第6話 公子先生のアドバイス

 

 翌朝、学校に登校してきた俺は、教室で、昨日借りて来たラノベを読んでいた。


 家に帰ってからも宿題や予習を済ませた後の自由時間や寝る前にも読んではいるのだが、早めに読み終わらないと次の巻が借りられない。


 物語を創りたいという憧れのある俺には、資料となるラノベを読むことも刺激になる。


「おはよー、文雄。お、今日もやってるね」


 いつも通りラノベを読んでる俺に、良樹は挨拶がてらそう言った。


「文雄、どう? なんか面白い本とか見つけた?」

「うーん。図書室で新しく入ってきたラノベは借りて来たんだけど、今回のはちょっとストーリーも難しいかな」

「ラブコメの資料にはなりそう?」

「主人公の傍にヒロインがいるって王道ものではあるんだけど、どっちかってっと硬派なファンタジーって感じかな」


 ライトノベルとは美少女が活躍するものがほとんどではあるのだが、やはりこの手のファンタジーものには恋愛要素よりも王道ストーリーがメインな作品も少なくはない。

 ライトノベルだからと、なかなかラブコメ的にこれだ! というものに出会えるものではない。


「なんかなー。ラブコメが書きたいって野望はあっても、なかなかそういうのを形にするってのがわからないというか。やっぱ俺にそういうの考えるの難しいのかもな」


 自分がラブコメを好きだとしても、そんな自分が理想のラブコメ、を作りたいと思っても、なかなかアイディアは浮かんでこないものだ。


 どういった話が読んでいて楽しいのか、そもそも読むと楽しいラブコメとは一体なんなのか。色々と悩む部分はある。


「そういやさ、公子さん、暇な時とかにまた来てほしいとか言ってたよ」


 そんな俺に、いきなり公子先生の話が出てきた。


「え、そうなのか」

「ほら、公子さんって一人暮らしだからさ、誰かが遊びに来てくれるとかだと気分転換になって楽しいんだって。文雄のことはなんだか自分を慕ってくれる弟子ができたみたいでプロの作家として嬉しいだって」

「へー」


 あの人は確かにプロの作家ということで、やはり素人とは違う。ラブコメの特徴を教えてくれた。そこはやはりプロという感じがした。

 また公子先生のところへ行って、そういったことを教えてもらうのも悪くはない。


「じゃあ、そのうち行ってみるわ」

「うん、公子さん喜ぶと思うよ」



 そして数日後、俺は公子さんのマンションを訪ねた。


「おー、よく来てくれたねえ、私の可愛いお弟子さん」


 公子さんは明るく迎えてくれた。


「お弟子さんって。確かに公子先生は俺にとっては師匠みたいな人ではありますけど。なんかそう呼ばれるとくすぐったいですね」

「ふんふん。師匠か。なんと素敵な響きだろうか。これはプロだからこそ味わえる感覚かな」


 素人とは違う、プロだからこその、人に教えるというポジションは確かに先生という形だ。


 まあ、俺のことは弟子や生徒のようなもので間違いないか。


「どうだい少年? あれから創作活動ははかどってるかい?」


 テーブルに紅茶を出して、公子先生はそれを飲みながら聞いて来た。


「公子先生に言われた通り、なんとか色々考えてみてはいるんですけど、難しいですね。ラブコメってどうやったら理想のシチュエーションが作れるとか、男子が女の子にもてるってどう書くのかがわからなくて」

「それは君の望むように、君がこれが理想だ! というシチュエーションを考えて形にしてみればいいのさ」


 それはそうだ、とわかっていることだが、それでもやっぱり難しい。


 プロの公子先生からすれば、先生は読者が求める理想、という物語をの書くことができるのだろう。


「そうは言われても……。頭の中でラブコメ的に萌える展開ってのとか、ラブコメ作品を読んで勉強しようとしたりはしてるんですけど」

「ふんふん、なるほど。他のラブコメ作品を読んで、それで萌える展開を学ぶのもありだね」

「やっぱりラブコメを読むのは楽しいんですけど、自分がそういうのを理想を形にしたいっていうとなると、難しいです」


 そう言うと、公子先生はうーん、と何かを考える素振りをした。



 そして言った。


「君は周囲に同じく小説や物語を書きたいって思ってる友達とかはいないのかな?」

「友達……、ですか」

「そうやって、周囲に同じくそういう物語を書きたいって同士がいると、意外に創作意欲が沸くものだよ。仲間がいるからこそ、自分もその人みたいに物語を創りたいとか影響されるし、自分の書いたものを読んでもらえるとか、さらに同じくラブコメが好きだという子がいれば、そうやって熱く語り合ったりできるし」


