第二章 私の命の速さ#3

この森は魔女の森。美しい魔女が棲んでいる。

魔女は孤独だった。 僕は孤独だった。

孤独でも生きていけないわけじゃない。

妖精のささやきも甘い歌声も聞きたくない。

ただそれぞれ違うものに恋をしていたいだけ。




深い森に差し込む僅かな木漏れ日に喜びを感じて、それに応じる様に輝く木々の集まりが一部拓けた場所へとミレは案内された。

そこは貴族の宅地を思わせる広さで、実際ミレ達が歩いている所から少し遠くの方に城のような屋敷が見えてきた。

ただ、近付いて来るにつれその屋敷は大きさは小城のようでも、城とは違って白いレンガを積み上げて作られた変わった建物であることが分かる。

貧相さは感じさせないが魔女らしさは感じる。しかし見た目が白いせいか禍々しくは無い。むしろ、見た者の心にうまく説明できない暖かさを与える不思議な建物だった。

「ここがウィリアン様のお家?なんか変だね!」

変だと言われても魔女は怒っている様子も無くそれどころか嬉しそうに微笑んだ。

「ふふ、変でしょう?魔法で作ったから…でも内装とか細かい所は私達で仕上げたから、暮らしやすいと思うわ。」

「え~、全部魔法では作れないんですか?」

「ええ、―魔法は楽をするために使うものじゃないの。永く使うものほど自分の手で丁寧に作らないといけないわ。魔法は一瞬しか私達を助けてくれないのよ‥」

「そーなんだー」

ほぼ棒読みで返事をしたミレにシルバの視線が刺さるが本人は気にしていない。

 いよいよ近付いてきた玄関は硬そうな木製の大きな両開きの扉で出来ていた。

そこへたどり着いて、扉の横にあるドアベルを鳴らしながらウィリアンが「だれかー!」と叫ぶと間を置かずに扉が開いた。

ありがちな茶色の髪と薄い黄色の目を持つ、ミレやシルバより年下そうな男の子が「おかえりなさい」とほほ笑んだが、

ミレの姿を見ると一瞬不審そうな顔をした。

「レオルド、ただいま。ご飯はもうすぐ出来るかしら?」

「はい、あと少しで……」

「あ、この子はね、…紹介するからまずは中に入って」

ウィリアンはミレを手招きして扉をくぐり抜けていく。ミレは一度輝くような笑顔でシルバを振り返って後に続く。シルバはいつも通りの無表情で通り抜けた。

  屋敷の外が少し湿っぽい空気を帯びているのに対して玄関の中は清涼な空気が漂っている。

しかし真上にある小型のシャンデリアにはうっすらと埃が積もっていて、シルバが扉を閉めると、さらさらとそれが舞い降りてきた。

魔女はその埃すら自分を彩るものかのような優雅な振舞いでミレを指し示して

「この子は…ミレ。新しい私達の仲間になるわ。でも、ずっとではないの。しばらく滞在したら家に帰るそうよ。」

レオルドは目を見開いてミレのところで視線の動きを止める。

「……帰る家があるんですか?…なのに、どうして…?」

「‥どうしてってこともないけど‥たまには家族と離れて過ごしたいこともあるのよね?」

「うん?そうかもね!なのでしばらくよろしくお願いします!」

レオルドはミレを見つめるのをやめてまた不機嫌になった。シルバはレオルドの表情に気付いても無視をする。

「ミレ、空いている部屋へ案内するわ。ついてきて。」

「はい!」

流れる微妙な雰囲気をものともせず、ミレとウィリアンは玄関の広間を抜けて石造りの緩やかな螺旋階段を上っていった。

レオルドが大きく長いため息をついた後、顔をシルバの方へ向き直して

「今までこんなことあったか?帰るところがあるやつを入れるなんて…虐待されてるようにもみえなかった。しかも変な髪の色だし」

愚痴をこぼした。

「容姿の差別はしてはいけないってウィリアン様は言わなかったか?」

「…シルバは面白くないな。」

シルバの低い調子に気分がそがれたらしく、レオルドはその場を立ち去った。

一人になったシルバの側に寄り添ったのは、嗅ぎ慣れたスープの香りだった。


「この部屋は最近掃除していなかったから、少し埃っぽいけど‥ごめんなさいね」

ウィリアンが閉じられていた窓枠に手をかけて、外の景色をあらわにしました。多くの木々の間を行き来する外の光は遠く

のほうで夕暮れの色を含んでいます。

その光が舞うように部屋の中の様子を照らしました。

薄くほこりが積もっているが落ち着いた白さでまとめられている中型のベッド。その側に置かれたサイドテーブルとその

上のランプ。並べられている本の背表紙がばらばらの色で日に焼けているこじんまりとした本棚。ベッドと本棚のあいだの壁に収まっている同じように小型のクローゼット。長い年月を経た家具だけが放つ風格を備えた書斎机とその脚下に敷かれた絨毯。それらがありました。

