第二章 私の命の速さ#16

ミレ、ウィリアン、アイヴァン、ロズンド、シルバ、の通常より軽装な姿をした五人一行はただでさえ暗い森の中で呼吸しているような昏さの奥を目指して進んでいた。

ミレはすっかり仲良くなったアイヴァンにしがみついて列の一番後ろで周りをきょろきょろ見回して、

「どうしたのーミレ。お化けでもでると思ってるー?」

アイヴァンはミレの脇腹をつつきながら楽しそうに笑う。

「そんなことないけどー?やっぱ知らない所は怖いでしょ?」

「屋敷に来たときそんなそぶりなかったよねー?」

「ミレ!アイヴァン!はぐれないでね!」

先頭に立つウィリアンが背負った荷物の隙間から二人を見て注意をした。

はーい、と二人は返してまたひっつき合う。すると互いに背負っている袋に入ったつるはしがカン、と音を立てた。

 五人が進む目的地は森の深くにある洞窟だ。そこには魔女達が摂取している〝妖精の羽〝が結晶化して多量に存在していた。

それを採掘する為の道具を積んだ小型のそりや袋をそれぞれ携えて魔女達は列を組み、覚えている木々の幹の形や草の生え方を頼りに着実に近付いていく。

「今日作ってたお昼のサンドウィッチ、美味しそうだったよね~楽しみ♪」

「ミレは食べ物のことしか興味ないのー?その前に大変な作業が待ってるのにー‥」

「そうなんだー?トンカントンカン!てやるやつでしょ?楽しそうじゃない!?」

「楽しくないよーしんどいさ…あ、でもね、」

アイヴァンはそこで一気に声音を落として、

「洞窟からちょっと歩いたとこに面白い場所があるんだー。」

にやりと笑う。つられてミレも同じ笑顔を浮かべて

「いつ行きますかー」

「‥石を運んだりしてる時に二人でこっそり抜けよう‥ウィリアン様が怒るから」

「ということは、いけない遊びってやつだね。ふっふ…たのしみー」

ロズンドが後ろでふくみ笑いをしながら歩く二人を振り返って呆れ顔を浮かべる。

「あの二人何か悪だくみしてるなー…シルバ、見張りよろしくな?」

「‥どうして僕が。」

「お前ミレのこと気になってるだろ?もっとアピールする良い機会が来たと思って…」

「… … …」

「そこまで睨むのはひどくないか?」


  同じ様な木の羅列を何度もくぐり抜けて、五人は洞窟へ辿り着いた。

ウィリアンの指示のもと、つるはしや籠以外の物は外へ置いて皆で中入っていく。

天井と足元にくまなく生えている結晶群は濁った川に似た結晶の内側で外からの光を増幅させて淡い光を放つ。

「この結晶群は不純物が多く含まれていてこのままでは食べる事は出来ないわ。だから今からつるはしで砕いて採掘して、持って帰ったら専用のうすで引いて不純物を取り除くの。だいたいはそんな感じで…後は私達のやり方を真似てね。」

「はいっ!!こうですか!?」

「ミレ!そんなに高くかかげたら僕らに当たるかもしれないだろ?」

「はぁ…ほんとこいつ…」

「疲れたら結晶運ぶ係と代わるからねー!」

五人の声があまり広くはない洞窟の中でいくつにも反響し、一気に騒がしくなる中で作業が始まった。

ウィリアンがつるはしを振るい、ミレがそれを習いながらぎこちなく振り、その二人から反対にあたる場所でロズンドとシルバが慣れた様子で振るう。アイヴァンは採掘した結晶を運ぶ係として三つ散らばって置かれた籠を持って外を行ったり来たりする。

 「はー…けっこう、きつい!」

つぶやいたミレの肩に手が置かれる。振り返るとアイヴァンがいた。

「ミレ、あの籠けっこう重そうだから一緒に運んでくんない?」

「おー…、」

「ミレ、慣れないから疲れたでしょう。先にアイヴァンと外で休憩して来なさい。私達は残りの籠がいっぱいになったら行くから。」

「分かりましたー!」「はーい!」

どこか足取り軽く籠を抱えて消えていく二人をシルバは横目で捉えていた。


「早く早く!ウィリアン様ってけっこう足速いから気づかれたらあっという間だよ!」

「あ~‥足が~うまく動きづら~い」

二人は小声で叫びながら手を繋いでさらに森の奥へと走っていく。

「なんか変わった匂いするようなー…珍しいお花とかあったりするのー?」

「着いたっ!」

森の木々が一気に拓けた場所に、アイヴァンのお気に入りの木があった。 周りの木よりも一回り以上大きく、濃い赤茶色の幹の真ん中には大きなうろが存在を象徴するように空気を吐いている。

