閑話『努力は正義!』

 世界最強の探索者は紅 司という日本人男性だが、それはあまりにも常識的すぎる。


 日本で二番手となる名取 連は世界で七位となるらしいし、世界には強い人がたくさんいる。妹によると、ちょうど世界三位の方の特集番組がやっているようだし、見てみようか。


◆◆◆


『世界三位までの歴史』


 才能がないからやらない。それは彼女にとっては地雷となる言葉だ。世界第3位の彼女は語る。


「平均的なステータス伸びでも、レベルアップに必要な経験値が平均的でも、人はここまで来ることができるんです」


 世界第三位にして、レベル207。そんな彼女は数年前まで平凡な少女であった。


 両親と共に普通の幸せというものを送っていた。しかし、それは長くは続かなかった。


 自宅の近くで、ダンジョンが発生。発見が遅れスタンピードが発生してしまった。


 数年前の、まだ探索者があまり成長できていない時の出来事だった。町の探索者たちは軒並みやられてしまい、家族を守ろうと立ち上がった彼女の父は無残にも殺された。


「そんな時でした。紅さんが助けに来てくれたのは」


 自分を守ろうとした母までもが殺されてしまいそうになった時に彼は現れた。


『遅れてすまない。助けにきた』


 当時から最強格の探索者であった彼は、すぐにスタンピードで暴走した魔物を駆逐し、町を救って見せた。


「彼のその雄姿は今でもよく覚えています。彼にあこがれ、そして魔物への恨みと共に探索者となったのですから」


 そうして彼にあこがれた彼女は、探索者として活動を始めた。


 その当時は才能のなさに絶望したという。


「ステータスの伸びも平均的で、成長速度も一般的でした」


 ステータスの平均的な伸び方は以下のようなものだ。


 レベル1~10  レベルが1上がる度に各種10程度上昇

 レベル11~20 レベルが1上がる度に各種20程度上昇

 レベル21~30 レベルが1上がる度に各種40程度上昇

 レベル31~40 レベルが1上がる度に各種80程度上昇

 レベル41~50 レベルが1上がる度に各種160程度上昇

 レベル51~   レベルが1上がる度に各種320程度上昇


 平均的な上昇量はこのような感じだ。しかし、レベルが高くなっていくごとに、レベルの上がる速度は遅くなっていく。平均的なステータスの伸びのものでは、レベル30程度まで上がったところで、倒せる魔物と経験値の量が見合わず、全くレベルが上がらなくなる。俗にいうBクラスまでの壁である。


 その壁に彼女は激突したのだ。当時は相当苦労したのだという。


「いま世に出ているBクラス以上の探索者は、この平均的なステータスの伸び方に当てはまりません。レベルが1上がる度にステータスが平均より大きく上昇したり、レベルが上がる速度が速かったりとね」


 彼女は続けて語る。


「私はそのどちらもありませんでした。レベルが上がるまでは時間がかかりますし、ステータスの伸び方も平均的です。だから、私は時間をすべてつぎ込みました」


 来る日も来る日も、学校にすら通わずに彼女は探索を続けた。そうしていつの間にか、探索者として名を上げていたそうだ。


「あとから考えれば学校は行っておけばよかったとは思いましたが、それでも私の努力が実を結んだことはうれしかったですね」


 彼女は今でも努力を続けている。現在のレベルは207。現在のステータスは平均4万8000にも至るらしい。


「誰にもできなかったことを、私はやりました。でも、私という平均的なものが到達することができた以上、誰にでもできることなのです」


 彼女は最後にこう締めくくる。


「いつか、紅さんに並んで世界を守って、そしていつか彼が引退するときに安心して世界を任せてもらえるようにこれからも努力をしていくつもりです」


 それが、彼女、ソフィア・ベーカーの決意であった。


◆◆◆


「ふーん、私はどんな感じで成長するのかしらねぇ」


「俺は一般的だったぞ」


 <成長補正>がなければな。


「それでも続けてるんでしょ? メンタル強いわね」


 まぁ<成長補正>があるからステータスで悩んでないしな。しかも能力複数持ちだ。やってやるしかないだろ。


「まぁな」


「よし、決めたわ」


 妹がソファーから立ち上がる。


「私も今年から高校生。探索者になる資格はあるわ!」


 どうやら探索者になるつもりのようだ。正直心配だが、まぁこんなにかわいくて勉強もできる妹だ。両親も止めるに違いない。ほかに安定的な道が期待できるからな。


 決して俺の安定的な道が期待できなかったわけではないからそこんとこ勘違いしないように。


「あー父さんと母さんから許可がでればなー」


 この番組にはまだ続きがあるんだ。見ないと損だろう。妹は適当にあしらいつつ、妹とテレビが被らない位置に頭を動かす。


「それもそうね、説得しておかなくちゃ」


 どう説得しても無理だと思うけどなぁ。俺もつい最近死にかけてるし、かわいい妹をそんな危険な職業にはつかせたくない。俺でも反対はする。


「説得頑張れよー」


 次の特集は...え、エリアス・シュナイダー? あの世界2位の? この番組いくら金使ってんだよ。


「お兄ちゃんなんてすぐ超えて見せるんだから。見てなさい! この瀬戸 唯華の覇道を!」


 おーまたなんか言っとるよ。


「とりあえずそこどけ唯華。大事な特集が始まんだろ」


「あ、それは見るわ」


 なんだこいつ。

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