「素敵なお部屋!ここひとりじめしてもいいの?」

「ええ、もちろん。まだシーツが埃まみれだから、他の子に頼んで寝る前に取り替えさせるわ。何か荷物があれば先に整理して…て、何も無さそうね。」

ウィリアンは身ひとつのミレを少しながめて、ふふ、と息だけで笑いました。

ミレは急に手をぱん、と叩いて、両手を着ているエプロンのポケットに突っ込みました。手首をくるくると回しながら取り出したのは二つのジャムの瓶。

汚いラベルのブルーベリージャム。キレイなラベルのりんごジャム。

「その瓶は…シルバが持ってきたもの…どうしてあなたが?」

相手に多少睨まれたぐらいでひるまないのはミレの長所のひとつです。

「シルバから″私が預かってあげるからよこしなさい″って取り上げたの。なんか疲れてたみたいで、私がジャム食べたがってると思って素直に渡してくれたよ。」

「…」

「このジャムはもう私の物だよ。ウィリアン様、引っ越しのごあいさつです!」

「……」

ウィリアンは黙ったまま腕を伸ばしてブルーベリージャムを掴み、そのままゆっくり自分の胸へくっつける様にあてました。

もう片方の腕をまた伸ばしてもう一つのジャムを掴もうとした時、

「ウィリアン様は私の村へ来たことがあるの?」

ミレはウィリアンの顔を見つめ続けたまま訊きました。

「あるわけないわ」

わずかに伸ばす腕がふるえた様にみえましたが、口調は何事もないように言葉は続きます。

「私はこの森で生まれ育った魔女だもの。めったなことでは外へ出ないわ。」

「そうなんですかー」

「だからミレ、あなたから外の世界の話をきかせてもらうのを楽しみにしているの。ジャムもありがたくいただくわ。明日の午後のお茶会にスコーンを焼くからそれに添えましょう。」

「いえー!たっのしみ!」

「言っておきますけど、お茶やお菓子を楽しむばかりが魔女の本分じゃないわよ。あなたも明日から魔女の見習いとしてしっかりみんなと修業してもらいますから。」

「うえー!!?」

「…なんなんだ」

レオルドは、扉を隔てた向こうから冷静な響きの魔女の声と女の子の奇声が交互に響いてくるのに気圧されて、ノックできずにいました。



夜の帳が下りきらない薄闇の食堂に在る長いテーブルの上には一定の間隔を空けて二つの燭台が置かれている。

その燭台が放つ光の輪が、二人の子どもが何度か往復して運んだ質素な料理達を取り囲む。

すでにほとんどの席は埋まっている。下は五歳から上は十五歳ぐらいの金色系統の髪を持つ十人前後の子ども達が、ウィリアンにうながされて空いた席に座るミレを見ていた。

ミレの席は長いテーブルの真ん中にあたる。両隣に座る幼い子ども達が、ねぇ、と話し掛けようとして、テーブルを挟んで前の席に座ったウィリアンに静かに、とたしなめられる。

 「みんな、食事の前に話があります。この子は今日新しく私達の仲間になった『ミレ』よ。人と話すのが好きだから遠慮しないで話し掛けてあげてね。ちなみに食事中は控えめに」