二人がその場所へ足を踏み出した途端、複雑に曲がった木の枝がゆっくり動いて二人の元へ伸びてきた。

「んん…この変な木、どうしたの??」

「まぁー見ててね!‥よっと!」

アイヴァンがぎこちない動きを隠さず飛び上がって、伸びてきていた枝の一つに掴まる。

「わあああ!?アイヴァーン!!」

「大丈夫ー!楽しいよー!」

アイヴァンは動く木の枝にうまく乗っかって、空に浮かぶ感覚を楽しんでいる。

だが枝の動きは左右に大きく揺れて、嫌がっているようにも見えなくない。

「すごいなー…これ…乗ったらいいのかな…でも」

嫌な感じがする、という言葉を楽しそうなアイヴァンの手前飲み込んで、ミレは別の彷徨う枝に飛び乗ろうと機会を窺う。

「空飛んでるみたーい!前にこれやってた時はウィリアン様に見つかってすごく怒られたけど、どうしても忘れられなくてー!あっ、うさぎがいた!」

アイヴァンが空高くから指差した先には、この森ではあまりみないが国ではありふれた動物である兎がこちらに近寄ってきていた。

ミレがウサギに触ろうかと体の方向を変えた時、ウサギが不自然にその場に倒れた。

目を凝らして見るとウサギの身体に地面から伸びた、木の枝の様な草がどんどんと絡まり続けている。

唖然としている二人の目の前で暴れるウサギに木の別の枝が近付いてきて、ウサギにぐるぐる巻きつき持ち上げると、そのまま一直線に大きな洞へ向かって運び放り込まれパキパキと骨の砕ける音が響き渡った。

