第二章 私の命の速さ#2
愛、と訊かれるとよく分からない。
自分の手の中で死んだのか、最初から無かったのか、指のすき間からこぼれたのか、それすら分からない。
父親とは幼い頃から二人暮らしだった。母はもっと幼い頃に病気で死んだ。
母はどんな人だったか思い出そうとしてもあまりに幼すぎて記憶がほとんど無かった。父はそのことを責めなかった。
父の仕事はわりと有名な農家の下で働く小作人で、僕がある程度成長した頃には小作人をまとめる立場に出世していたと思う。
休みがとれた時は、僕が
父は細かい作業が好きで、いつも変な材料を調達してきては新しい釣り道具をつくっていた。そして失敗してはうなりながら僕にどこが悪いかきいてまた苦笑いをしていた。
この生活に他人が入り込む余地はないと思っていた。
父が最近入って来たという小作人見習いの若い女性を家に招いた。
あまりこの年頃の女性を近くで目にした事がなかったからじろじろと見てしまったかもしれなかった。けれど、女性は目が合うと無邪気に笑ってくれた。何となく居心地の悪さを感じた。
父の結婚が決まった。
相手はその女性だった。 もう何度も家に来ていたから予感はしていたけれど自分がいるから無理だろうと思っていた。
でも女性は両親を数年前に亡くしていてほとんど身寄りが無く誰も反対しなかったらしい。
女性は僕達の家に移り住みほどなくして身ごもった。新しい家族が出来ることが純粋に嬉しかった。
女性は僕を頻繁に呼びつけては本当に嬉しそうにお腹をなでさせて赤ちゃんがお腹を蹴る音を聞かせてくれた。
女性がいらいらしていることが多くなった。
前は小言を言うだけだったのが、舌打ちも混じるようになった。
僕は
何を言ったらいいのか分からない。女性が金切り声をあげている。
こんな事なんでもないはずなのに、あの時言ってしまった。
女性は住み始めた頃『私をお母さんだと思って頼ってね!あ、何なら今から私のこと″お母さん″て呼んでみて!』と提案して僕は恥ずかしい思いをしながら女性のことを時々″お母さん″と呼んだ。
「お母さん」 本当は母親なんて何なのか解らなかった。
「何て?」
女性が一気に冷たい表情に変わった。
「お母さんて、誰のこと?まさか私のことじゃないわよね?分かってると思うけど、私の子どもはお腹のこの子だけよ。もしかして本当の母親のこと?そんなに会いたいの?なら早く死んで会いにいけば!!」
女性の言っている事は正しい。それが分かるから、どうしたらいいのか分からない。
今日もこうして過ぎていく。どんな形でも家族は「家族」なんだろう。
父に釣りに誘われた。
女性が家に入ってから初めてだった。
父が、今日は穴場の湖の場所を聞いたからそこへ出掛けようと言った。
いつもよりはるかに遠い道のりに思えたけど、前みたいに軽口はきけなかった。
―深い霧の匂いを絡めて生えてきたような木と木と木。
光が届かないような、そうでないような木々達の間にけもの道があって、父はひたすらそこを行く。すべてが何て言って
いいか分からない、不自然な感じがした。
父が木がまばらになった場所で立ち止まって、落ち着かなさそうに前後左右をぐるっと見た。最後に僕と目が合う。
「…お前が、
合った視線はすぐに外された。女性が来てから何度されたことだろう。
「俺は、お前と
父がつばを飲み込む音が聞こえる気がした。こんなに距離が空いているのに。
「幸せなんだ。俺は、昔も、今も…‥
父と釣りをすることはもう叶わないのだと願いが哀しみに変わった。
「この森は子どもさらいの魔女が棲んでいると噂がある。さらわれた子どもも魔女になって一緒に暮らしているとか………シルバ…」
生き物が枝を踏む様な音が聞こえた。父が鋭く震える。
「…ここから先は一人で行くよ。…
