第11話 サッカー部室にて

放課後……俺はサッカー部へと歩みを進めていた。

サッカー部室は、部室棟1階の東端である。

今日は風はあまり吹いておらず、初夏のじりじりとした様な暑さが室内にも充満している。

梅雨の肌寒さとベタつきが無くなったと思ったら、途端にこれだからな…。

昨日の夜の寒さは何処へ…?仮にも初夏といえる時期だろ…?

…そういえば、人間は蒸し暑さに弱くて、単純な暑さにはまあまあ耐えられると言う話を何処かで聞いたが、あれは本当なのだろうか。

いや、不快に感じるだったか?

何にせよ、日射病の原因にもなり易い蒸し暑さは、生物として危険に感じて当然のことだろう。

少なくとも、俺はこの蒸し暑さにはほとほと参っていた。

「あっちい……」

つい先ほどまで茶談部室で五月女と話し合っていた。

今後の動きについてを確認した後、俺はサッカー部へと向かう事になった。

私は私でやる事があると言っていた五月女は風紀委員会へと向かった様である。

そんな経緯で現在俺はサッカー部室へと向かっている訳だが……いかんせん暑い。

暑過ぎてテンポの悪い文になっているが、許して欲しい。暑いから。

唐突だが、この高校には、制服移行期間が明確に存在しない。

なので、俺は半端に長袖なのだった。昨日の気温を考慮してのことだったのだが…。

その点……五月女は普通に夏服になって涼しげにしていた。

羨ましかった。ちくしょう。

俺が暑がってんのに気付いてか偶然か、あの女クーラー止めやがったしな。

許さじ。暑がりを舐めるなよ…。

「…………」

………………夏服の五月女は何と言うか…まあ……グッドだった。

清涼感のある薄手の服装と、短く切り揃えた五月女の白髪ショートはよくー………いや我ながら気持ち悪っ!

…………じろじろ眺めていた訳じゃねえんですが…。

でも、まあ、うん。非常に素晴らしかった(小並感)。

「………ここか」

そんな己の気持ち悪さを省みている間に、サッカー部室の前まで着いていた。

いつもはこの時間、部室でミーティングをしているはずだと五月女から聞いた。

詳しいなと思ったが、一体全体どこで知るんだそんな情報。

入島先輩から聞いたとか…?

別にそんな必要は無いのだが、視線が集まるであろうと言うじんわりとした緊張感を感じる。

ここまで来て何を言っているのかと自分自身に呆れる。

取り敢えずノックをし、反応を待つ。

「………?」

反応が無い?

ミーティングしてないのか?

「失礼しま…す………?」

ガラー…

「デカッ?」

いきなり疑問形で圧倒されてしまったが、部室。サッカー部室のことだ。

部室内には、中央に長机(断じて折り畳みテーブルなどでは無い)と人数分の椅子、尽く分厚いサッカーの技術関連の書籍、さらにはそれを収納するための本棚まである。

加えて、各部員用と思しきロッカーや、まるで高校の運動部室とは思えない(俺が知らないだけなのか?)様なもの。具体的には、ジムに置いてある様なベンチプレス台やルームランナーなどがー……あ、あれは。まさか…腹筋ワンダーコア…?

…まあとにかく、多種多様な器具が備え付けられていた。

「デカ過ぎんだろ…」

前情報として知ってはいたのだが、流石にこれは想像を超えていた。

……どうやら現校長である藤崎校長の1、2代前の校長が、成果重視の部費配分をしていたらしく、そこでちょうどサッカー部が県大会優勝を収めたために、施設周りがかなり充実しているらしい。

これも先程五月女から聞いた。

……そしてその校長は、その制度周りの諸問題で失脚したと言う話も聞いた。

そう言うので明確に優劣付けるのは、やはり悪手らしい。

「…………」

待てよ?となると…俺らの部室って何なんだ…?茶談部そのものも、歴史があるとかあの校長は抜かしてたが、やはり掘っ建て小屋もいいところの新興部活なんじゃ無いか?

新“興”してもいないしな…まったく…。

そもそもの部室棟…旧校舎は奇妙な作りをしており、1階は一部屋一部屋がかなり広くて天井も高い。逆に上へ行けば行くほど狭いという、なんと言うか意味不明な構造をしている。

一重にこれは、設計を高名な芸術家とやらに任せたせいだろう。

昇降口前の石版に、デカデカとその功績と生涯が記されている。

……せいとは言ったが、別に設計を芸術家に委任する事自体に不平不満は無い。…人は選べと言うこった。

「ああ…クソ……別に歴代校長にヘイト貯めるために来た訳じゃねえっての」

閑話休題。

だが、広々とした部室内を見回しても、話を聞くべき部員の姿は見当たらない。

おかしいな……普段ならこの時間に部室にいると言う情報だったんだが…?

しかし、ここで歴代校長の負の遺産シリーズに感じ入っていたところで、何が変わると言うわけでも無い。

しゃあねえ…一度引き返すか。

諦めて帰ろうかドアに手をかけた時。

「…………」

もう一つの用事を思い出した。

「あー……」

来栖…澪だったか?

昨晩、未来から頼まれた事を今になって急に思い出した。

まあ…名前を確認すりゃ良いだけの事だ。

いようがいまいが、最悪書類とかを漁ればそれはどうにか分かりそうなものだが。

ちょうど、長机の上に書類がばら撒かれている。もしかしたらその書類に名前が載っているかもしれない。

ふむ……なになに?来月の練習予定…?

…んー……お?

これか?

「来栖ー…」

プリント編集者名のところに目が行き、『来栖澪』と言う名前を視認した、その瞬間のことだった。


「くたばれストーカー野郎がっ!」


「なっー…?」

比較的近くにあったロッカーが数個内側から蹴破られ、中から男たちが現れた。

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