第12話 弁明

備品が…⁈と見当違いな方向に焦り、呆然とする俺は数人がかりで取り押さえられ、あっという間に床にねじ伏せられた。

「……何を…しやがるッ…!」

数人分の全体重で押さえ付けられ、喘ぎ喘ぎ問う。

「てめえがストーカー野郎だな?いや……言わなくても分かるぜ!その風貌と雰囲気!まさしく小物感溢れるイケ好かねえストーカー野郎だ!」

な、何だと…!

俺がストーカーだと?

「勘違い……だ…!」

それに心無しジョセフジョースターみたいなセリフ回ししやがって…。

それに暑苦しいんだよ……!ミツバチかっての…!

「じ、冗談…。だ、誰が……!ストーカー、だ…だっての……!」

……確かにそうと見えなくも無かったのか…?

………いや、だとしても、笑えねえ。

弁解…しなくては。

…しかし、いくら元不良と言うのを理由に、いざとなったらの戦闘員みたいな扱いを五月女からされているとは言え……上から数人に抑え込まれてはまともに反撃することはできない。

それに……力で解決してどうする。

「待て……は…話を聞け…!」

上に覆い被さった奴らに声をかけてみた。だが、上は俺を押さえ込むためにもみくちゃになっており、俺のか細い声なんかはかき消された。

……これじゃあダメか…。

なら、アプローチを変えよう。

俺を絞め落とそうとすらしている(気がする)こいつらに、今言葉は届かない。

じゃあ、言葉で弁解するのは無理なのか?

いや…そもそもどう弁解するんだ?

「…………」

「…おい?ま、待て皆んな!」

少し考え込んだ事で発生した無言の間ををどう解釈したのか、慌ててさっきの妙なセリフ回しの…銀髪のサッカー部員が、他のメンバーを制止した。

……このタイミング……都合がいい…!

まさしく機を見るに敏。利用せざるを得ない。

「…日柳、未来……!」

思っていたよりも掠れた声で、俺は妹の名前を叫んだ。

部員相手にでは無い。

半歩離れたところからこちらを見ていた、同じ様にロッカーから現れたマネージャーらしき女子にだ。

その女子の双眸がにわかに見開かられる。

「……未来…ちゃん…?」

こいつが来栖澪だと言うことは、何となく分かった。

なるほど美形。確かに未来がああ言うわけだ、と言った風貌だった。

…感心している暇は無いか。

「おい……俺は動かない」

今度はサッカー部員どもに話しかける。

「俺を取り押さえてくれたままでもいい、俺のズボンの右前ポケットにあるメモを取り出してそこの女子マネージャーに渡してくれ」

「は、はあ?」

「俺の妹の……連絡先だ。あんたが来栖澪で間違いないなら、多分知り合いが出るだろうぜ…」

少し問答が挟まった後、俺のポケットから連絡先のメモが取り出され、女子マネージャーの手に渡った。

……圧死するぞ。マジに。

しかし…一応未来に書いてもらっておいたのが良い方に転じたか…。

無論、見越していたと言う訳では無いのだが。

「…………」

訝しむような表情を一瞬した後、携帯を開くマネージャー。

……あいつ今日は休みだから、多分すぐ返信してくれるだろう…。

「ー…え、あ。未来ちゃんの…お兄さん…⁈」

ようやく誤解が解けたらしい。それに首肯する。

それでも尚、呆然と俺を抑え込み続けるサッカー部員数名を払い退け、立ち上がる。

服を軽くはたき、埃を落とす。

ふう……まあ紆余曲折を辿ったものの目的は達成したことだしー…

「え…ああとー…」

すると、反射的なのか何なのか、俺の退路を塞ぐサッカー部員。

まあ今の会話だけで察しろと言う方が無理臭いが、人違いであった事くらいは察してくれ。

「……ストーカーは人違いだ。通してくれ、話は付いた」

そう、話は付いー……

「…………」

…て無いじゃん。

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