第三章 愛の足音#2
キラキラ光る魔女の森。そのもっともっと上に、キラキラキラキラ光る三日月が主人公の夜、私はミレの部屋にやってきました。
「クロデアー!?こんばんわ!どうしたの!?遊びにきてくれたの!?」
「……うん」
「きゃーっいらっしゃい!!クロデアから来てくれるなんてー嬉しいよ♡どーぞどーぞ入ってーあ!他の子達も呼ぶ!?」
「嫌…私、今夜は…ミレに‥本‥読んでほしいの…」
ミレの元から大きい瞳がもっと大きくなって、魔女の森に負けないぐらいキラキラしたの。
「オッケー!!私の読み聞かせは村の子達にも楽しくって元気でる!!てこーひょーなんだよ!どんとこい!」
「それは……」
ウィリアン様の読み聞かせとは違いそうだなあ…眠れるかなぁ…ううん、今夜はミレと、もっと仲良くなるために来たんだから!
「はい!このベッドに座って!特別にリージャと食糧庫から拝…じゃなく味見のため頂いたレモン味のキャンディーあげるよ♪」
ミレは初めて会ったとき、ウィリアン様に似てるかもって思ったけど、悪いことを平気でやっちゃうところもあるし、全然そんなこと無かったな。
「ぁ、りがとう…」
ミレの隣に座ったとたん、がっちり肩をつかまれて飴を渡してくる…今食べろってことかなぁ…
「その本読んだげればいいんだよね?何ていうやつー?『星の夜に降りる月の姫』へー!恋愛ものかな!?」
「れ、れんあいっ…なの?」
「分かんない!読んでくよー!‥『私は夜中に何か物音を聞いて!家の外に出ると!月の光を背にして!私の目の前に!天の眷属のごとき翼を持った!とっても美しい女が降りてきた!』
「こ‥声…ミレ…」
「んあ?なに?」
「…声が‥大、きい…」
「おーごめん!夜だし周りに迷惑だね!ん″ーあー‥『私はたずねた。゛君の名前は?私はシノルズ。君はとても美しいね。゛初めて会うのにいきなり口説くー?やだなーこのシノルズ!」
「ミ、ミレ…文章‥だけ、読、んで…」
「あーごめんっ!ついツっこみ?いれるの好きでやっちゃうんだよねー。お、クロデアも飴かみくだく音!それはマナーいは~ん!」
…ミレの声の方がウィリアン様に注意されそう…だけど…
「…飲んだ。続き、お願い‥」
「はい。『初めて会うのに生意気な人間の子ね。』ーそーだよ、ね‥」
「ミレ‥」
「すみません‥『私は月からの使い。名はレイツ。私はこの村の人間達に、神の教えを伝えるため、降りてきたのだ!』おー。」
私は、ミレが読んでくれてるあいだに、部屋の中をきょときょと見回しました。…うーん、森の外から来たけど、だからって何か珍しい物を持ってきたりしてるわけじゃないもん、ね…
はきはきとした声で、あいだあいだに私の目を見ながら微笑んで物語を読んでくれるミレ。
やっぱり優しいな…ウィリアン様の次に好きだな…
「『〝我ら聖騎士の名のもとに、天使を成敗してみせよう!〝‥〝んー!今日も空気がいい感じね!〝一人の少女は外へ出るなり大きく息を吸い込んだ。〝おはよう!ミシュマリ!今日も良い天気だね!すぐ近くの家に住む老紳士に話しかけられたミシュマリは、母親レイツにそっくりの笑顔を返した。〝』んんっ??母親レイツ?とばしちゃった?」
二人で本を確かめたら、多分後5ページは取れて無かったの…あきらかにがっかりしたミレ。
「ん~どうする?もうこの本は読むのやめとく?この間に何があったのか分かんないとこの先も訳わかんないよねー!」
「ミレは…この間に、天使と人間に‥何があった、と、思う‥」
「えー?何だろうね~?うーん‥そういうの考えるの苦手…かも!?」
「あ、あの‥私はっ…きっと、天使と人間は、戦ったけど、引き分けになって、仲良くなった、んだと思う…それで、きっとレイツとシノルズは結婚して、ミシュマリが生まれたん、じゃないか‥な…」
「おお!なるほど!クロデアするどいね!」
すっごく、すごく怖かったけど…私は、その時初めて、私の、変な趣味をミレに話してみたくて…ついに!言ってしまうことにしたの!
