最終章 人への旅立ち#12
走っている間にここへ来るまでのことが走馬灯っていうのみたいに頭をぐるぐるしだしたのは、この状況がパピイから逃げていた時と似ていたからだ。
今私は…何から逃げようとしているんだろう。もう…帰る場所はないのに。
歩くのがどんどん遅くなって、ついに歩くのも止めた。
…いつの間にか森はちょっとの木々の光だけでほとんど暗闇に近かった。月の形も半分もない。 館の近くは木々の輝きが強いけど、離れるにつれてもしかして弱くなるのかな…周りを見渡してもここは見覚えが無かった。
「…どうしよう。お腹空いたな…何か食べれる物は無いかな…ベリーの木とか…」
しばらく歩いていたけど、何も見つけられない…足も痛いし、少し休もう…大きくて幹がしっかりしていそうな木にそっと寄りかかって‥目を瞑った…
その時、カサッという音がして私の体に何か軽い物が当たって転がっていった。
「何…?」
拾ってみて、じっと目を凝らすと…嬢達が私にくれたきれいに包装された闇市で手に入るナッツ入りの細長いクッキーバーだった。
どうして上から、深く考える前に、嗅いだ覚えのある匂いが吹く風に混ざっていることに気付いて‥首を空へゆっくり向ける。
大木の木の枝の中に、動く枝がいくつかある。そして、枝の中に…赤ちゃんみたいに丸まって眠るようにしがみつく…リルティーヌが目を開けた。
「きゃあああああ!!!!」
ドォン!!!逃げ出した私の足元一帯を響かせて、さっきの化け物が木から飛び下りてくる!!腕に触手がっ‥!!思い切り引っ張られて転んだっ、お尻を強く打って動けないっ!!!
「やめてえっ!!!離して化け物っ!!!」
「アイヴァン…ぼくのこときらいになったの?」
「…!リージャ…?!ひっ!?」
木の枝の塊だと思っていた化け物がもっと気持ち悪い動きで枝を上下に振ると、地面から出てきたみたいにリージャが立ってた。なんでリージャが木の化け物といるの?…違う…背中から…、木が生えてる…それに、手に持ってるボールが、ルルカの顏に見えるのは何で…
「リージャ…それ何なの?新しいいたずらで‥私のために考えてくれた?」
リージャは虚ろな目のまま‥大きな動きで左右を見渡した。
「それ…ってなに?ぼく、いまおなかいっぱいでねむいんだ…なに?ルルカもねむいよね‥?」
リルティーヌがリージャの側に立ち、微笑みながら木の触手を撫でている。
「ねぇリル!リルは知ってるんでしょ!?なにが起きてるの!?どうしてリージャはこんな姿なの!!それに、リルが持ってるの…ルルカ…ゔ‥」
息が出来ない。苦しい、苦しい!!リージャはどうして、ルルカの頭を持ってるの、どうしてルルカに嬉しそうに話しかけてるの、吐きそう…
「お‟えっ‥」
「アイヴァンどうしたの?あんたに会うのは久々だから話そうと思って出てきたのに。クッキーバー食べれば?吐いたら余計お腹空くでしょう。」
「いらない!どう、して…はあっ!仲間を裏切ってるの‥」
吐き続ける最中になんとかクッキーバーを投げつけて反抗する。
「話してあげるから‥リージャ、こっちへ連れてきて。」
「きゃああああ!!!」
捕まった腕を思い切り引きずられて恐ろしい触手の塊が視界へ迫ってくる―‥!!!
手足がすられて熱いっ!!と感じた次に背中に蹴られた痛みが、熱いよっ、息がっ、止まる…!!!
「痛い…リル…私達、家族でしょ…」
うつぶせのままの私の顔に足をかけて上向けさせたリルが…今までみたことない笑顔で笑いながら言う。
「そうよ。私達は家族。あなたがさっきから怖がってる
「生まれた時から…じゃあ…リージャは…何者なの…」
「リージャは…ここを牛耳ってる偽物女とは違う、真の魔法を使う者達から生まれた…次の世代の魔女よ。」
……魔女って、私達みんなのことじゃないの?もう…頭がぼーっとして…何も言い返せ、ない…
私は触手に捕まって高く上へ持ち上げられた…リルがずっと下にいる…リージャがまた地面に引っ付くように隠れて、触手が、分かれて大きな穴が、開いた…変な匂いの…赤い汁がいっぱいこぼれてる…
「もういっこたべれそう…リル、これたべて、いいの?」
「ちょっと待って。その前に別の運動があるわ。」
リルが森の奥を見つめた。少ししてその先から人が走る音が聞こえてくる…
そこに現れたのは、いつか見た光景‥。きらきらした森の光を髪ではね返して、青い宝石色の瞳を潤ませて、汗を涙みたいに次々と流しながら駆けてくる、私達のママ…!
「アイヴァンに何をしてるの!!!」
でも前と違うのは、剣を持ってる‥ウィリアン様、弓はヘタだもんね…
「ウィリアン様…」
「アイヴァン!今助けるわ!リージャ!!その子をゆっくりと降ろしなさい!!」
「ウィリアン様、今さら来たってあなたはもうクビなのよ。」
「五月蠅い。私は…あなたを信じてたのに…許さないわ。」
ぼーっとする景色の中で、ウィリアン様はママの顏じゃなかったし、リルは子どもじゃない顔で、今まで知らなかった二人は睨みあっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます