第49話 河野さんの変化

 翌日、学校が始まると、河野さんの変化っぷりに皆が驚いていた。それもそうだろう。地味だった少女が土日の間に劇的にかわいらしくなっていたらそれは驚くだろう。


「河野さん、急にかわいくなったけどどうしたの?!」


「連絡先交換できないかなぁ」


 それぞれが大きく彼女に反応を示し、なんとか接点を持とうとしていた。特に男子ではあるが。


「なぁなぁ、河野さん、マジかわいくね?」


 前の席の和人が後ろを向いて話かけてくる。そんな事言ってるとまた、はなさんに怒られるぞ?


「そうかもなぁ」


「これはうちの学校を代表する美少女の一人になるな! いやー同じクラスに成れて眼福だわ~」


 和人はもう少し自分の彼女に対する察知スキルを上げた方がいいな。後ろに般若の形相をしたはなさんが立ってるぞ。まぁ面白いからもう少し見てるか。


「はなさんも同じく学校を代表する美少女だろ? そんな人とお付き合いできてるんだからそれで充分じゃないか?」


「いや、はなは当然かわいいし美しいし愛してるけどな? ゲームで推しが複数いるみたいなもんだよ」


 ゲームや推しといった言葉が和人から出てくるとは少々意外だったが、今のセリフで少しははなさんの機嫌が良くなったのか、般若の形相から怒り顔へクラスダウンしている。


「私に対しての気持ちは分かったけど、私だけを推してなさいって前も言ったと思うんだけど」


「うおおう!?」


 ついにはなさんが和人に声をかけた。和人の驚き方と言ったらそれは面白かった。毎回なにか話題がある度にこの二人は毎回こんな事をしている。


 もはや俺を笑わせに来てるんじゃないだろうか。あまり表情が変わらないといわれているみたいだし、この二人が漫才のような感じでやっている可能性はなきにしもあらずか。


 ……ないか。


「毎度毎度。家に帰ったら教え込んでいるというのにあなたは何度もやるんだから……」


「ちょっとはな? その話はやめて?」


 ……この二人、もしかして一緒に住んでいたり? いや、深入りはよそう。あまりいい結果は待っていない気がする。その後も二人が言い合っている裏で、河野さんへの質問ラッシュは続いていた。


「河野さん、なんで急にそんなに見た目整えたの?」


「教えて教えて!」


 女子に囲まれている河野さんは慣れていないのか、緊張しながらも質問に返答していった。


「えっと、恋ってやつ、ですかね?」


 俺や彩佳にはタメ口であったから、話せる人は限られているんだろうな。それはそれとして河野さんのは恋と呼んでいいんだろうか。


「え、彼氏できたの?」


「いや、その、告白はしたんですがね……」


 河野さんがちらっとこちらを見る。ちょうどいい。俺も俺のことは言うなよという念を込めて視線をかわす。河野さんは何やら察したような顔をする。


「保留ってこと!? 河野さんかわいいのに信じられない!」


「いやぁ、それが半分振られてまして……なんとか頼みこんで考えてもらっている状態です」


 なんか俺が悪いみたいな感じになりそうでいやだな。皆さん、そいつストーカーですよ。河野さんが振られたという話を聞いて他の男子たちが一斉に安堵したような顔をする。自分に正直だね君たち。


「そんな人じゃなくて他の人にしたら?」


 今質問をしている女子生徒の一人は何やら俺に対して怒りを感じているようなのか、他の人を薦めている。俺からも他の人をおすすめします。


「どうにもならないくらい惚れ込んでるんで無理ですかねぇ」


 河野さん、よくそんな話をクラスでできるよな。あ、男子たちが落胆している。


「それはなかなかだね……。ところで河野さん、連絡先交換しない?」


「あ、ハイいいですよ」


 河野さんは順調にクラスの人と仲良くやれてそうだな。中学のころはクラスの人に好かれていなかったと言っていたからなじめなかったらどうしようかと勝手に思っていたがどうやら大丈夫だったらしい。


 ちょうどチャイムもなって授業も始まるな。もう河野さんを気にかけずとも大丈夫だろう。


◆◆◆


 土曜日の朝九時。俺は待ち合わせ場所の探索者協会青森支部に到着した。支部の前には河野さんが立っている。待たせたか?


「悪い、待たせたな。それじゃあ予約に行こう」


「おはよう奏多くん。行こうか!」


 探索者協会の中に入って受付へ向かう。そうだ、ついでに指輪の中にしまっている魔石の換金もして置きたいな。さすがにそろそろしておかないと。あまり倉庫に物は貯めこみたくないタイプなんだ。


「俺は換金とかもあるから別の窓口でAクラス試験の予約をするけど、河野さんは1人でも大丈夫か?」


 俺も1人でできたからまぁ大丈夫だと思うが、一応聞いておこう。


「うん、もちろん大丈夫だよ。Bクラス試験でしょ?」


「それならいい。日程が決まったら教えてくれ」


 仲間の昇格試験だからな。是非見させてもらおう。どこまで能力が通用するのかとか、見たい部分もあるしな。効果が強いことはわかっているから、落ちる心配はしていない。きっと大丈夫だ。


「じゃあ俺は換金してくる」


「はーい」


 結構な量の魔石をため込んでいたからな。今回はどれほどの金額になるか、少し楽しみだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る