第18話 どうすればいいのかな


 放課後のファーストフード店。

 そこには同じく学校帰りの学生達でいっぱいだった。

 他校の制服の高校生や中学生と思われる集団。

 みんな楽しそうにおしゃべりをしてる。


 しかし、俺達は今、とてもだがそんな雰囲気ではなかった。


 明るい店の中に、暗い白木の顔があった。店の雰囲気とは正反対だ。


「で、何を話したいんだって?」


 席に着くと、先ほどまで口数の少なかった白木はぽつりぽつりと話し始めた。


「あたしね、友達にこう言われちゃったの」

 白木は早速本題に入った。

「私の書いた小説が……」


 やっぱり白木が話したいというのは、予想通りそのことだった。


 白木はあの一連の出来事を話し始めた。

 友人達に自分の小説が宮島のことをネタにしたのだと誤解されたこと、それにより友人達に冷たくされてしまったこと。


 俺はあの時、こっそり聞いていたのだからすでに知っていたが、あえて初めて聞くようにうなずきながら白木の言いたいことを言わせた。


「それで、みんなあたしのこと避けるようになっちゃって、どうしたらいいのかわからない」


 白木はようやく言いたかったことを言い終えると、あの時のように顔に手を当てた。


「あたし、最低だ」

 白木は悲しそうに泣きそうな声で言った。


「あたしの書いた小説が、あんな風に思われちゃうなんで、身近な友達がそんなことになってるなら、ちゃんと知っておくべきだったし、相談を聞くことだってできたのかもしれないし。あたしが部活動に夢中で、小説を書こうとしてたから、そうやって周りのこと考えてなかった。自分のことでいっぱいだったせいだ」


「それは白木は悪いわけじゃないだろ。知らなかったんだから仕方ないことじゃないか」


「でも、あたしのせいだ。あたしが小説なんて書いてるから……」


 白木はすっかり自分が悪いという罪悪感でいっぱいになっている。


「そんなことないって。白木はただ面白い話を書こうとしていただけだって」

 俺は下手なくそながらも励まそうとした。 


 宮島がバスケ部の藤堂ってやつにしていたこと、あれは高校生の青春ならよくある話だ。

 白木が書いた小説に出てくる男子の設定であるスポーツだって、バスケ部なんてどこにでもある部活動だ。運動部に所属していて成績優秀。そんなやつは普通にいるだろう。

 図書館で勉強だって、成績のいい者に勉強を教えてもらうってことは十分ありえる。


 この前藤堂君の誕生日だったというのも偶然だ。


 それに、それらの交際でやっていたことを宮島があまり話さなかったのだから、それは白木だって知らなかったことだ。


 白木は宮島の彼氏のことなんてモデルにしていないだろう。


 白木はあくまでも青春ものにありがちな王道のシチュエーションを書いていただけだ。

 それが偶然、友達である宮島の失恋した出来事と近い時期で、そう思われてしまっただけだ。


「でも、身近な友達のことをちゃんと見るべきだった。いつも一緒にいる大事な友達なのに。自分が忙しいからってことで、そういうの感じられないとか空気読めないなんて。あたしがあんな話書いたから、そのトラウマを思い出させるような話にしちゃって」


 俺は白木が今、本当に心から思っていることを話しているということがよくわかった。 


「白木のあの話だって、よくある青春ものの王道ものだったからこそ、俺達の学校の生徒でも読みやすい小説を書こうとしただけだろ。これまでの小説だって身近な舞台で読みやすいって思ったし。あれはあれでよかったと思う」


「でも、あたしがオリジナリティもない、よくある話を書いただけだっていう未熟さもあった。あたしがこれまで書いた小説も、やっぱりうちの学校を参考にしてたってところはあった。けれど、あくまでもモデルになっただけで、この学校とは違う、似たような学校のつもりだった。作品は作品であくまでも現実世界とは別だって。でも前のがそうだったから……」


 白木が気にしているのも宮島達が言っていた「小説の舞台になってるのは自分達の学校だ」という部分はそれに近かったからだろう。


「あたしがあんなありきたりの話を書いたのもそれだけの腕前だったってことだし。本当に物語を書くのがうまいなら、もっとオリジナリティのある展開だって書けたはずだもの。よくある話を書いたから、そうやって身近な友達のことを連想させて、あたしの腕もダメだったよ」


 白木は自分がオリジナリティのある創作物を書く腕前がなかったからこそ、ありきたりな話しか書けなかったことで、そういった状況が起きたのかも、とも思ってしまったようだ。


 本当に創作物を書くのがうまいのならば、よくある話ではなく、もっとオリジナリティある自分だけしか思いつかないストーリーだって考えられたのではと。


「そんなことないさ! 白木の書く話だって、きっと白木にしか書けない魅力的なところだってあるはずだ」


 下手ながら、なんとか励まそうとして、俺は思ったことを言ってみる。


「ほら、俺もラブコメとか好きだからさ。白木のは失恋話だったけど、主人公が次の道を向かうとか。ああいうのも青春だと思うし、ラブコメにも結構ああいう展開はあるって」

 ラブコメでも失恋の場面があったりするのは事実だ。

 いわゆる負けヒロインが主人公とうまくいかないという場面はよくある。


 逆に主人公が本命の女性に告白しても、それがうまくいかなかったという場面もラブコメにはある。


 ラブコメにだって話を盛り上げる為に時には失恋要素もあったりする。


「だから、そこまで気にするなって。宮島達の誤解を解く方法だって、あると思うし」


うまく言えないな。誤解を解くって言ったって、何をどうすればいいのかも俺にはわからないのに。


「そう、だよね。うん」


 こうは言うが、やはり難しいものだ。俺もどう言えばいいかよくわからなかったし。


 白木の話が終わると、俺達は帰路についた。


 白木の話を聞くことはできても、俺なりの励まし方も思いつかず、結局あんな言い方しかできなかったけれど。


 なんだか歯がゆいなと思っても、今の俺にはどうすることもできない。


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