父が望んだ家族を手にする事ができて嬉しいと思う気持ちに嘘は無かった。
父が息だけを吐いて僕の釣り道具の入った袋を差し出した。
僕が近づいて受け取ると、父は僕を半円を描くように大きく避けてすれ違いざまに「元気でな…」と言った。 僕は父の姿を見送らなかった。
さっきから細かく鳴っていた葉を潰す音が、ザリリリ、と連なってはっきりと人の気配が現れた。
ひときわ目を惹く肌の白さ。―
れとは違う感じがした。
何か、病気? 、と考えるあまり女性の顔をじっと見ていることに気付いて、あわてて背を向ける。
背中に気配が近付いて柔らかい声が耳に届く。
「殺してもいい?」
首をねじって女性の顔を見る。その目は冷めていて、父の去った方向を見ていた。
ぬるい湿気の混じった風が女性の金色の髪を揺らす。
この
「殺さないで。あんなのでも、僕の父親だから…」
女性が僕をはっきり見た。
「ごめんなさい。変なこと言って…」
「……」
僕は父以外の人と話すのは苦手だった。素早く辺りを見渡す。
「ここは…何が釣れるんだろう。」
「へ?」
僕の言った独り言に女性が反応する。
しまった、と思った時には背中に熱い視線が送られているのを感じてうまく動けなくなる。
「なんだか…昔、闇市で手に入れた物語の本に出てくる旅人が現れたみたい」
「旅人…」
「昔の言葉で書かれているしボロボロだから全部は読めなかったんだけれど…その旅人はいつも釣りをしているの。挿し絵もあなたに似てるわ」
「そう…」
「…本に興味はない? 字は読める?」
「え?‥字は読めるけど、本はほとんど読んだことない‥」
「本を読むのは素敵よ。私は字が読めるようになってから自分で少しづつ本を集めるようになったんだけど、色々な事が知れるし違う世界へも行けるの。」
女の人と長く会話をするといつもなら息が苦しくなる頃なのにそうならない。
なぜなんだろう。自分でもよく理由が分からない。
肩に何かが触れた。女性の手だった。
「私達の仲間にならない?家族として、歓迎するわ」
家族。何度も聞かされた言葉。胸がドクドクする。
「あなたは僕の母親になるつもりなの?」
女性が怯えるような目をしているのが見えた。
すぐに普通の表情になって肩から手を降ろして
「私は子ども達が望むのなら母親になってきたわ。…もちろん、嫌なら無理強いしないわ。姉とかでも…」
「何にもならないって約束してくれるなら仲間になります。」
「………」
女性が何とも言えない顔をした。出会いからから感じた女性の親しみやすい雰囲気はふと消えた。
急に足元のぬかるみを重く感じた。そういえば、近くに沼の気配も無いのにどうしてここは湿気が多いんだろう。.
「私は」
女性の抑揚のついた声が響く。僕に言ってるんだとしたらそんなに大きな声を出さなくても聞こえる距離なのに。
「あなたの家族にはなれないかもしれない。でも、味方にはなれるわ。…そして、あなたを守りたいと思ってるわ」
「守るって、何から?」
「色んなものから、よ」
僕は女の人の抽象的な言いまわしが好きじゃない。言葉の意味を避けて、感情でぶつかってくるから。
女性はそのあとは何も言わずに歩き出した。何も納得できない。でも僕についていく以外の選択肢は無い。
「良かったら、荷物持ちましょうか?」
女性が柔らかい動作でおそらく僕の釣り道具の入った袋を指差した。
「……いらないです。 もし釣り竿が壊れたら困るから…」
「釣り竿?が、入ってるの?」
この時女性の目が輝いた気がした。
「…僕の作る釣り竿は造りが複雑だから壊れやすいんです。だから他の人にはあまり触れられたくない、…んです。」
女性にじっと見られている気がする。目の輝きが増している気がする。
「釣り、…しますか?」
女性の口の両端が上がる。気のせいじゃなかった。
