第51話 Aクラス昇格戦

 俺は予約を済ませた後、すぐに河野さんと別れて家まで帰ってきた。いつ彩佳の昇格戦の配信が始まってもいいようにな。探索者協会公式のサイトを開いて待機していると、彩佳から連絡が届く。


『Aクラス昇格試験、受かったよ』


『そうか! おめでとう!』


 そうか、配信は編集が終わってからだから先に試験の結果が分かるんだもんな。なるほど、合格したのなら闘いにも期待が持てる。


『彩佳~儂は疲れたのじゃ~。ポテチをくれ~』


 食いしん坊モードのロゼリアがそういった。きっとロゼリアも活躍したんだろうな。これはしっかり活躍を見てあげなければ。


『わかった。じゃあそういうわけだから、時間あったらパーティーしようね。また後で』


 彩佳との念話が切れる。しかしロゼリアと彩佳、どっちが年上かわからなくなるな……。ん? 勝手にロゼリアの方が年上だと思っていたが、一体何歳なんだろう。聞いたことがないな。後で聞いてみるか。


 相変わらず公式サイトの前で待機をしていると、ついに動画が公開された。


 どれどれ。俺はその動画の再生ボタンをクリックして、再生を始める。すると、青々とした森が映し出される。今回は森なのか。そして昇格試験の相手のSクラスは……。雪花 竜二さんか!


 雷系統の能力を持つ日本で13番目にSクラスになった人だ。確か年齢は今年で26だったはず。スラッとした体格のイケメンで、竜二という名前にそぐわずダメージジーンズを着こなすロックなファッションで人気がある。


 名取さんほどではないにしろ、国内では有名なイケメンである。……彩佳の相手はしてほしくなかったな。


 そして次の瞬間にロゼリアが竜二さんの前に現れる。竜二さんには見えてなさそうだ。ロゼリアが拳を振り下ろすと、何かを感じとったのか、竜二さんはその場から飛びのいた。


 ロゼリアが竜二さんに近付いていく。彩佳もなかなか狡猾な戦術を使うものだ。自分は見つからないところに隠れて、不可視のロゼリアに自分の攻撃を共有させて戦うとは。


 竜二さんは何かを察したのか、得物である槍を取り出して空に向けて振るう。勘だよりの攻撃だ。透明化する能力を使った彩佳がそこに居るとでも思ったのだろう。しかし、実際攻撃を仕掛けているのは実体を持たないロゼリア。攻撃をいくら振るおうとも絶対に命中することはない。


 ……ロゼリアが見えなければどうあがいても勝てないんじゃないか? あまりにもえぐすぎる戦術だ。しかし見えない攻撃をよけ続けている竜二さんも竜二さんだな。勘が鋭すぎる。


 ついに竜二さんがしびれを切らしたのか、雷を使った範囲攻撃を始めた。実体を持たないロゼリアには当たらないが、竜二さんは少しずつ範囲を広くして雷を放つ。


 このまま広がり続ければ、いつかは隠れている彩佳にあたってしまう。


 彩佳はどうするんだ?


 すると、彩佳はこのまま続けても回避され続けるだけで埒が明かないと思ったのか、ロゼリアを自分の元に戻らせ、体の主導権をロゼリアに渡した。


 体の主導権を受け取ったロゼリアはすぐに、右の瞳に五芒星を浮かびあがらせる。ロゼリアが一発が限界と言っていた技をいきなり使うつもりらしい。まぁ手の内を見せきれなければ、消化不良の試験になってしまうしな。


 ロゼリアが放つ魔法は、森の木々を軽々となぎ倒し、竜二さんの元に迫る。


「おおー!!」


 思わず感嘆の声が出てしまうほど強力で派手な魔法。


 竜二さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに槍に雷を纏わせ、ロゼリアの魔法を正面から迎え撃つ。竜二さんの体のところどころから煙が上がり始める。この試験場の世界における怪我の代わり。Sクラス相手にかなりのダメージを与えたロゼリアはすぐに主導権を彩佳に返す。次の瞬間、彩佳は高速で竜二さんの前に躍り出る。


 彩佳は大技を喰らって疲弊している竜二さんに容赦なく剣で攻撃を仕掛ける。しかしそこはSクラスの意地か、竜二さんは槍で彩佳の剣を受け流す。


 加速が入った俺ほどではないが、彩佳は相当速いはずだ。ダメージを負っていてそれを受け流すとは、さすがSクラスといった感じだ。


 しかし、前半のロゼリアの不可視の攻撃のおかげか、蓄積した疲労もある。見えないものからの攻撃をよけるのは精神的にも大きな負担になったようだ。


 次の瞬間、状況が一変する。竜二さんの体を雷が覆い、雷の鎧のようなものを形成する。


 奥の手だろうか。あんな変身ができるなんて、取り上げられている様子は見たことがない。その姿の竜二さんは今までよりも数段上の速さで動き、彩佳に一撃を加え吹き飛ばした。


 彩佳はしっかり剣で防御していたようで、飛ばされた後もしっかりと受け身がとれていた。


 まだまだ勝負はここからだといわんばかりに、竜二さんが槍を振るう。というか、槍に鎧ってどこかで見たことあるなと思ったら紅さんの暗黒武装じゃないか?


 よく見ると、様々な部分で紅さんへのリスペクトが見受けられる。どうやら、竜二さんほどの人でも、紅さんにはあこがれるものらしい。

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