最終章 人への旅立ち#21



「ふわああ~…んあ…ここ…部屋?」

ん~…私さっきまでシルバと一緒にいなかったっけ?…もう太陽がけっこう高く昇ってる…今何時かな…

「ミレ!起きなさい!今日は久しぶりの学校でしょう!」

「お母さん?なんでまだいるの?」

私の両親はこの村の教会に勤める精霊助師だ‥いつもなら朝日が昇るより早起きして仕度を整えて教会に出向いていくから、私は一人で起きて一人で朝の用意をするんだ。お父さんとお母さんに朝起こされることなんてほとんどないけど‥

「私もお父さんも今日に限って寝坊したのよ…どうしてかしら。ああ遅れちゃう!お父さんもう髪は整えた!?」

お父さんが大きな声で返事をして、私にいってきますも言わずに出て行った。まあいつものことだけど…。

「さてー私もそろそろやりますかー。にしても…夢、かあ。」

ため息をはくと少し白くなった。そろそろこの地域の長い冬が近付いているのかもしれない。

ベッドを下りて、身じたくの物を入れている引き出しを開けた。

「あれ…」

お母さんが作ってくれたたくさんの髪飾り。友達にもらったボタンを繋げたブレスレット。ぴかぴかのどんぐり。真っ赤なカエデ。

たまにつけてる日記。誰からのか分からないラブレター。ヘタクソな『S』の字がぬわれてるハンカチ。

「代わりに私のハンカチがないな…‥」

ハンカチにキスしながら匂いをかぐ。あの森とシルバの香りがする!気がする。

初めての恋人からの贈り物をエプロンのポケットにつっこんで、急いで家を出た。


あれから二日後、魔女の森の方角から青い炎が上がった。私は森へ向かおうとしたけどみんなに押さえつけられて村のはずれまで避難することになった。

結局すぐ雨が降って炎は止んで村まで迫っては来なかった…避難先の家の奥さんに、明日雨が止んだら村の男達が森の近くまで行って様子を見てくる話を聞いた。

私も何とかして着いていきたい…バレないように森と同じ色の服とか借りて後ろを歩けばいーかな…でも最近誰かしらに見張られてるから森へ近づこーとしただけで怒られるし…ん~!!

とりあえずもやもやするけど、同じ部屋に避難していた人達と話したりした後、床にしいた布にくるまっていつの間にか寝てた…

……頭、「痛っ…!!何?!」

布からはいでた私の目の前に手紙が落ちた。あと何か黒い…

「ノア?」

ノアだ!相変わらず真っ黒でよく見ていないと自分の影と間違えそう!

ノアは手紙をくわえ直して渡してきた。みんなが眠ってるうちに部屋の隅に置かれたランプの近くまで這っていって読んでみた。

『ミレ。元気にしてた?炎のこと、気づいてると思うけど、恐かっただろ、ごめん。僕らは妖精の導きで違う土地へ移ることになったんだ。最後にまた君に会いたい。光る花畑で待ってる。』

「ノア!私は方向音痴だから!シルバのところへ案内してくれる?」

腕にノアが乗って小さくひと鳴きした。連れたって窓から外へ出た。

雨あがりの夜の空気がすごく美味しい。ノアがちょっと先を飛んで待っててくれてた。

足が泥と一体になってるような感じで、森が近づいてきてるのが解る。けど、霧の壁があるはずの辺りには大量の泥があるだけで何もなかった。

森の光だけをあてにしてノアに着いていって、…向こう側で花畑の明かりが見えた。

最近走ってなかったから心臓がバクバクしてる、光る花の花粉がいっぱいつく、シルバの後ろ姿が見える!

「シルバッ!」

ノアが私を追い越してシルバの肩に止まった。振り返ったシルバに向かって腕を広げたら

「そこで止まって。」

「え…」

「ごめん。僕らはもう行かないといけない。でもどうしても、会いたくて…。」

「どこへ行くの?みんなはどこ?まだ館にいるの?」

「空を駆ける舟で、僕も知らない土地へ‥もう皆も舟に乗ってる。」

シュウウウウン!って高い音がしたと思ったら、見たことも聞いたことも無い銀色と虹色に光るまるい大きいのが空に現れた!!うちの村ぐらいはありそう…!!!

「私も行く!連れていって!離れたくないよ‥!!」

「ミレはまだ無理だよ。」

「せめて中にいるみんなにお別れしたい!乗せて!」

「それも無理なんだ…ごめん。本当に…さよなら。」

光の輪っかみたいのが舟から出てシルバの身体が浮かびあがった。ノアはどこかへ飛んでいった。

頭上の空を覆う舟に少しづつシルバが吸い込まれていくみたい。

私は今までにないぐらい走った。シルバのところへ追いついて、同じように浮かびあがった。脚がすーすーする、身体がぞわぞわする感覚。舟をながめる間もなくすぐそこにシルバの顏があった。素早くキスされて優しく突き飛ばされて…

「ミレ。絶対、また会おう…僕のためにウィリアン様の唄を歌って…」

シルバを連れていく光の輪から出た私はおしりを打って着地した。むかつく心の隅に、ウィリアン様の歌ってた姿が浮かんでくる。今ではあんまり聴くのも減った、村の伝統歌。

「~♪…」

私が歌いだすと花達が強く光りだす。

 花の花粉がシルバと一緒に光の輪っかに吸い込まれて、天使が羽をはためかせてるみたい。

シルバが口をぱくぱくさせた。『ありがとう』って言ってる。

光の輪の先の四角い穴に消えていって、舟は空高く舞い上がって少しづつ遠くなって、小さくなって点になって、見えなくなった…‥

 歌い終わった後、花畑の中に転がって埋もれる。

このままこの森で新しい魔女になりたい。みんなを待ってたい。帰りたくないよ。

弱くなってく花の光と香りみたいに…私も消えていくのかな……






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