女性に手を引かれて霧の壁を通り抜けた。
霧の中に入ると自分が死んでいるのか生きているのか分からなくなりそうだった。
けれど、女性の手の
「さて、ここで釣りはどう?」
普通の沼より大分こじんまりとしていたけど水はけっこう澄んでいて、泥臭さを感じさせない。
時々浮かぶ藻草の間からピシャ、と魚の跳ねる音がして、見えないから余計にどんな魚か気になってしまう。
「ふ、どんな魚がいるのかって気になるでしょう?」
僕は考えている事が顔に出やすいのかな。
「ここの魚はなかなか用心深いのよ。だから今まで誰も釣れたことがなくて…あなたは自分で釣り竿を作るぐらいだから釣りは自信があるんでしょう?」
「…コツぐらいなら」
僕は沼に向かって左に座って、あいだに釣り道具を広げて、右に女性が座った。
時折道具を手に取って、これは何?と訊いてくるのに答えた。
一度試しに僕が釣りをしてみる。 確かに何の手応えも無かった。
「…ここの魚は警戒心が強いから、普通の釣り方は無理かもしれない。…こういう場面での釣り方を教えるから見てて」
「″釣り糸をなるべく遠くへ飛ばす。着水して釣り針の震えるのが落ち着いたら、水面をなでるようにして大きく左右に揺らしながら、ゆっくり自分の元へ引き戻す。この時浮草に引っ掛からないように注意する。″」
女性がもう一度と言うので今度は説明無しでもっとゆっくりする。女性はじっと僕の手元を見ている。
「…やってみるわ」
「もう少し準備するから、待ってて」
ここの魚はまだ正体が分からないのでどんな魚でも好みやすい匂いがキツめの混ぜ餌を付けてみる。それすらも女性は不
思議そうに見ていた。
「あまり力を入れて握りすぎないで。あとわきを軽く締めて」
女性に釣り竿を渡しながらお手本を演じる。
女性は口の中で手順をいくつか唱えてから勢いよく竿を振った。
釣り針はさっき僕が投げたのと似た位置に着水する。
女性が軽く息を吐いて整えている間に釣り針の震えが収まる。完全に止まる前に、と声をかける前に釣り針は動きだす。
薄く汗の浮いた女性の横顔を盗み見る。続いて手元も
ている。針の軌跡も悪くない。
魚のうろこの光みたいなのが一瞬針の近くで揺らめく。それで女性はうろたえたのか竿を大きく引っ張った。
「「あ!?」」
僕と女性の声がトーンは違うけど重なって、その目の前で釣り針が大量の藻草に引っ掛かる。
そのまま藻草を引き揚げるのは無理で、当然魚の影もいなくなって、針は完全に絡まって動かなくなった。
「と…れない!」
女性がどうにかしようと釣り竿を動かすあまり体が前のめりになって、足が沼に落ちそうになっている。
「代わるよ」
僕が釣り竿に手を延ばすと、明らかに女性は釣り竿をさっと引いた。
「自分でやってしまった事なのに人に頼るのは好きじゃないの。」
…僕の釣り竿を壊されたくないのだけど。そう言い返しそうになって思いつく。
女性の背後に回り込む。……当たり前だけど、十四才の僕よりも五つは年上にみえるこの女性は背が高い。
「何?どうして後ろにいるの?」
釣り竿のせいで後ろを振り向けない女性がいかにも怯えた声で言う。
「膝をついてしゃがんでくれますか?‥後ろから竿を引っ張るのを手伝います」
「…突き落とされるかと思った。」
嫌だと言われるかと思ったけれど女性は服の裾を整えながらすんなり膝を着いた。
近付いてすぐ真後ろに立つ。
「一度釣り竿を引っ張るのを止めて。藻があまり動かなくなったらゆっくり竿の先端をこう、沼に近付けていって」
後ろから釣り竿を指で押してゆっくり曲げて動作を伝える。女性は分かった、とだけ応える。
久しぶりの様な無言の合間が流れる。
しゃがんでやっと僕より低くなった女性の頭が目に入る。…本当だったら、こうして釣りを誰かに教えるのは、頭をながめるのは自分の子どもにだと昨日まで疑わなかったのに。
