
「それ、僕がでる必要ある?」
『両者とも前途有望だからできるだけ怪我を負わせたくないとのことです』
「なるほど、それなら僕が正解……。だけど今回犯罪なくない?」
本来組織としての所属は警察であるが、形態はダンジョン関連の解決等々多岐にわたる。
『未然に防ぐのも仕事です』
「あっそ。じゃあいつもの頼むよ」
『了解しました。<
菱明の視点が自宅から開けた土地へと切り替わる。そこでは2人の探索者と思われる人達が能力を使用して争いを続けていた。片方は風系統の能力でもう片方は……。見たところ重力操作だろうか。
「なるほど、こりゃ前途有望だ」
耳をすませば彼ら二人が言い争う声が聞こえる。
「だから僕は休息が必要だと言っているんだ!」
「俺ならまだ能力も使える! お前に合わせてもらう必要なんてない!」
彼らの声を聴きながら、菱明は思う。これ、当人同士で解決できる奴だし、その方がよくないか?と。しかしこれも仕事だ。菱明は彼らの元に歩いていく。菱明は決して強くはない。彼らの能力にまきこまれれば一撃で死亡確定だろう。巻き込まれればの話だが。
「休め!」
「休まん!」
重力操作で浮いている岩石が一斉に風の魔法使いの元へ飛び、風の斬撃で粉砕される。まるでアニメのワンシーンのようなその光景をみながら身体能力は一般人の菱明は歩んでゆく。
もう一度重力系の能力者が地面を砕き割り岩を作り出そうとしたところで菱明は能力を発動する。
「そこまでだよ君たち。『
彼の周囲に一陣の風が吹き、世界が変色する。彼らの方を向いていた世界が表情を失う。途端に風はやみ、浮いていた岩は落ちる。
「「能力が発動できない!」」
そう。彼、菱明のスキルは世界のルールを砕く。彼の砕いた世界の中では、誰一人として世界のルールの恩恵にあずかることはできない。彼は唯一、この世界最強の探索者、紅 司を殺せるかもしれない男だ。
「さて、少しは落ち着いて話をしたらどうだい? 君たちは」
菱明は先ほどの話を聞いて、彼らが自分で解決しないと再発すると思ったようである。能力を封じられて落ち着いたのか、彼らは素直に話あいを始めた。
「君、最近体調がよくなさそうじゃないか。僕は君に休んでほしくて」
「心配はいらん。ただ最近は情報を大量に仕入れているから寝不足なだけだ」
「な、なんだって! 最近妙にニュースの話とかしてくれるから助かってたけど、そういいうことなら話してくれればよかったのに」
どうやら解決しそうだなと菱明が安心していると、沢辺からの連絡がはいる。
「今度はなんだ?」
菱明は、また<転送>されるのかと身構える。<転送>は船にのるような感覚になるため彼はあまり好んでいないからである。
『いえ、解決を確認したので次の依頼……。通報です。近々犯罪組織の密会があるとのタレコミです。どうやら国際能力者犯罪組織<
<
「依頼って言ったよな今……。まぁいいや、取り合えず行くわ。取引でもあろうものなら大変だ。僕が止める」
『承知しました。<転送>』
菱明の見ている景色が荒地から、北海道、小樽市の運河の近くに変わる。いい眺めだと菱明は思うが、今はそんなことを考えてる時間はない。
『情報によると、今から三時間後、埠頭付近で取引が行われるということです。』
「了解。潜入して『
菱明は計画を立て、先に埠頭に潜入しておく。しばらくして、左手側から外国のマフィアのような人が数人、右手側からヤクザが数人、向かってきた。
『I’ve been looking forward to meeting you. (君に会うのを楽しみにしていたよ) 』
今しゃべった外国人がどうやらリーダー格のようだ。対してヤクザのリーダー格が前にでる。
「こちらこそじゃ。よく来たの」
二人のリーダー格を見て菱明は思う。どちらも手配書で見た顔であると。片方は<倭新組>十隊長、登坂 正彦。もう片方は<銀の結晶>六星、ノア・キャンベルズ。両組織ともに今回の取引を重要視し、重役を派遣したようだ。
『では早速、物を見せてもらおうか』
「これじゃ」
登坂はなにかケースに入ったものを差し出す。キャンベルズはそれを確認して、へぇ。とだけ言うと、それを部下に持たせた。
「それでは金を渡してもらおうか?」
『何を言っている? 君らに払う金などないぞ?』
「なんだと!?」
『そもそも、お前たちと手を結んだところで、紅と長谷部がいるこの国に手はだせん』
どうやら、海外の犯罪組織でも菱明は紅に並ぶほど有名らしい。そこで、菱明は、準備を完全に整えた。
「お呼びかな?君たち」
「お、お前は!?」
『おっと、これは想定外...。<シャドウハイ...』
「させないよ。『旧世界』」
キャンベルズが逃げようとしたところで菱明は『旧世界』を発動し、能力を無効化する。
『くっお前たち!銃を!』
「お前たちもだ!」
先ほどまで喧嘩しそうな雰囲気だった彼らがいつに間にか連携して現代兵器を使おうとしている。
『銃が撃てません!』
「こちらもです!」
しかし、現代兵器がその火を吹くことはなかった。
『何故だ!?』
「ここは僕の旧世界。あるべき闘争は己の身体能力によってのみ決まる!!」
菱明は駆け出し、まずはヤクザの下っ端を吹き飛ばす。ステータスの無効化は菱明にも適用されるため、完全に同じ条件下だが、菱明は武術の達人。この場にいる誰1人彼の動きを目で追えなかった。
「クソ! 逃げるぞ!」
「逃がさないよ」
時間にしてものの数分。ヤクザ側は全員制圧された。
「おや、まだ逃げてなかったのかい?」
菱明は煽るような口調でマフィアに問う。
『貴様が何かしたんだろう!?』
菱明の旧世界は外界から完全に隔絶されている。つまりは、逃げようがない。この旧世界は指定された範囲しか存在しないからだ。
「じゃあこれで終わりにしよう」
菱明はマフィア全員を投げ、殴り、蹴り飛ばした。なすすべもなく、マフィアたちは地に臥した。
「ふぅ、これで終わりだね」
菱明が手を払うと、旧世界が消滅する。周りには先ほどまで取引をしていた全員が転がっている。
「もしもし? 終わったよ。次の仕事は?」
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