「わ、わ、わたし…ときどき、物語の途中で、も、もしこのあとこんな話だったらいいなとか、今みたいに、ページが抜けてるとこがあると、自分で、こんな話だったら、いいなって‥いっぱい考えちゃう…の…」
自分でも言っててすごく気持ち悪いって分かってるけど、止まらなくて、ミレの顔を見ないで一気にしゃべってしまった‥そんな自分がまた気持ち悪くて…吐きそう…
「えっすごいね!!素敵じゃん!!小説家のひとみたい!!」
「わ、わ、わったしが小説、かっ…!?ちが、うよ‥私なんてっ自分じゃ本も読めないしっ、字も自分の名前、としか、書けなくて‥」
「それでもなれる!私を信じなさい!えーっとお!紙っ!ペンはーっ!あったっっ!この本の抜けたページに何が起こったか、話してみて!書いてくよ!」
ミレが‥必死になってつかんだからぐしゃぐしゃになった便箋と、万年筆を持って、私をキラキラの瞳で見つめてきたの‥
「レ、レイツ‥は…神…より授けられし剣を手に取って‥かつての仲間達に、向かっていった…っ!」
私は生まれて初めてこんな大声を出したの‥人前で!誰かに、ずっと見つめられながら…
夢中になって思いつくまま話し続けて、しんどいでしょ、って途中でミレにベッドに寝ころがるようにって‥「えへへー」って、私に笑いかけてくれて…
「クロデア!もう便箋ないからここでストップ!顔も真っ赤だしー」
「えっ!!」
ミレが困ったような仕草、肩をすくめた後、私のほっぺをつついてくる…そして起き上がったから、私も起き上がる。
「クロデアすごいよ!お話作る才能あると思う!!なんか夢中で書いちゃったしさー!この便箋は、ここのページにはさんどくね♪これでこの本は完成!!」
「で、でもっ‥私の話、きっとこの後の本当の話と、全然合わない、よ、きっと…」
「いいよ全っ然!クロデアの話のほうが絶対面白いよ!!‥クロデアの出来ることってこれなんでは?」
「出来ること、って…?」
「ウィリアン様への出来る子アピール!だよ!お話を作って!ウィリアン様に読んでもらう!」
えっ、えっ、えええっ!!私は心の中で叫んだけど、本当の声は出せない…
「んー?クロデア気絶してない?」
むぎゅうう‥今度はほっぺをつねられる…
「起きてる‥やめて…そ、そんな、無理‥恥ずかしいよ‥」
「恥ずかしいって言ってたら!何にも出来ません!もう私が帰るまでそんな時間も無いんだし!これしかないっ!」
むぎゅううう‥また、つねってくるよ…
「でもさー私も誰かに強制するのは好きじゃないからさー。クロデアが本当にそれやだって言うんなら、やめるべきだと思う!」
ミレが今まで見たことない、すごく真剣な瞳で私を‥見つめてくる…私‥私は…どうしたいの?って…
「やる…私は、出来る子なんだって、ウィリアン様は言ってくれた、から!だから、やる!!」
今度は、両手で、ほっぺをむぎゅうっ、てされた‥
「オッケぇ!!じゃあーお話考えよっか!♪んー‥こういう時は、レオだね!あの子国語得意だから!よし行こう!」
「え‥こんな、遅くに行ったら迷惑って怒る、と思う…」
「怒んないよ!こんなので怒ったら友達失格だし!」
私はミレと話しながら眠りたかっただけなのに、あっという間にレオルドの部屋に押しかけて、怒られて、でもレオルドは私の提案に乗ってくれて、三人でどんな物語にするか話しあっていると、うるさいって他の子達ものぞきに来て…
あっという間に舞台にしようって、話になっていって…
「ぶ、ぶった、い…」
「あーまたクロデア寝てない?」「ミレ、多分これは気絶してるのよ」「ぶたい、ってなに?」「たくさんのお客の前で披露する演技のことだよ」「ロズンド、お客じゃなくて学校でやるって僕は聞いたけど‥」「そう?僕は前に闇市でやってるものだってアイヴァンに聞いたけど。でも、アイヴァンは闇市行ったことないよな‥‥」
こんなたくさんの人の輪の中心に、私がいるってことが信じられないよ…泣き止まない私を、うっとおしがらないで、みんななだめてくれたのを、私はずっと忘れないから…
「ウィリアン様…おは、ようございます…」
「おはよう、クロデア。今日は早いのね?」
「あの、これ…招待状です。読ん、で下さい‥っ!」
ウィリアンの部屋の前で待ちぶせしていたクロデアは両手で手紙を差し出すと、受け取ってもらうなり走り去って行った。
ウィリアンはその手紙を目を細めて見つめた後、ゆっくり封を開け、
『親愛なる母であり姉、ウィリアン様
いつもお世話になっております。ますますご健勝のこととは存じておりますが、この度は下に記します日程、場所において
・この招待状を受け取りました日、自由室にて。時間は午後2時。
いつも貴女を慕う者 クロデア』
たどたどしい字を読み終えると同時に、声を我慢し息だけで小さく笑うと、充分に顔を撫でて戻してから食堂の方へ歩いていった。
「みんな、朝ご飯の前に言いかしら。‥今日クロデアから私を劇へ招待して頂けるという手紙を貰ったわ。よろこんでお受けします。」
ウィリアンは朝食を前にする皆をぐるっと見た後、クロデアに視線を止めて微笑む。クロデアは目を逸らさず受け止めた。
「へぇ。面白そう。私は知らなかったけど。」「僕は衣裳を作った。」
リルティーヌとヘンリー以外はそれぞれ声を出して騒ぐ中、二人は机の下で蹴り合いをしていた。
「とても楽しみにしてるわ。じゃあ食べましょう…座りなさい!‥いただきます。」
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