「この後は?」
指示通りにした女性が次を言わない僕を半分振り返ってたずねた。
物思いにふけていた自分にうろたえる。
そのせいで言葉がうまく出てこなくてとりあえず釣り竿を押して進めようとした時、ギュウ、と変な音をたてて釣り竿の先端が大きくしなった。
「…っこれ!もしかして!?」
なかなか大きくて力の強い魚の気配がする。その割に釣り糸の揺れが少ない気もした。
慌てて立ち上がろうとした女性の肩を軽く抑える。
父は僕の力が足りなくて引っ張り上げられない時背中から抱き着く様にして竿を持って手伝ってくれた。
さすがにそれは出来ないので女性の頭のすぐ上辺りの釣り竿の部分を掴んで手助けする。
「 腕が…
見ると女性の手が小刻みに震えている。釣り糸の先の魚は隙をみせない。
「糸、切るから」
「え!?待って!ここで逃すのはもったいないわ!!」
「このままじゃ僕達沼に落とされますよ」
ここの魚は恐らく頭が良い。わざとこうしている可能性もある。もしかしたら魚じゃないのかも…
ヒュウッ、という甲高い音に反応する前に「危ない!」という大声で体が固まってそのまま地面に押し倒された。
「っつ…」
小さい呻き声、頭を包むように添えられた手。胸の辺りに付く柔らかい感触。首にまとわりつく長い髪のウェーブ。
「………」
「っ…大丈夫?痛っ…」
何が起こったのか周りを観てみる。
沼に落ちかけた釣り竿。釣り糸は半分程で切れていて、竿の持ち手のあたりも少し木が裂けている。
「手を切ったんですか」
「手は木のささくれがいくつか…それより釣り糸が切れて跳ね返った釣り竿が体に当たって…痛た…」
…僕が釣り竿に当たりそうになるのをかばったんだろうか。
女性は僕からゆっくり体をどけて、ため息をはきながら釣り竿を見る。
「釣り竿が…ごめんなさい」
「いえ…僕ももっと早く釣り糸を切ればよかった」
「…ええと…家に帰ったら、何か修理に使える材料はあると思うわ!あ、ここにしかない綺麗な木や糸もあるのよ!」
ここにしかない‥、魔女は魔法で何でも作り出せるんだろうか。
「…これも糸で出来てるんですか?」
「え?」
普通の女性よりも金の輝きが強い髪の毛を引っ張る。女性が驚いた顔をする。
「そんな訳ないでしょう!何を言ってるの?」
「…釣り糸に向いてるほどよい硬さだと思って」
「どうせ私は剛毛よ!ほっといてよ、もう!」
女性が頭を振って僕の手から髪の毛がすべり落ちた。一瞬魚を逃した時のような気持ちになった。
「‥‥あなたは魔女なんですか?」
「魔女にみえない?」
「かなり」
「…本当は私はかなり恐い魔女なのよ。がーお。」
「……」
じっと僕に見つめられているのに気づくと、女性は気まずそうに目を逸らした。
「…さてと、そろそろ帰りましょうか。」
女性はわざとらしいような口調で言いながら釣り竿を拾って僕のところへ持ってきた。
…釣り竿。僕にとって、釣り竿はただの道具じゃなかった。
父親とうまく言葉を交わすための大切なものだったし、自分のことをうまく相手に伝えられなくて心がざわつく時も、釣り竿を握ればいつもの自分に戻れた。
この釣り竿は父が僕専用に作ってくれた古いものだ。直して使うほどに執着もない。でも古くても手になじんでいたから捨てたくなかった。
竿の持ち手の木が裂けた部分を足で踏んで思いきり引っ張る。
「な、何してるの!?」
女性の叫ぶ声はベリリリ、という音に重なって意味がよく聞こえなくなる。
木の裂け目は広がって最後はバキ、と折れて中途半端な長さの二つの棒に分かれた。
棒にだらしなく絡んだ釣り糸で手を切らないように慎重に糸を取り外す。
完全に分かれた二つの棒を十字に重ねて糸で
ここの土は湿って柔らかい。僕の十字架は簡単に地面に刺さった。
