第11話 生意気なあいつ
今日は文芸部も休みなので、早くに帰れる。
俺は放課後、またもや図書室に行った。新しいラノベを借りようと思ってだ。
俺の学校の図書室には新しく入った本は貸出机の隣の本棚に収納されている。
この前借りたラノベの続きの巻が入荷したと聞いて、借りに来たのだ。
「あれ、ないな……」
しかし、俺が借りようとしていた本はその棚になかった。
どうやら他の生徒が先に借りたらしい。
図書室の本は学校の生徒が読むので、こうして新しく入った本は別の生徒が借りていて、その返却を待つしかないということはしょっちゅうだ。
「仕方ない、また次に来るか」
俺は少し残念と思いながら図書室を出た。
図書室を出て、廊下の角を曲がろうとした時だ。
「あ、風宮くん」
最近聞いたばかりの声がした。
「佐島さん!」
そこにいたのは佐島さんだった。
そっか、同じ学校なのだから、そりゃ学校で会うこともあるよな。
佐島さんは出席簿を持っていた。恐らく佐島さんのクラスのものだろう。
「今日、私が日直でこれを出したらこれから図書室に行くところなんだ。風宮くんも、何か借りたの?」
「うん、ちょっと読みたい本の新刊が入ったって見てね。でも誰かに借りられてたみたい」
「風宮くんが図書室で借りる本ってどんなの?」
図書室で借りるラノベはラブコメが中心じゃない。
とはいえ、ライトノベルと正直に話すのはなんか恥ずかしい。
学校の図書室にも置ける健全な内容だし、高校生が一般文芸としても読めるファンタジーものが中心なのだが、なんだか佐島さんの好きなジャンルとは違う気がして。
しかし、佐島さんは俺が借りる本が気になるらしい。仕方ない、正直に言うか。
「えっと、『金色のナイトパレード』とか『炎のキングダム』とか』
「こんじきの……」
俺がタイトルを告げても、佐島さんはやはりそれらの本を知らないらしく、きょとん、とした。
「へえ、私はそういうのあまり読んだことないけど、面白いんだ。今度借りてみようかな」
「あ、ああ。まあおすすめかな……」
なんか女の子とこういう話するのって緊張するな。
俺の上げたライトノベルが男性人気の高い作品だからか、普段ライトノベルを読まない人に言ってもわからないだろうなので。
「えへへ、こうして誰かと一緒にお話しするってのが嬉しい同じ学校で会えるってのがいいね」
佐島さんはなんだかニコニコしている。
「私、あまり友達いないから、風宮くんと友達になれてよかったって思うんだ」
佐島さんにとっては俺は同じ学校で話ができる数少ない友人というわけだ。
公子先生の弟子という共通点があるからだろうけど。
「また今度ファミレスとかでもお話したいな」
「ああ、そうだね」
俺はそう返した。
翌日、今日は部活動があるということで、俺は文芸部の部室に行った。
「あれ? 今日はお前だけ?」
部室には福道先輩の姿はなく、いたのは白木一人だけだった。
「何よ、いちゃ悪い?」
「いや、そんなことないけどさ、先輩は?」
「福道先輩は用事あって来ないだけ」
白木が座っている机を見ると、白木は原稿用紙に何やら文章を書きこんでいた。
「それ、何書いてるの?」
「今度部誌に出す原稿よ」
白木は原稿に目を向けながらそう言った。
この文芸部の活動として、それを書いているということだろう。
ふと、白木は顔を上げて、俺の方を見た。
「あんた、最近女の子と一緒にいたそうじゃない」
「女の子?」
「友達が言ってたのよ、風宮が女の子とファミレスにいたって」
ファミレス、と聞いて思い出した。
以前、佐島さんとファミレスに行った時のことか。
あそこはうちの高校の校区内だ。同じ学校の生徒が見ていてもおかしくない。
あれを白木の友人が見ていたわけだ。
「それがなんだよ」
「ラブコメが好きっていうから、彼女ができてよかったわね。まさにあんたの理想の通りの彼女じゃないの」
「彼女って、違うよ。友達だって」
彼女というのは違うし、それにまるで佐島さんのこと馬鹿にしているようでむっときた。
「彼女とか彼氏じゃないって。話が合うから仲良くなって、一緒にそこへ行ったとかそんなんだよ」
「ふーん。どうだか。女の子たぶらかして遊んでるんじゃないの?」
「遊んでるとか失礼なやつだな」
「どうだか」
かなりむかつく言い方だが、俺がここで言い返したところで、白木にとってそう見えるのならば勝手にそう思えばいい。
「せいぜい、その子に嫌われないようにすることね」
なぜ白木はいつもあんなに傲慢な態度なのだろうか。
おしとやかな佐島さんとは大違いだ。
生意気な態度を取る白木と違って、やはり佐島さんは優しい子だな、としみじみ感じた。
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