第9話 公子先生のもう一人の弟子


 翌日の昼休み、俺は読み終わったラノベを返却してまた次のラノベを借りる為に図書室へ来ていた。

 本棚を見ていると、俺が昨日借りたラノベの続きの巻が入っていた。


「次はこの巻だな」


 さっさと図書室の貸し出しを済ませ、図書室を出ようとしたところだ。

 そこで女子生徒とすれ違った。


 同じく図書室に本の貸し出しに来た生徒かな、と俺が見ていると。

「あっ」


 その女の子は三冊の本を運んでいたのだが、そのうちの一冊の本が滑って床に落ちてしまった。

 すぐにその子は床にかがんで本を拾おうとしていた。


「あ、俺が拾うから」

 俺はとっさにその本を拾って女子生徒に渡した。


「あ、ありがとうございます」


 女子生徒の顔をよく見てみるとサラサラの黒髪の長いストレートヘアの美少女だった。

 目が綺麗で、小顔、その愛らしい見た目に俺は一瞬見とれてしまった。

(こんな子、うちの学校にいたんだ……)

 制服についてるリボンの色で俺と同じく一年生ということはわかるが、俺のクラスにはこんな子はいなかった。ということは別のクラスの子だ。


 ふとその女子が持っていた本のタイトルを見た。


「星空を見上げた夜」

 それは最近図書室に入った新刊一覧にあった本だ。

 俺は毎月図書室の新刊一覧をチェックしていたから知っていた。


 ジャンルは、確か青春恋愛もの、だったかな?

 清楚な雰囲気のこの子にはぴったりな本だと思った。


「じゃあ、気を付けて」

「はい」

 その女の子は図書室の受付へと歩いて行った。

「あの子も小説が好きなんだな」

 俺はそんなことを思った。

 



 翌日、俺はまた久しぶりに公子先生の家へ遊びに行くことにした。


 以前、文芸部に入ったことを連絡したら、ぜひその活動を教えてほしい、と言われたのだ。

 なんでも公子先生にとっては現代の現役高校生の文芸部の活動というものが気になるとのことだった。


 公子さんにとっては現役高校生のそういった日常を聞くことも取材になるのだそうで、そうならば俺も話に行くと言うことだ。


 公子さんの部屋の扉をノックすると、公子先生が出て来た。


「よく来たね。待っていたよ」

 今日の公子先生はいつもよりまともな服装だった。


 ブルーのルームウェアというのか、短パンにレギンスを着用していて、髪はぼざぼざではなく、ちゃんと整えられている。足にはもこもこのピンクのルームシューズを履いている。

 普通の女性の自宅スタイルという感じだ。


「ほら、入って入って」


 促されるままに俺は中に入った。すると、公子先生はこう言った。


「実はね、今日はもう一人お客さんが来てるんだ」

「え、お客さんですか?」

 そうか、お客さんがいるからいつもよりまともな服装だったわけか。


「いいんですか? お客さんが来てるのに俺が入っても」

「いいんだ。ぜひ君にも紹介しておきたいと思ってね」

「俺に紹介したい……ですか?」


 一体どんな人が来てるというのだろうか。俺にとっては知らない人に会うなんて緊張するんだが。公子先生のお客さんだというのに、俺みたいなやつが会っていいのか。


 奥の部屋に入ると、そこには「お客さん」と思われる人がいた。


「き、君は……」

「あ……」


 俺はその姿に見覚えがあった。

 昨日学校で会った本を落としたあの女子生徒だった。


 お客さんってこの子だったのか。


「あの時、本を拾ってくれた人ですよね? まさかこんなところで会えるなんて」


 どうやら相手も覚えていたらしく、俺の姿を見てそう言った。


「紹介するわ。この子は佐島美玖ちゃん。君と同じ、私のもう一人の弟子ってとこかな」


 俺と同じく公子先生の弟子とはどういうことだろう?

 というか弟子って俺だけじゃなかったのか。

 以前弟子ができたようで嬉しいと言っていたが。


「以前、地域の催しでこの子と知り合ったのよ。たまたま美玖ちゃんと話す機会があって、ちょっとお話してたら小説を書くことが趣味だって。君と同じだよ。私の事を小説の先生として、ここによく遊びに来るんだ」


 この子の趣味は小説を書くこと。意外だ。確かに本好きの子ではあるみたいだけど、書く方にも興味があるとは。


 だから俺と同じようにプロ作家の公子先生を師匠とする弟子ということか。


「美玖ちゃん、風宮くんと同じ学校でしょ? もしかして、学校でも会ったことある?」

「前に少しだけ」

「そっか。なら話は早いわ。じゃあ、自己紹介して」


 同じ学年とはいえ、クラスが違うのだからこれまで頻繁に会うこともなかった。


 この前、図書室で初めて顔を合わせたようなものである。

 しかし、ここはしっかり自分も自己紹介をせねばならないだろう。


「一年四組、風宮文雄です。公子先生とは友達の紹介で知り合ったんですけど、弟子にさせてもらいました」


 そして、相手の女子も自己紹介を始めた。


「一年二組の佐島美玖です。ええと、風宮くんって呼べばいいのかな?」

「うん。よろしくね」


 俺達の自己紹介を見ると、公子先生の目が一瞬光ったように見えた。


「私、ちょっと仕事があるから、二人は外でお茶してきなよ」

「え!?」


 同じ学校とはいえ、まだあまりしゃべったことのない女子と二人っきりにされるなんて。


 なぜ来たばっかりなのにこうなるのか。


「大丈夫、二人とも、趣味は同じなんだからきっと話は合うって」

 俺は佐島さんに聞こえないように小声で公子先生にこっそり言った。


「いや、それなら俺はこのまま帰ってもいいじゃないですか。あの子だってよく知らない男子の俺と話すの嫌だろうし」


 すると、公子先生は俺にそっと耳打ちした。


「風宮くん、これはチャンスよ」

「チャ、チャンス?」

「女の子と仲良くなるってのがラブコメを書いてみるのにいい取材になるんじゃない?」

「はあ?」

 いきなり何を言い出すんだこの人は。


「美玖ちゃん、さっき私が風宮くんの話してたら、ぜひお話したいって言ってたわよ」

「そんな、俺は…」

「まずは同じ学校の女の子とも仲良くなってみるのも手よ」


 別に本当に同じ学校の女子とすぐに仲良くなれると思ってるのではないのだが……。


「うちの最寄りのファミレス行きなさい。ほら、ちょうどクーポン余ってるからあげるわ」

 さっさと話が進んでしまい、俺は佐島さんと二人でファミレスに行くことになった。


 公子先生の部屋を出て、俺達はファミレスに向かった。


「えと、佐島さんって俺と一緒にお茶行くのって大丈夫なの?」


 同じ学校とはいえ、まだ知り合って間もない。

 そんな俺といきなり二人っきりにされて大丈夫なのだろうか。


「風宮くんは公子先生のお弟子さんって聞いてたから、一度会ってみたくて。同じ学校なら、またいつでも会えるしね」


 なるほど、公子さんの弟子ということで話を聞かされていたのだからその繋がりで話してみたいということだったのか。


 同じ師匠の弟子という共通点がある。


「私、あんまり友達いないから、できれば風宮くんと友達になれたらな、って」


 同じ小説を書きたいという共通点があるのならば、それは仲良くなれるチャンスかもしれない。


「うん、じゃあ。今日はよろしく」

 そんな会話をやりとりしながら、俺達はファミレスに着いた。


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