第14話 戦闘開始ッ!

「まず最初に今回は二手に分かれて防衛を行うわ。青森ダンジョンの北口、南口の防衛ね」


 青森ダンジョンには、北口と南口がある。最初から洞窟が大きく、人気な入り口が北口で、俺が普段入っている道が狭めな入り口が南口だ。


「南口の防衛は、但木さんと霧島君のパーティーに任せるわ。但木さん、霧島君たちのカバーを頼むわ」


「僕も全力で頑張ろうと思います」


『頑張ります!』


 二人の返事がする。南口は俺の家の近くだ。もし、うちの家族が逃げ遅れるようなことがあったら彼らが守ってくれると信じておこう。


「では市民を守りに行きなさい!」


『「はい」』


 但木さんが出て行き、支部長は通話を切断した。


「さぁ、残ったあなた達は北口だけど。正直危険度はとても高いわ。Sクラスには協力を要請したけど到着するまで時間がかかりそうなの。それまでの時間稼ぎになるわ」


 Aクラス探索者がいて時間稼ぎ、ってことはまさかSクラスの出現が見込まれているのか?


「すいません、一つ聞きたいのですが、ボスの想定クラスはいくつでしょう?」


 吉野さんが質問する。確かに俺も知りたい。


「……限りなくSに近いAね。札幌地下大迷宮で現れたボスは特殊個体だったそうよ」


 それはまた……。確かに時間稼ぎになるだろうなぁそれは。


「なるほど……。全力で食い止めます」


「ええ、でも命は大事にね。それと<朝焼けの輝き>の二人は後衛での戦いよ。吉野、あなたのところに彼女たちを入れたということは、わかるわよね?」


「ええ、守りますよ。未来は」


 俺は彩佳と共に後方支援となるわけだ。しかし、いざSクラスに近いものが出るところに近づくとなると、恐怖も生まれるものだな。


 ブラストタートルは心の奥底で届くという思いがあったからこそ、恐怖というより殺意があったのかもしれない。


 しかし、Sクラスにはどうあがいても届かない。視界に入った瞬間に殺される。そんな恐怖はある。だけど街の人を守るために、やるしかないんだ。


「奏多、一緒に頑張ろうね」


『儂らがついておるからの』


 寄り添ってくれる仲間だっている。勇気をだして、戦おう。


「おう、全力で戦うぞ!」


 俺の決意表明を待っていたらしい支部長は、俺の声を聴いたその瞬間に声を張り上げた。


「さぁ、あなた達も探索者として街の人々を守りなさい!」


「「「はい!」」」


 支部長室を出て、<赤色の閃光>の皆さんと話す。


「後方支援をさせていただきます、<朝焼けの輝き>です。よろしくお願いします」


 時間がないため、俺と彩佳で軽い挨拶だけ済ませ、すぐに探索者協会を出て青森ダンジョンの北口に向かう。


「私たちでも雑魚の数が抑えきれないことがあるかもしれないから、その時は頼むね。基本は私たちで対処するわ。連携とかも、慣れてるからさ」


 リーダーの吉野さんはそんな優しい口調で俺たちに話をしてくれた。


「ええ、ここでしゃしゃり出るほど図々しくはありませんから。先輩方の背中を見て学ばせてもらいますね」


 どうやら関係は良好なよう。探索者同士の仲が良くなくて問題になることがしばしばあるからほんの少しだけ心配ではあったけど、どうやら杞憂だったようだ。


「そろそろ到着するよ!」


 探索者協会青森支部からは、北口の方が近い。北口の改札がある付近で<赤色の閃光>とは少し離れる。


 <赤色の閃光>は改札の内側、俺たちは外側で逃げてきた魔物を討伐する。


『嫌な予感がするのぉ』


「そんなになの?」


 ロゼリアがダンジョンの入り口を見据えながらつぶやく。


『何とも言えん感じじゃな。儂にもよくわからんが』


 勘のようなものか。でも、ロゼリアの勘は当たる印象があるからな。ブラストタートルの一件のおかげで。


『む、来るようじゃぞ!』


 ロゼリアが、ダンジョンの方を見ながら言った。ついに来たか。俺もそちらの方を見ると、とんでもない光景が広がっていた。


「多すぎる……!」


 おびただしい数のストーンリザードが決壊したダムから流れ出す水のように入り口から飛び出てくる。


 しかし、さすがはAクラスの所属するパーティー。冷静に魔法を撃ちこんで数を減らしていく。火系統と光系統の魔法だ。それを2人が担当し、残りの3人は魔法使いに近付く魔物がいないようにしっかりと警護している。


「すごいね、処置が適切。さすが先輩探索者」


 彩佳が先輩の背から学ぶ姿勢を見せる。俺も勉強、しないとな。


「見てる場合じゃ、ないかもな!」


 数匹ではあるがうち漏らされたストーンリザードが俺らのところまでたどりついた。


「ロゼリア!」


『儂に任せるのじゃ!』


 彩佳の体が黄金に光はじめ、ロゼリアと同じポーズを取る。


「はぁ!」


 彩佳が腕を振ると、ロゼリアも腕を振るう。まるで体を共有しているような、共鳴しているような動きだ。重ね合わせたらぴったりと一致するだろう。


 ロゼリアが振るう拳は精神体なので、物理的に攻撃することはできないはずだが、なぜかロゼリアの拳は魔物をとらえる。


 どういう原理なのか後で聞いてみよう。そういえば彼女の二つ名は<黄金之念動力者>だ。由来、これじゃないか?


「そんなこと、考えてる暇ないか!」


 俺は剣聖スキルにものを言わせ、抜けてくるストーンリザードを切り裂いていく。ああ、そういえば今は初心者装備しか身に着けてないじゃないか。


 夜明けの魔導士のローブを羽織り、ローブに貯め込まれている魔力等の確認をする。今はまだ日光が出ている時間であるから、さらに魔力も貯まっていくことだろう。


「『風刃』!」


 絶え間なく出てくるストーンリザードに魔法で始末する。もううち漏らしは20匹以上、<赤色の閃光>の皆さんが倒してくださった分も含めればもう100や200は確実に超えるだろう。


「奏多! ロゼリアに変わるから一瞬目を瞑って!」


「了解!」


 すぐさま近くにいたストーンリザードを斬り飛ばし、目を瞑る。瞼越しに輝いているのが見える。


 そして、輝きが収まる。


「宿星の魔術師と呼ばれた儂の魔法とくと見るのじゃ!」


 宿星の魔術師? やはりロゼリアはスキルによって生み出されただけの人格じゃないな。はっきりとした過去がある。それも、この世界のものじゃない。平行世界か、それとも異世界か。


 聞きたいことが増えたな。


「『回旋・小圧星』!」


 ロゼリアが生み出した小さな光はストーンリザード達を貫通していく。かなり多かったうち漏らしのストーンリザードはほぼ全滅した。


「やっぱり多勢には魔法じゃのう」


「すごい魔法だな」


「そうじゃろう!」


 どうやら<赤色の閃光>は少し前にストーンリザードを片付け、次が来るのを待っているようだった。


 いまだボスは出てきていない。この量の魔物を統率するボスは一体なにものなのだろうか

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