この言葉を合図にミレの両隣の幼い子ども達が攻撃の様に我先にとミレに話しかける。

「ねぇねぇ、私ルルカ!ミレはーどこから来たの?」

「ぼく、リージャ!ぼくのさかなたべる…?」

ミレは特に動揺することなく右隣のルルカと楽しそうに話しながら、その合間に左隣のリージャから、口に″白身魚のソースがけ″を放り込まれている。

「リージャは抜け目ないな…僕達も食べよう」

リージャの左隣に座る見た目は十五歳ほどの少年の言葉を合図に、ウィリアンが「いただきます」と声に出して他の者も食べ始める。

ルルカの右隣に座る、先ほどまで料理を運んでいた子どもの二人のうちの一人である見ためは十四歳ほどの少女が

「ルルカ、あまり食事中に話しかけては駄目よ。ミレちゃんが食事をとりづらくなるでしょ」

ルルカの服の袖を引っ張って注意する。

「リージャが、むぐっ、食べさせて、くれるから、むぐ、大、丈、むぐ、です、ぐ。あと、ちゃんいら、むぐっ、いなーい。」

その騒がしくも子どもらしい賑わいのある食卓を、アイヴァンの左隣に座るウィリアンが幸せそうにながめる。

「うる、さいの…こわ、い…」

ウィリアンの左隣に座る見ためは十歳ほどの少女が、ウィリアンの腕にしがみつく

「‥クロデア。ミレはとても良い子そうよ。きっとあなたとも仲良くなれるわ。あとでいいから、また自分から話し掛けてみなさい。」

「う、は、い…。」

その繰りひろげられる一部始終をロズンドの左隣、テーブルの一番端にあたる席から眺めているのはリルティーヌ。

「今日は一段とにぎやかね。ね、ヘンリー?」

リルティーヌはテーブルをはさんだ正面の席の、見ためは十歳過ぎの少年、ヘンリーに同意を求める。

ヘンリーはちら、とリルティーヌにだけ視線を投げかけて、黙る。

「私、今話し相手がいないのにヘンリーまで無視するの?冷たいわ」

大げさにため息をついたリルティーヌの足首に、ヘンリーのつま先が触れる。

それに気づいたリルティーヌは微笑む。

「嘘よ。ヘンリーは優しいわ」

「あはは、でも白身ばっかじゃん。お肉も食べなきゃ!私はアイヴァン!お近づきのしるしにどうぞ!」

リージャに白身魚ばかり食べさせられるミレの向かい側、正面のテーブルに座る眼鏡をかけた見ためは十二才ほどの少女が名乗りながらミレに葉っぱで巻かれた肉の切れはしを差し出す。

