第44話 ナンパ……?

 新しく手に入れたスキルの確認だな。どれどれ、鑑定をかけてみてみるとしよう。


【絆共有】

・深い絆が結ばれたものとのみ、特定のスキルを共有することができる。

・スキル共有しているどちらかが死亡した場合、もう一方も死亡する。


 直接的な戦闘強化につながりそうにはないスキルだな。しかし深い絆ねぇ。抽象的すぎてあまりわからないが……。


 彩佳とは共有可能なのだろうか。しかし、スキルの共有は命の共有ということかよ。デメリットが重すぎる。これは使わないべきだな。


 いやしかしせっかく手に入れたスキルだし、使わないのはもったいないか?


 彩佳が死んでしまうなら俺も死んだってかまわないしな。


 そこら辺は後で彩佳と相談してみよう。どんなスキルが共有できるかはわからないしな。


 さて、とりあえず早いうちにゴブリンキングを倒せたわけだし、25層、目指してみるか? いや、少し厳しいだろうな。ゴブリンキングに阻まれているおかげか、20層からのマップはほとんど完成していない。個人的にマッピングしながらの探索になるわけで、それでは時間がかかりすぎる。


 少し時間があまりはするが、それはまぁいいだろう。札幌を見て行けば時間なんてすぐにつぶれるからな。


 そういうわけでセーブの帰還を使用して入ってきた入り口まで戻る。戻ってきた瞬間に近くにいた人に驚かれたが、まぁ構わない。その足でダンジョンを出て改札を通り、札幌駅へ向かう。


 にしてもなんのプランもない。何をしようか。少し街を歩くくらいで済ませて早い電車に乗ろうかな。


 そういうわけで札幌街歩きの時間だ。あ、そういえばその前に。


『彩佳、今少しいいかのう?』


『あ、ごめん少しだけ待って。今戦闘中だから』


 戦闘中だったか……。これは申し訳ないことをした。


『それは申し訳ないのじゃ……。時間ができたら折り返しを頼む』


『気負わんでも構わんぞ~。Aクラス相手ではあるが勝ちは確定しておるからのう』


『ロゼリア、慢心しない』


 確かに余裕そうな雰囲気を感じる。きっと終わったら声をかけてくれるだろう。スキルについてはその時に話すとしよう。


 それじゃあ少しの間、札幌について調べてみるか。


 そうだな、せっかくだし、早めの晩御飯を札幌で食べていくのはどうだろう。2月上旬なだけあってまだ雪が積もるこの北海道の温かいご飯はきっと美味い。


 スマホを使っていろいろ調べる。実はこのスマホ、中身は一緒なのだが、変身している時としていない時で、ケースを分けている。ばれないための配慮は大事だ。すでに一人にはばれているが。


「そこのお嬢さん、僕とご飯いかない?」


 料理の口コミを調べていると、何やらナンパをするような声が聞こえる。人通り多いからなぁ。まぁそんなこともあるのだろう。


「ちょっと無視するなんてつれないなぁ」


 どうやら相手にされていないらしい。可哀そうなこった。お、このラーメン屋、少しよさそうかも。札幌まできてラーメンかよ。ん? 待てよ、札幌ってラーメン国みたいな場所なかったっけ?


 めっちゃ行ってみたい。そうと決まれば出発だ。


 そう思って前に歩き出した瞬間、あまりにも前を見てなさ過ぎて人にぶつかった。


「も、申し訳ないのじゃ、大丈夫かのう?」


「もしかして気づいてなかったの?」


 この声はナンパの? もしかして俺に声をかけていたのか? ここは少ししらばっくれるか。


「すまんのう。まったく気が付かなかったのじゃ」


「変わったしゃべり方だね。というか、日本語通じるんだ」


 この見た目だし、日本語通じないと思われても仕方ないよな。というか日本語通じないと思っていたのに日本語でナンパするんだ……。


 何考えてるんだ? こいつ。


「ぶつかってすまんかったのう。怪我がなければ先を急ぐので失礼するのじゃ」


「あ、まって、名前だけでも……」


「クラリカというのじゃ。覚えておいて損はないぞ」


 とりあえず早くラーメン食べたい。


「ん? もしかして……」


「それじゃあ失礼するのじゃ~」


 その場からそそくさと去り、俺はラーメン国のある商業施設へ向かう。


 早めに行かないと絶対混むだろうからな。急いで向かわなければ。


◆◆◆


 ふぅ。よく食べた。とはいっても変身前よりは食べてはいないが。


 ラーメン、美味かった。それじゃあ帰ろうかと席を立とうとした瞬間、彩佳から通信が来た。


『ダンジョン出たよ』


『了解じゃ~。話したいと思っていたことなんじゃが、帰ってからでもいいかのう。電車に乗り遅れそうなのじゃ』


 あまりにもラーメンをゆっくり食べすぎて、予定の電車に乗れるかギリギリなのだ。


 彩佳には申し訳ないが、帰ることを優先させてもらおう。


『せわしないのう奏多。……いや、クラリカじゃな』


『そういうわけで、待ってて欲しいのじゃ』


『気を付けて帰ってね』


 彩佳、優しいなマジで。とりあえず急ごう。これで乗り遅れようものならさらに遅くなってしまう。


 それは本当に申し訳ない。商業施設の案内書きにそって進み、何とか駅にたどりつく。時間は、あと5分ほど余裕がある。よかった、間に合ったな。


 切符を買ってそれを通行所にかざしてすでに停まっていた電車に乗り込む。昔は通行所がダンジョンの入り口と同じ改札だったらしいな。どうして変わってしまったのだろう。


 俺が乗り込んですぐに、電車の扉が閉じる。危なかった。


 流れる外の景色を見ながら俺は考える。新しいスキル、彩佳にどう説明しようか。

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