第17話 何某

「ええ。私はそう考えたわ」

来栖は冷静さを欠いていたが、情報は正しく(入島の不登校理由以外)話していたように思えた。

その中で、注視すべき情報があった。

それは……沼岸の新人イビリ対象の新入部員が誰なのかと言うことだった。 

偏りがあったのだと言う。

沼岸は、来栖含め3人の女子マネにはイビリをする事はなく、寧ろイビリのその現場を隠すようにしていたと聞いた。

だからと言って、隠し切れるわけはない。

そんな隠し切れずに見え隠れした何回か、そこから特定の人物がいびられているのに気が付いたらしい。

主に3人。

角元鎬。須崎静雄。

そして、入島御堂。

その3人がいびられていた数、名指しで怒鳴られていた数は圧倒的に多かったらしい。

前者2名は不登校にはなっていないらしく、今ではいびられていないらしい。

そこまでなら、ただの余談だ。情報になりそうでならない。

だがしかし、今見たメモをよく見ると、入島弟以外の二名の名もある。

一般部員、角元鎬……来栖澪へ片思い。

一般部員、須崎静雄……来栖澪へ片思い。

……なるほど。“来栖へそう言う感情を抱いていた奴”を優先してイビっていた訳だ。

言わずもがな、来栖から想われていた入島もだが。

なんつうか…小賢しい嫌がらせだな……。

…ったく……いまだに風貌とか全く想像できねえぞ…沼岸矢継……。

小物らしからぬー………いや、実に小物らしい余計な細かさだ。

偏見だが、多分モテなかったんだろう。

「……それと、彼女自身が言ってないからなんとも言えないけど、あなたが一度間違われたストーカーって…沼岸何某のなんじゃ無いの?」

「…………嫌な仮説にしては、なんかそれっぽいな……」

…しかし……本当に、ストーカーにまで及ぶか?

いや……沼岸が本当に脅迫を平気でするような奴ならば?

…そんなことする奴なら……ストーカーくらいしていても違和感は無い…か……。

…クソ野郎が……。

……ーいかんいかん…これは仮説の話であり、確定したわけでは無いのだ。さっきからだが、想像上でキレててどうする…。

「まあ……そこははっきり分からんにしても、確かに随分と納得感のある話だな」

発想したと言うよりも、集めたピースを繋げて行ってるだけだったが、話の筋が通っていた。

「でしょう?」

なんとなく誇らしげな五月女だった。

「……………」

「……何よ」

あ、いや、なんでも無い。

「無表情キャラはギャップ萌をしやすいなと思っただけだ」

「ー……は…?」

……いや、ふむ、今はそれよりー…

「……五月女、とりあえず仮説が立った訳だが、これからの動きについてはどうする?」

「………そ………うね。この説が概ね正しいと仮定して話を進めると、次は入島くんがされている脅迫の内容…かしら」

「………なるほど」

迂闊に行動して、脅迫の内容が実行されてしまえば、入島自身が非常に危険だ。

そして、入島が今現在言われるがままな以上、何かを人質としてとられている可能性だってあり得る。脅迫の内容を確認して対策を打つことが、何より重要になりそうだ。

「とすると……脅迫の内容を知っている人物か。……そりゃあ流石に、報道部でも知らないラインなんじゃ無いか?」

「………それはー…そうかもね…。まず、そこからかしら」

ふむ……恐らく、沼岸も不用意に広めたりなんてしていないだろうし、一体誰が知っていると言うんだ?

……これもまた考察するしか無いとなると…なかなか難易度が高くなる。

“分かってるんだぞ”的な感じでハッタリかましてもいいが…流石にリスクがデカい。できる事なら確実させておきたいものだ。

「…本人に聞いてみるのは?」

「……本人と言うのは、沼岸矢継のこと?それとも、入島御堂?」

五月女がくいと首を傾げる。確かにややこしい言い方だったな。

「入島だ。本人ならほぼ確実に全貌を知っている訳だし、本人の助力も得られるー…いや、待て…これは……」

「念には念を入れるのなら……その案は現実的で無いんじゃない?」

「……そうだな」

『色々聞いても、何も教えてくれなくて……』

入島先輩は、入島御堂が自分に口を聞いてくれなくなったという様なことを言っていた。

しかしそれは、“言えない”からでは無いのか?

これは早計と言わざるを得ないがー…例えば盗聴器、監視カメラの類。

入島本人の口から誰かに助けを求められないようにするため、何か沼岸が仕掛けを施しているのでは無いか、と言う事だ。

「入島本人から聞くのは……無いか」

「…そうね。………まあ、となると選択肢はもう限られたようなもの、じゃない?」

「………?」

「廃墟に集ってる輩は、沼岸何某だけじゃなくて他にもいるんでしょう?」

…なるほど。

沼岸が入島の件に関わっている場合、その中心人物であるのは違い無い。

そうなると騒動の中心人物であり、話が明るみに出た際に必ず名が上がる事を踏まえると、沼岸から話を聞き出すのは徒労だ。

ならば、いざとなれば保身に走るであろう不良の誰かに“交渉”を持ち掛ければいい。

水筒を取り、すっかりぬるくなった麦茶で喉を潤す。

「…んじゃ……その案でいくか?」

「…?いいの?」

いいのー…って、お前……。

「…選択肢はもう限られてると言ったのは私だけど…。てっきり反対するかと思ったわ」

まさか、彼らが順当な交渉に応じると思ってるの?

と、余程意外だったのか思ってもいないような事を尋ねてくる。

「………まあ…不良なんてやってて、それも不法に侵入行為してるような奴等なら、拉致される事もあんだろ」

「……それが普通なの?」

「分からん」

俺はそうだったが。

「まあ…適当にやるが……入島と関わりがあるのは間違い無い以上、何も無いとは言わせない」

「変なところで…自信有り気ね。頼りにしてるわ」

「そう見えたか?そんなつもりは無かったが…」

こんなところで頼りにされても、あんま嬉しくねえな…。

「ま、やることは決まった訳だ。悪いけど、帰らせて貰うぞ」

「悪いけど、私も帰るわよ」

「…そうかよ」

何が悪いんだ、と言いかけたが、先に言ったのは俺なので揚げ足取られそうだと思いやめた。

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