第14話 白木の小説


 いつものように部室へ行くと、今日は福道先輩がいた。


「あ、風宮くん」

 福道先輩は何やら原稿用紙の束を持っていた。


「何してるんですか?」


 それにはすでに、びっしりと文字が書き込まれていて、何かの原稿のようだ。


「これね、今月の部誌に載せる予定の小説なんだ」

 原稿用紙二十枚分ほどの小説を載せるらしい。

 そういえば、この前白木が書いてたのがこういうのか。


「風宮くんも何か書くかい?」 

 福道先輩は誘ってきた。

 とはいえまだ小説を書くほどのスキルが身についていない。


「いえ、俺はまだそういうの早いかなって」

「そっか。風宮くんはまだ入部したばかりだもんね。じゃあ、来月からは何か書いてみようか」


 毎月出すということは、今月も出す予定なのだ。

 とりあえずその原稿をまとめていたのだろう。


「今月は白木さんが書いた短編小説を載せる予定なんだ」


 だからあいつ、この前一生懸命原稿を書いてたんだな。


「これまで作った部誌とかもあるんだ。読んでみる?」

「あ、そうですね」


 ここの部員なのだから、これまでの活動である部誌は読んでみたい。


 部員にとってはその部活動の過去の活動履歴を見ることだって重要だ。


 福道先輩は、棚から数冊の小冊子を取り出した。


「これが先月の分、こっちが先々月の分だよ」

「へー、これが」

「こっちのやつにも白木さんの小説が載ってるんだ。白木さん、小説書くのに燃えてるみたいで、率先的に新作を書いたりしてるみたいだし、まさに文芸部のホープだよ」


 まああいつは本好きだし、そういうのも好きだろうな、と思った。


「この部誌、持って帰って家で読んでみたら?」


 小説は活字なので読むのに時間がかかる。


 漫画のように絵をその場でさっと読むことはできない。


 ならばここで読むよりも、家でじっくり読んだ方がいいだろう。


 俺も文芸部の部員なのだから、過去の部誌は目を通しておきたい。


「じゃあこれ、借りていきますね」

 俺はその小冊子を何冊か、鞄に入れた。



 その夜、夕飯に風呂に宿題を済ませた俺は、椅子に座って今日借りた小冊子を読んでいた。


 いつもはベッドで寝転がってラノベか漫画を読む、といったスタイルだが、こういったきちんとしたものはそんなだらしない読み方をするよりは、きっちり真面目な姿勢で方が方がいい気がしたからだ。


「これが福道先輩の小説か」


 先月発行された号には福道先輩の作品が載っていた。


 タイトルは「公園で見た君の笑顔」


 福道先輩の作品は軽く読める青春もののようなものだった。


 祖母のお見舞いへ行く少年の物語で、病院で出会った少女の話。

 ある日、外出許可が降りた少女は少年と二人で公園に行きたいという。

 そこで見た少女の笑顔が忘れられず、少年はおまじないをかけてあげる、と言って少女に勇気のまじないをかける。少年に勇気づけられて、これからも治療に専念し頑張るという決意をする。


「福道先輩ってこういう作風なんだな」


 なるほど、オードソックスな青春ものといったところだ。


 確かに福道先輩の作品はラブコメに近い内容だ。


 ライトノベルのように、こってこってな萌え系のようなラブコメではないが、きちんと一般文芸のような文体と物語でありながら、きちんと思春期らしい異性への想いも入っている。  

 ライトノベルのような文体ではないが、きっちり読みやすい。


「さすが福道先輩、本好きだけはあるな」


 普段ライトノベルばかり読んでいる俺も、こういう一般文芸的な話もいいなと思えた。

 それは同じ学校で同じ部活のよく知ってる人の作品だからだろうか。


 文体もシンプルで読みやすい。

 確かに文芸部としてならこんな感じの小説はいいだろう。


 福道先輩の小説が読み終わり、俺はもう一冊の部誌に手を伸ばした。


「こっちが白木の小説が載ってるやつか」

 クラスメイトであの生意気な白木が書いたもの。


 タイトルに白木みちるという名前が表記されている。


 白木の作品を読んでみると、簡単なショートストーリーの学園青春もののようだ。


 しかし、俺はその中のいくつかの描写が気になった。


 ブレザーの制服、玄関には歴代の部活のトロフィーが飾られており、吹奏楽部の練習音が鳴り響く校庭。

 中庭には池があり、鯉が泳いでいる。昼休みは餌やりに来る生徒で賑わっていた。


「ぷっ」

 俺はつい吹き出してしまった。


 この学校の描写は実に思い当たる身近な場所だ。


「これ、うちの学校が舞台かよ!」


 白木の書いている小説の舞台となる特徴的な学校は、きっとうちの高校をモデルにしてる。


 確かに小説で舞台にする場所は、自分に身近な場所だとリアルに書くことができるというのはあるだろう。


 自分が毎日通っている学校なのだから、身近な場所としてモデルに作品に取り入れるのは実にリアルな描写を書くことができるだろう。


 はっきりとうちの高校の名前は出てこないが、間違いなく参考にはしているだろう。


 高校生が主人公の話なのだから、高校の描写を出すとなると、自分の学校なら近い場所で書きやすいというのもあるかもしれない。


 そして、本編の内容は吹奏楽部の女子が居残り練習をするも、なかなかうまくいかない。

 そこへ、クラスメイトの友人がある日、一緒に他校の吹奏楽部の発表会に行こうという案を出す。

 そこに行った学校の吹奏楽部は実に綺麗な音声であり、そこでたまたま同じ会場で出会った他校の生徒と意気投合。

 自分は落ち込んでいてはいけない、こうして日々成長している同じ年の人々がいるのだから、練習に負けてはいれられない。

 いつか、自分もあのステージに立つことを決意する。


「白木って性格はああだけど、結構まともに小説書けるやつなんだな」


 確かに一般文芸向けかもしれない。ライトノベルのような漫画的な設定よりも、一般人向けな作風だ。


「ふうん、本人はあんなやつでも、純粋に小説好きじゃないか」


 白木へのイメージがちょっと変わった気がした。




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