第13話 探索者協会青森支部
俺たちは探索者協会青森支部に来ていた。スタンピードの兆候を報告するためだ。
「すいません受付嬢さん、支部長は今いらっしゃいますか?」
「え、ええ。支部長室にいらっしゃいますが……」
「会わせてもらっていいですか? 報告したいことがあるので」
今は彩佳が支部長と会うために受付さんと話している。彼女が高校生でBクラスという将来有望な人だからできることだな。
「わ、わかりました。今ご案内します」
そういえば俺の許可は取れてるのかな? 取れていなければここで待っているつもりだけど。
「俺は待ってればいいのか?」
「いや? ついてきてくれないと少し困るかも。ブラストタートルの件の本人だし」
確かにそうだな。待合の席から立ち上がり、彩佳の後ろを歩く。ちなみにロゼリアは今俺の隣にいる。
『奏多、今体に異常はないかの?』
「ああ、大丈夫だけど。どうかした?」
今は前に受付嬢さんと彩佳が歩いているから小声で言葉を返す。ロゼリアは心配してくれているのだろうか?
『回復魔法を使うのは、正直久しぶりでの……。うまく治ってくれているか心配でな』
「まぁここまで回復してるし、たとえ少し失敗してたとしても感謝するよ」
命の恩人なわけなのだから。
『そう言ってくれるとありがたいがのう。今や儂と彩佳の心の支えになっているのじゃ。失うのは怖い』
「心の支え?」
まだ役に立てた覚えもないし、出会ったばかりだ。なにかしただろうか。
『儂は彩佳の感情に引っ張られるからの……。まぁ続きはのちに話すとしよう。着いたのじゃ』
「奏多? 入るよ?」
どうやらもう中にいる探索者協会支部長との話もついているらしい。
「おう、わかった」
中は一度学校でみた校長室のようになっていた。
「「失礼します」」
中にいた一人の女性。彼女が探索者協会青森支部の支部長だろう。
「よく来たね、<朝焼けの輝き>のお二人さん。瀬戸 奏多君はお初でしょう? はじめまして、私はここのギルドの支部長、加賀美 綾子。以後お見知りおきを」
「初めまして、瀬戸 奏多です。よろしくお願いします」
しかし、支部長、若いな。20代後半くらいかな?
しかも結構な美人さんだ。努力もできる美人さん、すげぇな。
「さて、君たちはスタンピードの報告できたんでしょう? なるべく早く聞かせて」
彩佳が少し説明したんだろうか?
「なんで知ってるんですか!?」
彩佳が驚いているところを見るにそうではないな。
「君、滅多なことがないとここに来ないでしょう? それに、あなた達が来るほんの少し前にスタンピードの前兆の連絡が他からもきてるの。あなた達からも詳しい話を聞かせてもらって対策をとるわ」
支部長はそう語った。なるほど、納得だ。
「なるほど、では早速本題を話させていただきます」
「真面目に聞かせてもらうわ」
部屋の中央にあった机の席に全員が着く。もちろん、ロゼリアは立っているが。
「話は単純です。ブラストタートルの狂暴化を観測しました。そして、ロックタートルの生息圏まで出てきています。こちらの奏多も確認しています」
「はい、彩佳に助けてもらえなければ死んでました」
「なるほど、確かに可能性は高いわね。これだけだったら少し様子を見ていたところだったけど、他にも報告があるし、早めに行動しなければならないわ」
やっぱりスタンピードの線は濃いようで、支部長はこれ以上詳細を聞くことなく準備に取り掛かるようだ。
「Bクラス以上が所属しているパーティーには街を守るために来てもらいたいのだけれど、あなた達は来てくれる?」
俺と彩佳は顔を見合わせる。俺は家族がいるこの街を守りたい。そういう意思を持った目で彩佳を見つめる。
彩佳は支部長を見て、そして声を上げる。
「もちろん、私たちは愛するこの街を守るために戦います!」
「ありがとう、他のBクラス以上の人たちを招集するから少し待っててね。追って作戦を伝えるわ」
この支部長、すでに作戦の構想があるらしい。札幌地下大迷宮の件も頭の中に入っていたりするのだろうか。
「わかりました」
それを聞いた支部長は部屋の奥の机に戻る。職務に戻ったようだ。
「彩佳、俺は足手まといにならないか?」
Bクラスに殺されかけた俺である。BクラスやAクラスなんて出てくれば間違いなく足手まといになる。
「大丈夫だよ、私がカバーするから。後、多分後方の雑魚狩りを任せることになると思う」
なんでだろう、かわいらしいはずなのに、彩佳がかっこよく見えてくる。でも、いつまでも守られてるだけじゃいけないし、俺も今後強くなっていかないと。
「ありがとう、彩佳。後方での仕事になるけど頑張るよ」
『儂も何かあったら奏多を助けると誓おう』
「ロゼリアもありがとう」
支部長もいるから小声でいう。
『回復は任せるのじゃ~』
そんなこんなで少し待っていると、支部長室の扉がノックされる。
「入っていいわよ!」
支部長が奥の机に座ったまま答える。
「失礼します! <赤色の閃光>です!」
4人の女性が中に入ってくる。全員20代前半くらいか。
先ほどの話によるとAクラスの吉野という女性が率いるパーティーだそうだ。吉野さんがAクラスで、他の構成員も全員Bクラス上位程度の実力があるらしい。青森支部のエースとのこと。
「僕もいますよ~」
続いて出てきた会社員風の男性は但木さん。吉野さんと同じAクラスで、ソロのお方だ。
「よし、あとは霧島君のパーティーだけだね。まぁ彼のパーティーとは電話がつながっているからそれでいいかしらね」
支部長が出したスマホは確かに通話中と書かれている。
『すいません、ちょっと出先だったので……』
通話先から申し訳なさそうな青年の声が聞こえてきた。
「さて、これで最高戦力が集まったわけだね。先ほどダンジョン周辺の市民には避難勧告を出している。家まで守ることまでは考えず、皆には命を守ることを優先してほしいわ」
『「「「わかりました」」」』
その場にいる全員が同意する。
「じゃあ今から作戦を伝えるわ! 自らの担当を聞き終えたらすぐに行動に移すこと。いいわね?」
『「「「はい」」」』
ついに始まる。札幌では紅が解決した純粋なダンジョンだけが原因で起きる最大の事件が。
この、今いるメンバーで挑むのだ。決して誰一人として死ぬことのないように。
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