「お肉ー!どうもーアイヴァン!いただきまー」

ミレは素直にフォークの先に刺さった肉にかぶりついた。次の瞬間。

「ゔえ゛っ!辛っ!?」

ミレはイスをがたつかせて大げさにのけぞった。あははははは!!と、アイヴァンの大笑いが続く。

「お前また下らないことやるよな…」

アイヴァンの右隣に座るレオルドが冷めたつぶやきを返して

「あんたのごはんにも唐辛子仕込んどいたからー」

「はあっ!?お前っ!」

さらりと棒読みでそんなことを言ったアイヴァンの襟をつかむ。

「止めろよレオ。アイヴァンはいつものことだろ。僕もアイヴァンが席に着いた時からみてたけど、特にレオの分に何かしてる様子はなかったよ。」

レオルドの右隣に座るシルバが自分の食事を淡々と切り分けながら言う。ちっ、と舌打ちしてレオルドは手を放してアイ

ヴァンは何事もなかったように、ひどーい、と文句を言うミレと笑いながら会話を始めた。

  夕食が終わったあと皆疲れたのか遊ぶこともせず、ミレにおやすみとあいさつをして自分の部屋へ帰っていく。

残っているのは料理当番とおもわれる二人だけ。

テーブルを片付けている二人にならって残りの食器を手に取ったミレに

「ああ、ミレちゃん。今日は私とヘンリーの二人が料理当番だから手伝わなくていいのよ」

食事の時もミレのことをちゃん付けで呼んだ少女が小さく駆け寄る。

「そうですかー。えーと…?」

首を傾げたミレに少女も うん?と傾げた後、ああ、と再びつぶやき

「私はナナヤよ。あらためてよろしく。」

優しげに微笑んだ。

「よろしくです!あっ、そこの子―!」

すぐにもう一人の料理当番に気が移ったミレはそこへ走り寄る。

「ええ、と、ヘンリー?私はミレ!よろしく!」

キッチンへ運ぶためにトレイにもくもくと皿を積み上げていたヘンリーはミレの方を一度だけ見ると、すぐあさっての方向をみつめて

「よろしく」

ほぼひとりごとの様子でつぶやいて作業に戻った。

「やっぱ手伝いはいらなさそうだねー。私も部屋へ戻ろうー。」

ミレがその場で腕を広げてくるっと体の向きを変えるとその先にシルバがたたずんでいた。

さすがのミレも、ん?と顔をしかめた。

「どしたの?まちぶせ?」

「違うよ。‥ウィリアン様に君の部屋のシーツを変えるように言われたんだよ。」

「へぇ~ありがと。適当に先行って変えといてくれればよかったのに?」

「勝手に部屋に入るわけにいかないだろ。女の子の部屋ならなおさら…」

「?女の子の部屋なら何がだめなの?それに私何も持たずに来たから部屋も来たときと同じだしねー」

「……リネン庫は食堂を出て左を曲がって―「ごめんごめん一緒に行こ!」


サイドテーブルに置かれたランプの薄明りの中でも、シルバはシーツを慣れた手順でベッドへと掛けていく。

ミレはその一部始終を、書斎机に備えられている椅子にウィリアンがみると恐らく怒りだす行儀の悪い座り方をして眺める。

「ねーぇ」

「何」

「男の人がシーツ変えてる姿って色っぽいねー」

「ぶっ!?」

変なふうにむせたシルバはそのまま、ごほっごほっ、と咳き込む。少しして落ち着いて

「何言い出すんだお前」

「え?別にー思ったこと言っただけだよ」

「思ったことを言えばいいってものじゃないだろ。だいたいお前は」

「お前じゃないよーちゃんとミレって呼んでよ」

「…ミレ」

「はい」

名前を呼ばれたミレがシルバを真っすぐ見つめる。シルバは続きを言おうとするが、なぜか浮かんでこない。

しばらく見つめあっていたが先にミレが沈黙を破る。

「シルバ」

「…何」

「シーツ、変によれてるよ。やり直し。」

ぴんと腕を伸ばしてベッドを指差しミレが言った。

シルバがむっと怒りを顔に浮かべて言い返そうとしたその時、コンコンとノックの音が響いた。

「入ってもいいかしら」

「ウィリアン様?いいよー」

ドアが開いて、先にすべり込んだ影に引きずられるようにしてウィリアンが現れる。

「夕食はどうだったかしら。ミレ。」

「はい!美味しかったです!あと楽しかった!」

「そうみたいね。シルバ、用意してくれたのね。ありがとう。」

ウィリアンは微笑みを浮かべてミレを見つめたまま話す。シルバがうなづいても顔を向けることはなかった。

「ミレは字を書ける?」

ウィリアンは部屋の中を進んでミレの座っている椅子の側で立ち止まる。

「うん、書けるよ。難しい単語は苦手だけどー」

「…じゃあ、ミレは家族に黙ってここへやってきたのでしょう?それならちゃんと私は元気にやってますって手紙を書かないと。きっと今頃心配しているわ。」

「はっ!そっか私お母さんにもちゃんと言えてなかったなー…怒られるー…はぁ…」

ウィリアンはくすっとわらって書斎机の引き出しを開けた。

そこには古ぼけているけれど、こびりついた垢と錆が本来の赤色に上手くとけこんで上品にみえる万年筆。よく市場に出回っているやや黄ばんだ便箋と封筒の束。これもよく市場に出ているやや青みががった黒インクの瓶。

