第24話 君も文芸部においでよ
それから数日後。
出張から帰ってきた公子先生に俺は一連のことを話した。
「はっはっは、自分がラブコメのような展開を望んだあまりそんな嘘をついて振られた最低男ってことにしたか。なかなか大胆なことをしたね」
公子先生は大笑いしていた。
クラスの女子をかばうために、あの小説は自分の失敗談を書いてと頼み、それで白木の友達の話を書いたんじゃないと証明する為に、自分は最低な男だという嘘を作り上げ、クラスメイト達の前でそう言ったと。
「他校の女の子と付き合いたい為に、その女の子を騙してたとか、本当にアニメや漫画とかの最低男みたいな設定を自分のことにするなんてね」
「他に方法が思いつかなくて。どうせ俺はラブコメ好きなやつだから、そういうことやりそうって風にみられてもおかしくないし。いっそ俺の方がそれを受け止めればいいって。俺がラブコメ書きたいってクラスのみんなに思われても、それは嘘じゃないし」
もちろんこれは未熟な方法だと思ってる。いい方法も思いつかずに、自分が泥をかぶる。
自分が痛い思いをせずに解決する方法だってあったかもしれないのに、俺はこんなことを選んでしまった。
「まあ、君くらいの年齢だと思いつくのはそれくらいかな」
「やっぱ変でしたかね? 他のやり方とか、全然わからなくて」
わざわざ自分の偽りの恥を皆の前でばらすようにして、自分に非難の目を向けさせる。
もちろん、これは俺のこれからの周囲の目にも関わるし、学校でしばらくは変な目で見られるだろう。
「けど、アニメや漫画にはには時折そんなこともあるでしょ? 女の子をかばう為に自分に周囲の目を向けさせるとか。わざと非難の目を浴びさせるとか。そうやってあえて自分を犠牲にするってことも時折必要かもね」
「俺としては損した気分ではありますけど、どうせラブコメ好きなら周囲にそう思われていてもいいかな、と思いました」
「まあ人の噂も七十五日っていうし、次第にみんな忘れていくさ」
俺のことが最低男だと噂話になったとしても、どうせ時間が流れても次々と話題は変わっていく。
俺みたいな地味なやつのことなんて、しばらくすればどうでもよくなるだろう。
「それが君流のやり方だったってことさ。これも学生のうちなら青春の一つだよ。若いうちの苦労は買ってでもしろって言うしね。きっとこれから役に立つよ。若いんだから、いろんな経験をしていくといいさ」
「……そうですね」
「君はそうやって女の子を助ける方法をどんどん学んでいくといいよ。今回は自分に非難の目を向けさせるって方法だったけど。他にもいくらでも解決法が探せるって言うのならならさ、これからそういう方法が思いつくように勉強していけばいいんだ」
公子先生にそう言われると、俺が今回やったことはよかったことなのか、と少しだけ救われるような気がした。
「そんなわけで、いろんなことを経験していくといいさ。頑張れ男の子」
「……はい」
今回のことがいいことか悪いことかは、結局俺の本人次第というわけだ。
俺がいいと思っているのなら、それでいいのかもしれない。
翌週、俺は学校の学食にいた。
あの自習時間の告白以降、俺はしばらくの間、教室ではなく別の場所で一人で昼飯を食べることにしていた。
嘘とはいえあんな告白があったばかりでは、クラスメイト達の俺への視線が気になるからだ。
一人で定食を食べていると、俺が座っていた場所の対面のテーブルに、一人の女子が座った。
「あ、風宮くん」
佐島さんだった。こうして学校で会えば、普通に話すのも当たり前になっていた。
「風宮くん、凄く大胆なことしたね。同じ部活の子を助ける為に、自分のせいにするとか。どう? あれから大丈夫? クラスの人に何か言われたりしてない?」
この前、俺は佐島さんには俺の作戦についてこういうことをした、と伝えた。
もちろん佐島さんは俺が本当はあんなことをしていないと知っている。
だから気軽に話すことができた。
そしてこうして俺に気を使ってくれてる。
「おかげであの後クラスの奴からヤリチンとか無茶苦茶言われることもあってね。女遊びをした最低男ってことで。俺の株は大暴落ってわけだ」
「そんな、風宮くんは全然そんな人じゃないのにね」
佐島さんは優しい。こんな俺の発想を否定することもなく、こうして受け入れてくれる。
「そうやって自分を犠牲にしてでも人を助けるってことができるのも凄いことかも。私だったら、きっと怖くてそんなことできない」
「まあ、馬鹿な方法だとは思ったけどさ。他の方法も思いつかなかったし」
俺のやったことは無茶苦茶は方法だとは思う。
そうだ、と俺は気になったことを言ってみる。
「佐島さん、こんな俺とこうして一緒にいたりしていいの? 俺と一緒にいると、最低男の遊び相手とか思われるかもよ?」
クラスメイトにはあんなことをした、と思われているのだから、他のクラスである佐島さんも俺と一緒にいることで、どんな目で見られるかわからない。
「ううん。わかってるよ。風宮くんがそういう人じゃないってことくらい。風宮くんだって、友達を助けたいって事情があってやったことだもん。大丈夫、私のクラスではそんな噂してる人いないし、みんなそのうち忘れていくと思う」
幸いにも佐島さんのクラスでは俺の噂をしてるやつはいないようだ。
そして佐島さんも公子先生と同じようなことを言った。いずれみんな忘れていく、と。
「私は風宮くんのこと信頼してるから。他の人が何と言おうと、私は風宮くんの味方だよ」
ああ、佐島さん。それは嬉しい言葉だ。
こうしてあんな方法をとった俺のことをこうして接してくれる人がいればそれでいいか、という気持ちにもなった。
「そうだ」
佐島さんは何かを思い出したかのように、手をぽん、と叩いた。
「私ね、公子先生の指導のおかげで、ようやく小説が書けそうな感じなんだ。ほら、前に風宮くんと学校の帰り道にお買い物したでしょ。あの経験が生きてきて、私も場面を書くってことができたの」
佐島さんはあれから裏でいろいろと頑張っていたようだ。
あれを取材として、それを基に、すでに作品を書こうという姿勢がある。
「へえ、凄いね。あの経験が役に立ったっていうなら、俺としては嬉しいよ」
俺がそう言うと、佐島さんはにこっと笑った。
「もしも私の書いた小説が完成したら、それはぜひ風宮くんに読んでほしいの。協力してくれたし、それはやっぱり風宮くんに読んでもらわないと」
ようやく小説が書けそうだという佐島さんは嬉しそうにそう言った。
「ああ、俺でよかったらいくらでも読むぜ」
しかし、佐島さんの小説を書こうという姿勢を見ていて、俺は思った。
以前の佐島さんは小説を書きたいとは言っていたがなかなか実行に移せそうになかった。
しかし、今の佐島さんはようやくやりたいことに向かってる。
俺はそれを見て、こう言った。
「なあ、やっぱり佐島さんも文芸部入らないか?」
佐島さんが小説を書くことが本格的になったというのならば、それなら小説を書く練習をする文芸部という場所は最適なのではないだろうか。
以前誘ったときは嫌がっていたが、今はどうだろう、と。
「ええ? 私やっぱりそうやって誰かと何かするとかちょっと怖いかも」
やはり佐島さんはそこが控えめだ。しかし、俺には以前よりおすすめしたい理由がある。
「俺のクラスメイト、白木って子が佐島さんと合うと思うんだ。あいつもそういう、小説を書きたいって熱意はあるし、同じ学年で女子の佐島さんとなら仲良くなれるんじゃないかなって」
そう、それが今回俺が思ったことだ。
白木はきっと自分と同じように小説を書くというのを一緒に目指せる仲間が欲しいと思っているだろう。
小説は活字の為に読みたいというやつも少ない。ならば書く側をやりたいと思う人も少ない。
佐島さんはまさにその小説を書く方をやりたいと言ってるのだ。
「白木さんって風宮くんが嘘をついて誤解を解いたっていう例のその子?」
「うん」
以前の俺は白木がどんなやつか知らなかったから、白木の話題を出すことができなかった。
しかし、あいつは友達想いで、そういったことをちゃんと考えられる奴だとわかったからだ。
それならば同じく小説を書きたいという夢のある佐島さんはまさに気の合う友人になれるのではと。
「あいつもきっとそうやって同じく創作仲間とか欲しいと思うんだ」
俺が文芸部をお勧めする理由はそれである。
佐島さんにも創作仲間を作るということの楽しさも知ってほしい。
「その、白木さんって子は、小説書くの好きなんだよね」
佐島さんには白木について一連のことを話してあるからこそだ。
俺がかばったその女子。白木はそれだけ情熱があるからこそいろんなものが書けるのだと。
「大丈夫。白木は俺の友達だから、変なやつじゃない」
白木の物語を作りたいという情熱は負けてない。それに、友達想いなところもある。
佐島さんは少し何かを考えたような表情になり、顔を上げた。
「私も、その子と……仲良くなりたいかな」
なんだかドキドキしている表情だ。
佐島さんはようやくこれまでと違う気持ちを見せ始めた。
「公子先生の弟子になったみたいに、風宮くんと友達になれたみたいに、交流の輪を広げてみたいかも」
佐島さんはちょっと声が明るい。
そう、それこそが仲間を増やすということのいいところだ、と俺は思った。
「私の小説なんてとても人に見せられるものじゃないと思ってた。けど、そうやって一人でこもってたら何も進まないよね。誰かに見てもらうってのもいいかもって」
佐島さんが前向きになっていくのを感じた。
「小説の書き方なんかも先輩達が教えてくれるし、きっと佐島さんにも楽しい場所になると思うよ」
「うん。風宮くんを見てたら自分から動いて進まなきゃって思った。自分一人だけで何もしなかったら進まないって。時にはそうやって動くことも必要だもんね」
前は文芸部に入ることを拒んでいたが佐島さんが、ようやくそのことに興味を出している。もう一押しだ
「じゃあやっぱり文芸部に入ろうよ」
「うん、風宮くんと一緒なら」
そうだ。こうやって自分から動いていけばいい。
何もしないよりも、前向きになることも大事だ。
「その白木さんって子と仲良くなれるかな?」
「なれるさ、きっと」
俺がそう言うと、佐島さんは頷いた。
「うん。私、文芸部に入るよ!」
こうして俺の勧めで佐島さんは文芸部に入ることになった。
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