「まさか…お墓なの?」
今、
「そうです。父の中での僕は死にました。これは死んだ僕へのお墓です。」
「……。生まれ変わって、私達と生きる?」
「…そうですね。いっそ名前も変わりたいです。‥魔女。ですよね貴女。僕に名前を授けてくれませんか。」
「それは、嫌ね。愛されなかったからといって名前は簡単に変えるものじゃないわ。慣れないと不便みたいだし。
名前なんてただの記号だから気にすることはないわ。」
どこまでも魔女らしさを感じない、しかし芯のある女らしさみたいなのを感じさせる人だった。これが本に出てくる魔女じゃない、本当の魔女の姿なのだろうか。
僕は死んだ自分のために精霊に祈りを捧げた。
葬儀の時には皆<精霊を呼ぶ花>をたむけて死者のために祈るけどここには<精霊を呼ぶ花>が無いから仕方がない。
一応念のため何か花は無いか周りを見て、魔女の冷めた視線とぶつかった。
その雰囲気には祈りそうな気配が無かった。
どんな悪人でも死んだら皆平等なのでその場に居あわせた者は祈りを捧げるのが決まりだ。
「…祈ってくれないんですか」
「私はいいわ。それよりもう終わった?」
「…はい」
僕の曇った顔を気にしたのか魔女が声の調子を落として言う。
「私も祈りたい気持ちはあるわ。でも何に祈ったらいいか分からないの。」
「何に…て精霊以外にあるんですか」
魔女は、ふ、とわらって今までみせなかった薄汚さを感じさせる表情をした。
「魔女になって一番不幸だったことは、何に対しても祈れなくなったことね」
「貴女は―…」
言いたいことが、訊きたいことが多過ぎて、何も言えなくなる。
こんなにも誰かを知りたいと思ったのは初めてだった。
女性が話し疲れたのか、作り笑いを僕にした。
「本当にいいかげん帰りましょうか。子ども達も待ってるし。今日はロズンドとアイヴァンが料理当番だ、!―」
衝動的に魔女の手をにぎっていた。驚いた顔の女性と僕はしばらく見つめ合っていた。
「…何?」
女性は不機嫌な顔つきで僕を睨む。居心地の悪さを思い出して、ゆっくり眼を泳がせて視線を外した。
「手の…傷。‥消毒の草持ってきてるから手当てします。」
「いらないわ。私は人より治りが早いの。」
「沼での傷は普通に怪我するよりも悪くなりやすいです。少しの傷でもきちんとしないと駄目です。」
魔女はそれ以上何も言い返さなかった。 僕は釣り道具の袋にはいつも傷の手当てに使う物一通りを入れていた。
傷自体はたいしたことはなかった。ピンセットでささくれをとって、切れて血がにじんでいる指には薬草を小型のすり鉢で擦ったあと揉んであてがい、上から細長く切り取ったきれいな布を巻きつけた。
「…ありがとう…」
女性が少しうるんだ
僕より、大きい透きとおった白い手。長くて少し骨ばった指。その中のいくつかの、傷づいて僕が手当てした指。
そこに唇が吸い寄せられた。布のさらりとした感触が触れる。すぐにその指が大きく動いて顔も払いのけられそうになった。
「…私は祈られるのも嫌いなの」
‥ああ、傷の手当てをした時にする祈り、もといおまじない、″早くケガが治りますように″と包帯の上からするキスか。そっか、今のが…
学校で傷の手当てが上手いからといって、時々女子に頼まれた後そのキスをせがまれる事があったのを思い出した。
魔女が立ち上がった。そのまま僕の方を見ずに森の奥へ向けて歩き出す。
しばらく歩いて立ち止まって、ちょっとこっちを振り返る。
なぜか胸がドクドクいって息が少し苦しい。この胸の音が恐い。でも魔女に置いて行かれるのはもっと恐いと思った。
僕は走った。…魔女に追いつく。 女性は何も言わずに微笑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます