最終話 やっぱりラブコメは最高だぜ
あれからひと月が過ぎた。
俺にとって最近の学校生活は順調だった。
俺は相変わらず公子先生のところへ行ったり、福道先輩とラブコメについて語るようになったりして、俺はまず簡単なラブコメであるショートストーリーを書くということを続けていた。
「うん。風宮くん、だんだんと物語の作り方わかってきたね」
「ありがとうございます」
「もしかして、風宮くんが理想的なラブコメ作品を書けるようになる日もそう遠くはないんじゃないかな?」
「はは、そうなるといいですね」
相変わらず福道先輩とは気が合うし、男同士でしか語れないラブコメの話題も楽しい。
こうして文芸部へ来て日々を過ごすだけでも充実しているのだ。
が、もちろん、部員は他にもいるわけで。
「風宮、この小説どうよ。新作よ!」
白木は新しい原稿を書き上げると、真っ先に俺に見せるようになった。
本人いわく、同じ文芸部だからという理由だそうだが、なぜか毎回妙に嬉しそうだ。
「じゃあ、後で読むから」
「読み終わったら感想、聞かせなさいよね!」
「はいはい」
これも同じ部活の部員としてのコミュニケーションだろう。
そして部員はさらにもう一人。
「風宮くん、私もこんな話書いたんだ! また風宮くんに読んで欲しいな」
同じく文芸部である佐島さんともこうして仲が良い。
佐島さんとはクラスが違っても、放課後に過ごすのはこの部室だから同じ場所だ。
それもあって、今は毎日のように学校で会う。
「うん。じゃあ佐島さんのも読ませてもらうよ」
そう言って、佐島さんの原稿も受け取る。
「いやあ、次の部誌が楽しみだねえ! こうやって活動を続けていれば、来年はもっと新入部員が増えるかもしれないね! わが校の誇りある部活動にしたいものだね」
部活が賑やかになって、こうして活動が順調に続くことで福道先輩も嬉しそうだ。
ふと、福道先輩はこう言った。
「そうだ。風宮くんも今どんどん文章力を上げてきてるし、長編小説を書けるようになったら、いっそネットにアップしてみるのはどうだろう? 最近は小説投稿サイトなんかもあるし」
「ネットにアップ……ですか」
最近そういうのをよく聞く。
「小説家になろう」や「カクヨム」といった小説投稿サイトがある。
そういう場所に自分の作品を公開するということだろう
「そんな、俺みたいな素人がネットにアップなんて。俺が書きたいのはラブコメだし、ああいうのとは畑が違うような気がします」
そういった「なろう」系はそこからアニメ化する最近の傾向としてはいわゆる「異世界転生」もしくは「異世界転送」といった異世界ファンタジーものが中心のイメージがある。
俺が書きたいラブコメとは畑が違うのではないだろうか。
「そんなことないさ。風宮くんが好きなラブコメだって立派な一つのジャンルだよ。ああいうとこって、ファンタジー以外にもラブコメでもミステリーでもなんでもOKなんだ。学校の部活とはまた違う快感を得られるかもしれないよ」
福道先輩にそう言われると、なんだかそれもいいかも、という気になってきた。
「いつか、そういうの書けたらいいですね」
俺はそう返答した。あくまでもいつか、の話だが。
そして夕方になり、部活も終って下校時間だ。
「じゃあ、みんな。気を付けて帰るんだよ。また明日」
福道先輩は部室の鍵をかけると、活動記録を出すとのことで職員室に歩いて行った。
その場に残された一年生三人組の俺たちも下校時間だ。
「さてと……」
帰るか、と俺が通学リュックをかつぎなおしたところだ。
「ねえ、風宮くん」
佐島さんが声をかけてきた。
「風宮くん、また私の取材にも付き合ってほしいな。今日もどこかへ行かない?」
帰りにどこかへ行こう、という誘いだ。
すると、今度は白木が声をあげた。
「あ、今日はあたしが風宮に新しい話について聞いてもらおうと思ってたのに!」
同じ部活で下校時間が同じなのだから、帰る時間は同じなのだが、なぜかこうなる三人で一緒にいるようになった。
「ほら、風宮。今日はまたファミレス行って原稿読んでくれるんでしょ」
白木は俺の腕を引っ張った。
「ええ? 私とまた本屋とか行こうよ」
今度は佐島さんが俺の腕を引っ張る。
「まあまあ、今日も三人で帰ればいいじゃん」
こういう時はどっちと選ぶよりも、みんなで行けばいいだろう、と俺は思った。
「じゃあ、またショッピングでも行こうよ。あの雑貨屋さん、新しい小物入荷したんだって」
「いや、ファミレスで新メニューのスイーツが出たのよ、それを食べに行くのよ」
「はいはい。じゃあ両方行こう」
まあ俺としても、女子二人とどこかへ行くというのも悪くはない。
「じゃあ、行きましょう! ほら早く!」
二人の女子と、男子の俺。なんかある意味ラブコメっぽくはあるな、と俺は思った。
白木と佐島さんとの寄り道から家に帰り、俺は自室で一人もの思いにふけった。
今日、福道先輩が言っていた「長編小説が書けるようになったら小説投稿サイトに投稿してみたらどうだろう」という部分だ。
長編小説が書けるようになったら、なんていつの話になるかはわからないけど、試しに思いついたものから形にしてみるのもいいかもしれない。
「俺が書けそうなもの、それはやっぱりラブコメだな」
やはりその考えにたどり着く。そう、俺が憧れるのは理想のラブコメものだ。
「よし、まずは何か書いてみるか」
こうして俺は、自室でパソコンに向かった。
「ふむ。俺が書きたい理想のラブコメか。それはやっぱり普通の男子が女子に惚れられて、いつの間にか周囲には女子が集まり、その女の子たちと理想的な青春を送る、定番ものだけどやっぱりこのスタイルだな」
まずは定番であり、王道なものがいいだろう。
「やっぱ俺の理想の学校生活を書けるのがいいだろう。それはもう男の理想を詰め込んだ。そうなると、主人公はどういうタイプがいいかな?」
俺は少し考え、ある案が思いついた。
そしてパソコンに俺が書きたいと思っているラブコメのタイトルを打ち込んだ。
「タイトルはこれだな!」
どん、とそこには大きなフォントで書かれた文字が表示される。
『ラブコメに憧れた俺がラブコメの主人公になってました』
「主人公はラブコメ生活に憧れている男子高校生。女の子にもてたいと様々な経験をしていくうちに、成り行きで女子と親しくなり、モテモテになってラブコメ生活を送る。ラブコメに憧れていたはずの主人公がいつの間にか傍に女の子が寄ってくる。これは最高じゃないか!」
男子が憧れるラブコメ好きな主人公がいつの間にか女の子に寄り添われてる、これはまさに男子が憧れる物語ではないだろうか。
「これは自信作になりそうだ。だってまさに俺が憧れるラブコメ生活だしな!」
なぜか自信が沸いてきた。これはなんだかリアルに書けそうだ、と。
「じゃあ、早速書いてみるか!」
俺はやる気満々でパソコンにタイピングを始めた。
「いつかこれを賞に送ったりしてみたいな」
なぜかそんな野望までが浮かんで切る。
「俺の小説が受賞すれば、たくさんの人に読んでもらえるチャンス!」
そうすれば、多くの人に俺が考えた理想のラブコメ生活の物語を読んでもらえる。
「いや、それはスケールが大きすぎるな。せめてまずは俺自身が満足する完成度のあるラブコメを書こう!」
俺が男子が憧れるラブコメを書くことで、まずは自分が読みたいラブコメを形にするのだから、それはまず俺自身がわくわくすることだ。
「いつか俺が世間に需要があるラブコメを書いて、ラブコメの面白さを広げたいぜ」
ラブコメとはそういう俺と同じようにラブコメに憧れる男子がそれを読んで楽しんでもらえるのがいいところだろう。
それならば、俺が世間のニーズに合った物語を書けばいい。
そして俺は叫んだ。
「やっぱりラブコメは最高だぜ!」
こうして俺は憧れのラブコメ小説を書くことになるのだった。
了
風宮くんはラブコメが書きたい 雪幡蒼 @yutomoru2
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