「きゃあああああ!!!!」

アイヴァンの絶叫がウサギを咀嚼する音を上回って周辺の空気を震わせ、どこかへ逃げ出そうとした脚は空を捕えられず真下へと落下した。

ミレは無言で素早くアイヴァンのもとへと駆け寄る。

アイヴァンは意識を失っており、捻ったらしい脚は徐々に腫れ始めていた。

「逃げる、んだ‥!」

ミレがアイヴァンの腕を自らの首にまわして、自分より背の高いアイヴァンを引き摺るようにしてその場から離れようとしたが、ミレの足に地面から生えた赤紫の草が触れた。

一瞬のうちに地面から草が大量に伸びて枝のようになりアイヴァンを無視してミレに絡まり続ける。

「ぎゃーっ!!!やめろっ!!!いやーっ!!!」

ミレは必死で草をちぎり続けるが頭上からはウサギを食べた木の枝が迫る。

ミレの悲鳴に混じって、キンッ!と音がすると空から矢が降りミレにせまる枝に突き刺さった。その枝がじゅわっと音をたてて先端が枯れ、動きが鈍くなる。

「ミレっ!!」

ミレ達が来た森の奥からシルバが走ってきた。背負っている矢筒から矢を取り出し、ミレに駆け寄ると矢の先端で絡まる草を裂いていく。

続いてウィリアンやロズンドも辿り着き木が弱っている隙にナイフや手で草をちぎり、ミレとアイヴァンを助け出した。

木の枝が届かない範囲の森の中までアイヴァンを引き摺ってきて、魔女達はその場でへたり込んだ。

シルバは息を整えているミレの襟首を掴んで無理矢理目を合わせた。

「お前っ、何で勝手に抜け出してこんなところに来たんだ?もし僕達が間に合わなくてアイヴァンも一緒に取り返しのつかないことになってたらっ!」

語調が荒くなるシルバだったが、その肩をウィリアンが掴んで一旦落ち着かせる。

「もういいわシルバ。後は私が言うから。‥ありがとうシルバ、あなたが矢を飛ばしてくれなかったら危なかったかもしれなかった‥」

「そうだ、矢‥‥」

シルバがミレの悲鳴が聞こえた先へ走っている際、矢の飛ぶ音が聞こえた。そしてミレ達を発見した場面で、ミレに迫っていた木の枝に矢が刺さっていた。

シルバがミレを助けながら視線を感じて一瞬顔をあげると、小さく影になった場所に生える木々の間から自分達を見下ろす人影があった。

手に持つ弓を隠しもせずシルバを見つめる影は首をひねりながら肩を震わせ、ローブの裾をひるがえしながら去っていった。

「シルバ?ミレがふらふらしてるから支えてあげて。」

シルバが記憶を辿っている間に他の者達、ロズンドはアイヴァンを背負い、ウィリアンはシルバの弓矢を代わりに持ち、洞窟に残した荷物を取りに戻ろうとしていた。

「ミレ‥僕達の他に誰かと会った?」

「あ‥?ううん…しんどぉ‥」

「…」

シルバはミレの背中を支えながら、歩き出したウィリアン達のあとへと続いた。

 洞窟に戻ったミレは、ウィリアンに今日見た生き物を喰う木に関する事を他の魔女に言わない、そして忘れることを約束させられた。

そして気絶したままのアイヴァン含め無言のまま一同はすっかり昏くなった道を往き屋敷へと戻る。

屋敷で留守番をしていた魔女達は帰りが遅い理由を訊いてきたが、憔悴している五人を思いやって深くは追及しなかった。ミレとシルバとロズンドは台所に残っていたパンとスープを適当につまんで先に眠りについた。





「おはようございま~す‥あ~また私遅刻か~…」

「ミレ、おはよう。昨日は大変だったから‥起こさなかったの。朝ご飯食べたら手伝って欲しいことがあるんだけど、良いかしら?」

ウィリアンは台所でひとり皿を洗いながら、誰もいない食堂に現れた髪がぼさぼさのミレに向かって言った。

ミレは「オッケーです!」と言いながら台所を覗いて、サンドウィッチの残りが乗った皿を見つけて目を輝かせる。

「ちゃんと座って食べなさい。」

「はあい」

サンドウィッチの一つを口に咥えたままミレは皿を持って食堂へ移動した。すぐに食べ終えて、自慢気にウィリアンに皿を渡してほほ笑む。ウィリアンも微笑み返して

「向こうの作業室で、昨日採掘した石を砕いてるの。ミレもそこへ行ってね。手の空いてる子達が集まってるから、やり方を教えてもらいなさい。あと…」

「昨日の事は訊かれても答えない!でしょ?」

ミレは一度ウィリアンの瞳をじっと覗き込んで、ウィリアンが無表情で頷くのを見ると、うつむいて目を逸らし部屋を目指して駆けていった。

 ミレは前にシルバに案内してもらった記憶をたよりに、作業室の前に辿り着く。すでに中から石臼を引く音同士が重なって聞こえてくる。

「みーんなー!手伝いにきたよー!」

ミレはさっきまでの表情とは正反対の様子でドアを開けるなり呼び掛けた。

「ミレ!ウィリアン様に聞いたの?」

「ミレー!つかれたー!代わってー!」

「!…ミレ」

ナナヤとルルカとクロデアは床に座って石臼を挽きながらミレを歓迎した。

「ミレー!ねーねーっ!私のやってっ!」

「了解でーす、こー、回せばいいの?」

「ルルカ、クッションが足りないから探してきて。そのあとルルカは瓶詰めをしてて。」

「オッケー!」

「……」

ルルカが別の部屋へクッションを探しに駆けていき、ミレはルルカが抱えていた石臼の前に膝を立てつつ足を開いて座った。

「駄目よミレその座り方は?」

「えーこの方が足冷えないよー?」

「もークッションが来たらちゃんと座ってね。」

「…アイヴァン、は来ないの?」

「え、」

「クロデア、アイヴァンは熱が出てるから今日はお休みってウィリアン様が言ってたでしょう、聞いてないとダ」

「昨日何か…あったの‥」

「‥ごめん言えないんだー」

「ミレークッションどうぞっ!」

静まりかけた空気がルルカが帰ってきたことで、元のように戻る。

「ありがとーでも私はルルカのクッションに座ってるからそれはあげるねー」

ルルカは楽しそうにミレをクッションで殴ったあと床に置かれた金属製の箱の側に座り、中に入った石臼で引かれた後のさらさらの〝妖精の羽‶を大小様々な空瓶にスプーンで詰めていく。

しばらく皆一人言だけ発して〝妖精の羽‶を精製していたが

「ねぇミレ、ミレの居た村ってどんな所だったの?」

ナナヤが石臼を引く手を緩めないよう気をつけながら訊いた。

「え~どんな所って?」

「えーと‥私は街育ちだったから村っていうのがどんな場所かよく分からなくて。お店とかは、何があるの?」

「そーだねー闇市ほどじゃないけど露店のお店でね?野菜市場のワビルマさんでしょー、雑貨屋のルーネスさん、服屋のパセラムさん、不定期だと干し肉屋のネレイデさんも来てくれる!」

「お店の人の名前を知ってるの?店の名前じゃなくて?」

「ん?店の名前って何?」

「お店の人達と仲が良いんだね…」

「そうでもないよ?だってパセラムさんにここの服って今ドキのデザインじゃないから嫌いって言ったらぶん殴られたことあるんだよ!?私それからは隣村のルタンさんのとこの服しか着ないから!!」

あはははっ、とナナヤは声をあげて笑う。クロデアも口の両端が上がっている。

「ナナヤはどの街にいたの?」

「私は…トラウトル」

「聞いたことないかなー遠いとこ?」

「そうね‥ミレの所と違って治安も良くなかったし‥知らなくて当然かな。」

「ねーねーっ!ムラとかマチとかって何!?」

すでに手を止めてミレとナナヤを興味津々で見つめるルルカ。

「…ルルカは赤ちゃんの時にこの森に捨てられていたの。だからここ以外を知らなくて…」

「そうなんだ…」

「ねー私に分からないのにつまんないよー」

「今はそれより手を動かしてねルルカ。」

「…クロデアはどっから来たの?」

「……‥」

「クロデアはそういうの話してくれないの。仲良くなりたいのだけど…」

「話したくないなら無理に話さなくてもいーよ。それでも私とクロデアは友達だしね!」

クロデアは石臼から手を離しミレを見つめているにもみるみる顔が赤くなる。

「‥ミレ、他にも、村にどんな人が‥いるの、どんな遊びしてるの?」

クロデアが俯きかけた顔を上げて一大決心するかの様に訊いた。

「遊びー?私の村ではボール蹴りが流行ってたかなー!でもレーナ達はほとんど参加してくれないからーまた一緒に思いっきりやりたいなー!」

「‥‥お菓、子は何があるの。」

「クロデアがたくさん話してる…!」

ナナヤもすでに手を止めてミレとクロデアのやりとりを息を詰めて見つめている。

「もちろんクッキーとかタルトのお菓子も市場に売ってるけどーやっぱり私はお母さんが作ってくれるお菓子が一番好き♡シュークリームとか♡」

「…‥ミレも、お菓子作れるの?」

「んー 一応は!クロデアも一緒に作る?」

「うん‥あり、がとう。」

「わたしもミレの作るお菓子ちょうだい!」

「三人とも、手が止まってるわよーもう‥」

そんなやり取りを何度か繰り返した頃、作業室のドアがノックされた。

「はい。」「はーい!」「誰―?」

「みんな、お茶を持ってきたわ。お菓子の話が聞こえてきたけど、作業は進んでる?」

ウィリアンが簡素なティーセットを持って部屋へ入ってきた。

四人から邪魔にならない近くの床にティーセットを置くと、ウィリアンも一緒に座り込む。

三人がウィリアンに挨拶する傍ら、クロデアはウィリアンの顔を見るなり話を止めて作業に没頭し出す。

「あれっ、クロデアー、急に黙らなくていいよ!?」

「あら、ロデアも皆と話してたのかしら?」

「……」

ウィリアンはにやけが止まらない様子で膝立ちのまま体を伸ばし、お茶と小さなお菓子を配っていく。

クロデアは作業の手が遅くなるが、さらにうつむいて黙ったままだ。

「私のことは何も気にしないでね。…もうお邪魔かしら、みんな頑張って‥」

「そんなこと!ミレが村でどんな暮らしをしているか訊いていたんです!」

「へぇそうなの?私もまだ聞いてなかったわ。クロデア、お菓子を食べててね。」

ウィリアンはティーセットに伸ばしかけた手先を近くのクロデアの石臼へ変えてクロデアから仕事を取る。クロデアは慌ててウィリアンの顔を見上げたが目は合わそうとしなかった。

「…ミレは普段どんな物を食べているの?」

「えっとー!最近の私ん家の流行ブームは隣の村のハームさんの親戚がやってる牧場のチーズをクラッカーに‥―」

「きゃーっ!ウィリアンさま!それこんど作って!」

「ルルカ、少しお菓子を食べて落ち着きなさい」

ルルカの口にウィリアンが慣れた動きで小さなクッキーを放り込むと、おいしー!と叫んで楽しそうに左右に揺れだす。

「ねぇ、お洋服はどんなのがあるの?ここにやって来たときのミレの服、シンプルだけで生地の色とか素敵だったわよね!」

「わっかるー?私のお母さんが都会の生地屋さんと縁があってー!そこから仕入れてもらったのをお母さんと仕立てたのー!」

「ミレ!?お洋服作れるの?意外だわー‥」

「でしょ?んまー実はレースとか飾りを付ける方が好きなんだよね!」

嬉しそうな表情で女の子らしい会話をする二人を眺める同じような表情の女性とそれをどこか苦しそうに眺めるさっきまで俯いていた女の子。騒ぐのに飽きたのかこっそりクロデアの分のクッキーまで手をつけている女の子。

皆で作業が止まりつつあるのを注意し合いながら、ミレの村での日常の話は盛り上がっていった。

「私達は…森の外にいたのがずっと昔だった子ばかりだから…ミレの話を訊くだけで色んな事が進んだんだなーって思っちゃうわ。」

「えー!でも、ナナヤの方がキラッキラの都会に住んでたじゃん!?いいなーっ!私もガム踏んづけて、ネバーッていうのしたい!」

「えー?都会でも下町で汚いし楽しくないよーそんなのーふふっ、」

「ルルカも~‥う~ん‥みゃむ‥」

「あら、ルルカはお昼寝ね…ほら、ルルカ、もう私と部屋へ戻りましょうか」

ウィリアンがほとんど床に丸まっているルルカをすくい上げていた時、

「、ミレの村見てみたい…」

ウィリアンが来てからずっと黙って作業を続けていたクロデアがゆっくり顔をあげて言った。

「私の村?」

その目はミレをじっと見たあと、ウィリアンをしっかり捉えた。

「キラキラしてる‥と思うの、ミレがいる場所……もし、見れたら、…」

ナナヤも自然とウィリアンの固い表情に目を向ける。

「あの、ウィリアン様…私も見たいなー…」

「…」

「えっ来て来てー!?私の家にも来てくれたらさっき言ってたお菓子もだすよー!」

ウィリアンに抱えられたルルカ以外はそれぞれ訴えかける視線を彼女に投げている。

ウィリアンはルルカの顔を見つめながら息を吸って、

「クロデアは知らない人達の前へはいけないでしょう?私達の前でもあまり話せないし…もっと頑張れるようになったら、ね。」

誰とも目を合わせないように空中を見ながら、部屋を出て行った。

「「「……」」」

「…クロデア、ごめんね?」

ナナヤが完全に体が固まったままのクロデアの顔を覗き込んで言った。

「うーん、ウィリアン様は手強い人かなー?」

ミレはしぶい顔をしながらもずっと同じ速さで作業を続ける。

クロデアは涙が張っている瞳をきゅっと強く閉じると、大きい声で

「ずるい…みんな…私の知、らないこと、知ってる‥私…だけ、何にも!ない、……」

「そんなことな「暗いのやめっ!ウィリアン様に認めてもらうために何かすべきじゃない!?そーだ!クロデアはイケメンは好き!?」

「イケ…何?」

急に自分を上回る大声を叫げたミレを目を見開いて信じられないように見つめるクロデア。

「カッコイー男の子!私の村のイケメンは、オッカム君だよ!いつも女の子がたくさん近くにいて、わーって色んな話をしてて、キャーッ!てなって、キラキラしてるって皆言ってる!会ってみたくない?」

「キャー、でキラキ、ラ…見たい…会いたい!」

ミレは自分の仕事をすでに放棄していて、クロデアの隣に陣取り彼女の肩を抱いていた。

「その為にはあのウィリアン様にクロデアが出来る子だってことをアピール!しなきゃ!きっとすべてはそっからさっ!」

何も着いていけていない様子のナナヤは黙っている。

「何したら、いい?…ミレ?」

「私に訊いてくるようじゃ駄目でーす!そうだね~私が村へ帰るまでに自分クロデアで考えてね!決まったら何だって手伝うからさー♪」

クロデアはまたしばらく俯いたあと、ミレに手のひらを差し出す。

「…ありがとう、ミレ。よろしくお、願いします‥」

それが握手だと気づいたミレは口を大きく開けて笑顔を作ると両手でしっかり握って大きく振った。

どこかあっけにとられていたナナヤですが、彼女もミレに寄るとそっと肩を触る。

「私もこっそりミレを訪ねようかな。最悪夜中とかでも大丈夫?」

「え…私も皆も寝てるでしょ?何で?」

「私はミレに会いたいだけだよ。もし魔女だって気付かれたら、…って思って。」

「んー?まあー…そうだね、あれだ!よその村の友達ってことにしたげるから気にしなくていいんじゃない?夜中でもオッケーだし!私の部屋の窓に石でも投げてくれればきっと起きる!」

「あはは!ミレってやっぱユニークね。そうだ、ミレの村がどこかとお家の場所も教えてくれない?紙と万年筆は戸棚の中にある…」

クロデアはいつものように静かに黙り込んで、ウィリアンの入れてくれたお茶とお菓子をいつもよりたくさん頬張ると、あーでもこーでもないと紙を囲んで話す二人より早く仕事に戻った。

「これより、キラキラしたところあるかな」



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