それらを机に手際よく並べて、最後にサイドテーブルの上のランプを掴んで机の左端に置く。

「眠ってしまわないうちに書きなさい。私はここでみてるから…」

ウィリアンはどこかふらふらとした足どりでベッドへ近付いて、シルバの隣へ座る。

あまりランプの灯りが届かないせいでシルバの姿は半分闇に紛れている。

思ったよりシルバが側にいることに気づいたウィリアンがもう一度立ち上がってミレに近付く。

「ミレ。あとね、手紙に『私は三週間ほどで帰ります。』と書いて欲しいの。」

ミレは手紙を書くためにイスの上のだらしない体勢をたて直そうとしていたところで、

「私、三週間で帰るんだ?長いようで短いようなー」

鼻歌のように呟きながらきちんと座って万年筆を手に取る。

「万年筆かー。これって高いんだよね?私普段羽ペンしか使ったことないー。お父さんが何本か持ってるから機嫌いいときは触らせてくれるけどー。」

誰かに話しかけているのか独り言なのか分からない口調でペン先をインクの瓶につっ込んだところで、ふいに頭を上げて後ろを向く。

「この森って郵便屋さんはいるの?」

ミレはまんまるに目をむいたウィリアンと目が合う。シルバからの視線は薄闇にけていてミレには気づかれない。

「いるわ。とてもお利口で速いの。今からミレが早く仕上げてくれれば子どもがベッドへ入る時間には届くから、ミレの両親が眠れぬ夜を過ごさなくてすむわ。」

「おおーっ!そうなんだ!ていうことは郵便屋さんはすぐここへ来てくれるの?」

「ええ。ミレの手紙が出来しだい呼ぶわ。」

「よっし!書くぞーっ!‥あっ!インクがたれたーっ!?」

ウィリアンとミレの笑い声が響く中で、シルバは孤独を感じていた。しかしそれはいつもより居心地の良いものだった。


ウィリアンはミレから書き上げた手紙を受け取って、サイドテーブルのランプの炎を使って封蠟ふうろうをほどこした。その足で窓際へ近付いて、とびらを開け放った。そして小さな声で歌い出す。

「~♪♪.、~♬♪…。」

「音痴だね」「言うな」

しばらくとたたずに、すっかり深い蒼の闇に染まった空から、さらにくらい色の影が現れる。

「カラス!?」

カァ、とひと鳴きしてカラスはウィリアンの腕へ止まる。

「私達の森の郵便屋さん。そして森の番人。私の相棒でもあるわ。」

「すごーい!名前はある?」

「ノアよ」

「可愛いー!」

シルバはどこが、と二人に聞こえないように呟き、カラスの瞳をじっと見る。

カラスもシルバの視線に気づいたのかじっと見つめ返したようにみえたが

「ノア。頼みがあるの。」

ウィリアンの言葉でシルバからウィリアンに顔を向けた。

「この手紙をトリスアイン村のミレの…ミレの家はどんな家なの?外から見た感じは?あとどの区画にあるのかも‥」

「外から見たかんじ?うーん…あっ、紙に描くから!」

「助かるわ。この子は紙にかいて見せた方が理解が早いから。」

二人はまた書斎机に張り付いて、おそらく地図を描いてああだこうだと意見を言い合っている。カラスはウィリアンの腕

に止まったままその手紙を覗き込んでいる。

「………」

もう特にこの場にシルバ自分は必要ない。シルバはそれを解っているが部屋にとどまっていた。

「できた!ノア分かる?届けてくれる?」

ミレが自分の家への道すじを説明するための地図やら言葉やらが雑に書かれた紙をノアの目の前にかざす。

ノアはカァ、とまたひと鳴きしてミレの手から手紙を咥え取り、翼をせわしく振って窓から飛び出すと夜空をいで森の向こうへ消えていった。

「さてと…これでミレはもう立派な私達の仲間ね。」

「そうですねー。なんかドキドキするな♪」

ミレはノアに向かって手を振り続けている。

「さぁ、もう眠る時間よ。シルバも部屋へ戻りなさい。ミレは、子守歌は必要かしら?」

「いえ、けっこうです!」

ミレは元気よく答えてベッドは飛び込むように転がった。その反動でシルバは上手くベッドから立ち上がる。

「ミレ、クローゼットの中に寝間着の予備があるからそれに着替えて休みなさい。…それじゃあ、お休みなさい。」

「お休みなさーい。」「お休みなさい。」

ウィリアンは二人に軽くうなづいて、ドアを開け部屋をあとにした。

「おやすみのチューなかったねーちぇー。」

「僕らはもうそんなとしじゃないだろ」

「え?私のお母さんは毎日してくれるよ?″女の子はお嫁にいくまで子どもだから″って!」

「…僕ももう寝るよ。お休み。」

「シルバもチューしてくれないの?」

「なっ…!?するわけっ…お休みっ!」

「あー逃げやがったーつまんねー」

すでにシルバが出ていったドアの方へ向けてミレは文句を言った後、振り返りもう一度窓の方を眺める。しばらくののち、そのまま視線をクローゼットへ移して、立ち上がり、中の寝間着を取り出しその場で着替えて、ベッドへ戻る。

「みんな良い人で良かったな…あ、魔女か。いい魔女で良かったなー…んーなんか違う?まぁいいか。三週間、魔女になれるよう頑張ろー!ん?でも何を頑張るんだろう?…うん、わたし的家訓!″悩むなら寝ろ!″!おやすみ!」

ミレはすばやくランプの火を消して、ベッドへ潜り込んだ。

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