第21話 俺にできること
休日も明けて月曜日、俺は良樹と校庭にあるベンチで一緒に昼食をとっていた。
「へー、あの白木さんがねえ」
良樹には例の小説が載ってる文芸部の部誌を読みながらそう言った。
俺が文芸部に入ってから、その繋がりで良樹は部誌を読むようになったのだ。
「こんなのよくある話だと思うけどね。僕の部活にもこういうモテる男子っているし」
良樹は俺と違って、サッカー部でこういう人も見たことがあるのだろう。
良樹はいわゆるリア充という部類だろう。陰キャな俺と違って爽やかというか。
中学時代から良樹は女子にもてるみたいなところはあった。
しかし、良樹は異性には興味がないらしく、それらには鈍感だった。
そのモテモテ成分を俺に分けてほしいのだが……とよく思ったりしてはいた。
「やっぱ良樹の部活でもそういう付き合いを女子としてるやつとかいるのか?」
「僕の部活もそういう女子とも付き合いをしてる人もいるみたい。練習の時とか女の子が応援に来たりするし、多分休日もそうやって会うとかしてる人もいると思う。僕はあんまりそういうのは興味ないけど」
うう、最後の台詞はなんだかあれだが。
でもやっぱり良樹の部活もそうなのだとはわかった。
「ってことはやっぱりよくある話だよなあ。良樹の部活でもそうなんだ」
「どこの学校でも、女の子はかっこいい男子に惹かれるなんてよくある話だよ。思春期の僕達ってそういう年頃だと思うし。特に人気のスポーツの部活はやっぱそういうところにいるだけでかっこいい、みたいな憧れを持つ女の子は多いと思うし」
「だよな。やっぱり白木はよくある話を書いただけってことか」
「うんうん。僕も白木さんの小説読んだ時、うちの部活でもあるあるだなって思ったし。白木さんは友達をネタにするとかそういうことしない人だと思う」
良樹はそれは思うのだろう。白木が雰囲気からしてそういうやつではないということを。
だからこそ、白木は友達も多い方で、俺に対して傲慢なところはあっても、実際は普通に悩んだりする女子だ。
「そうだね。公子さんの言った通り、何かするとか、その友達を説得するとか」
「……そうだな」
まあ結局はこういうのは難しいものである。でもまあ、良樹に話してよかったとは思った。
「そろそろチャイム鳴るんじゃない? 教室に戻ろうよ」
俺達は立ち上がり、食べたパンの袋を拾うと、教室に戻ることにした。
家に帰り、俺はまたもやいつも通り寝っ転がりながら今日はラブコメ漫画を読んでいた。
やはりラブコメはいい。俺もこういうハーレム生活をしたいという憧れはある。
まあ、現実には無理だとわかってるが。
白木はラブコメのそういうところが苦手だとか言ってたなあ。
今日読んでいたラブコメは陰キャな主人公、友達が少ないとかそういうやつが人気者の女子と仲良くなり、その繋がりで他のクラスメイトや後輩にも好かれ、そうやって女子達が周囲に集まって日常を過ごす定番ものだった。
「ラブコメ好きなら憧れる展開だな」
俺はそれを読んでいてそう思った。
ラブコメの主人公は堅物がお調子者かでそういった展開が分かれる。
基本的にやはり読者に共感が持てるのは主人公が陽キャではなく、陰キャという地味な堅物タイプが少しずつ女の子と交流している間に、仲良くなっていくというものだ。
そういったものは読者からも共感を得られ、支持されやすい。
主人公がストーリーが進むごとに成長していき、魅力のある姿を見せる展開がまた盛り上げられるのだ。
「結局まあ、ラブコメの主人公ってなんだかんだ地味なやつに見えて行動力はあるしな」
こういうのはやはりフィクションだからというものだ。
陰キャな主人公でも、いざという時は活躍し、その魅力がまた女子の惹かれる要素。
しかしまあ、現実にそんな場面はやはりないわけで。
「俺は所詮ラブコメ好きなだけで、漫画みたいな展開に憧れるだけの陰キャだ」
そろそろ寝るか、と漫画を投げ出して、電気を消そうと立ち上がった時だ。
「ん? ラブコメ好き?」
自分の好きなものはラブコメ。
昔からそういうものに憧れる生粋のオタク男子。
そういう青春に憧れる、まさにラブコメ好きなオタク男子。
そして現実でもそういう青春に憧れている。
「ラブコメ好き……か」
俺の特徴的な性格。ラブコメ好き。アニメや漫画のような理想のラブコメ生活をしたいラブコメ好き。
このラブコメが好きという趣向は何かの役に立たないだろうか。
ふと思い浮かんだ。
ラブコメ好きという性格ならではの方法を。
そうだ、これは俺にしかできないことだ。
あるじゃないか、ラブコメ好きな俺だからこそできることが。
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