第18話 アナーキー

駐輪場から正門へと向かう道。

随分と遅くなってしまったので、バス停まで送る事にした。

「今日も、ご飯づくり?」

日が長くなったのでまだほんのりとは明るいが、もはや夜と言って過言無し。運動部がまだ残っているらしいので、正門は普通に空いていた。

「ああー……あ、いや今日は違う」

「そ。じゃあ彼女?」

「ああ」

「ダウト」

「…………」

くそ……何故バレた。

「彼女いる男が放課後毎日茶談部に来てるなんて、違和感しかないでしょ」

「………二股かけるような奴と思われていなかっただけ、マシと思う事にするか…」

ポジティブに、ポジティブに。

…ん?でもそもそも部活と彼女って二股判定なのか…?

「あとは単純に彼女できる訳ないと思っているからよ」

何気無く、刺されたかのような鈍痛が肺辺りを過ぎる。

「謂れのない誹謗中傷は止めろ」

「外見とかじゃなくて。さっきとおんなじ理由」

「……ちゅ、中学からの彼女説…」

「私が言うのもなんだけど……停学どうこうで無理だろ、とか自分で言ってなかった?」

ぐっ、言ったかも。

「ま、彼女できたら祝福してあげるわよ。『芸術あれ』って」

………芸術=爆発だと思っている?

「…随分とアナーキーな光あれだこと」

「神様なんてみんなアナーキーよ」

正門を出て、車通りの少ない道を選びながらバス停まで向かう。

今日は風が無い。

昼と違う雰囲気の風景と夜の匂いが、まるで旅先の様な気持ちにさせる。

「……五月女は、ちゃんと飯食ってる?」

どうして今こんなことを言ったのか自分でも分からないが、別に失言という失言でも無いので、そのまま反応を待つ。

「何、急に」

「いや、ふと…」

「…食べてるよ。たまにサボるけど、大体いつも自分で作ってる」

「ほう……料理本貸すか?意外となかなかレパートリー増えるぜ」

「いや、いい。ああいうのは『これはあって当然でしょ』みたいな雰囲気で、聞いたことはあるくらいのスパイスが書かれてるから」

…………確かにな。俺も料理触り始める前は、塩胡椒あれば十分だろうと思ってたんだが…。

「無駄に使わないスパイス増やしても無駄になるだけだし、最低限度の物で作れる美味しいものが結局一番良いのよ」

「チャーハンとか?」

「うん。カレー粉でカレーチャーハンとかね。あとは、パスタとかは楽でよく作る」

トマト缶は使い切れちゃうし、何より美味しいしね。

と、付け加えて立ち止まる。

お、もうバス停か。

「んじゃあな。こっからは一人で大丈夫か?」

「大丈夫……って言うか、あなたが送るって言い出しただけで、別にここまでも一人で良かったんだけどね?」

「……あー…悪い。こりゃ癖だな…」

頭をかき、詫びる。

「まあ…良い話し相手にはなったわよ」

「え?なに、雹とか降る?」

「訂正…、案山子にも劣る最悪の話し相手でした」

「冗談だっての……」

大袈裟に肩を竦めて見せた後、背を向けてサドルに腰掛ける。

「じゃ、また明日」

「……ええ」

そう短く首肯すると、五月女はどこからか取り出した文庫本に目を落とした。

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