 良樹はそういうのには興味ないし、他の友人達はまず活字媒体の小説そのものをあまり読まないという者も多い。


 小説を読むというだけでも興味がなければ、ましてや創作をしたいと思う人はいないと思う。


 少なくとも、俺の周囲にはそんなのはいない。


「いませんね」


 公子さんは俺の発言に、こう返した。


「君の学校、文芸部とかないのかな?」

「文芸部?」


 俺は入学式の時のことを思い出した。

 部活の勧誘で、文芸部の札を持っていて紙を配っていた生徒がいたのは見た。

 勧誘の紙を一枚もらったところ、活動内容は主に本を読んだり、物語などの文章を書いたり、

 そういったものを発表したりする部活だったらしい。


 しかし、文芸部というと、やはりそこは本を読んだり、文章を書いたりするものが集まる場所ということは、好きな本というとお堅い文学やもしくは一般文芸を読むのが好きな人達が集まるイメージがある。


「あるんですけど、入ってはいないですね」


 俺が好きなのはあくまでもライトノベルというジャンルで、どちらかというとオタク向け小説だ。ましてやラブコメだなんて完全にそういった文学の分野から離れていそうだ。


 オタク男子の理想を形にしたラブコメ、そんなものを書きたいだなんて恥ずかしくて友人にしか話したことがなかった。


「俺、そんなお堅いところにいるようなやつじゃないと思うし、むしろそういうとこに行ったらひかれるかなって。俺はラノベは読んでも文学はほとんど読みませんし」


 文芸部には当然女子部員もいるだろう。


 そんなところで萌え系ラノベが好きだなんて言ったら、ひかれるのではないだろうかと思えてしまう。


 そもそも、本好きの人達が集まる場所に、ラノベ好きという自分が行っても話が合う人がいなくて浮くような気がするし。


 文学好きの人達から見ると、ライトノベルというのはカテゴリーエラーではないだろうか。

 むしろ「そんなのは文学じゃない!」と否定される可能性もある。


「いいや。ラノベにせよ、文学にせよ、同じように物語を文章で書く仲間がいるというのはいいぞ。君がそういうラブコメを書きたいという夢があるのならば、好きなジャンルが違っても、なかなかの創作意欲には繋がるんだ」


 公子先生は自分のことを語り始めた。


「私は大学の文学部にいたが、日本の文化をたくさん知ることで創作に役立つ知識もたくさん勉強することができた。中でもよかったのは同じくそういった趣味のある仲間がいたことだ」


 公子先生は大学では文学部にいたのか。

 だから様々な文化を学んだ分、文字を書くことにも慣れて今はこうしてそういった知識を生かした小説を書けるのかもしれない。


「文化を知ると言うことは実に役に立つ。歴史から各地の文化を知り、さらに人々の生き方を学ぶ、それは創作に役に立つぞ」


 そして、公子先生は目つきが変わった。


「文学部にいた友達は同じく私のように小説を書きたいという子も多かった。私がデビューすることができたのも、学んだ知識の勉強のかいもあったけど、そういう周囲に仲間がいたことも大きかったかな」


 公子先生が一番言いたいのはこれのようだ。


「みんな私が作家になるって言った時は応援してくれたよ。「あなたならきっと面白い話を書ける!」って言ってくれた子達もいた。だから私はそのおかげでデビューすることができた。自分の努力だけじゃなくて、そういう応援がやる気に繋がって」


 そして公子先生は先ほどの話に戻った。


「だから君も、やはり仲間を作ってみることが創作意欲に繋がるんじゃないのかな? ラブコメが好きだって言っても、ジャンル違いだとひかれたらひかれたで入部しなければいいだけだし、とりあえず部活の見学に行ってみるだけ行ってみるのはどうだろう?」

「そうですかね?」

「そうそう。確かに文学や一般文芸が好きな人がいると、ラノベ好きの君とは話が合わないかもしれない。けれど、それは行ってみなければわからないだろう? とりあえず、それなら見に行くだけ見に行ったらどうだろいうわけだ」

「でも、俺が書きたいものってラノベだし、ラブコメですし」

「いいんじゃないかな。ラブコメだといっても、ライトノベルはしっかりと小説の分野にもなる。漫画研究会とかもいいんだけど、やっぱり君が行くべきは漫画じゃなくて小説なのだから文芸部かなって思うよ」


 文芸部はお堅い生徒の集まりというイメージがあるが、もしかしたらその部員の中には同じく小説好きということでライトノベルが好きというものもいるかもしれないという希望はある気がする。


「わかりました。じゃあ、行ってみます」

「その調子だ。時には行動も必要だ。頑張って」


 公子先生は笑顔でそう言ってくれた。


 公子先生はやっぱり俺にとっての師匠というのは合っている。


 公子先生のアドバイスは信頼できるような気がした。



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