第7話 帰路

すっかり陽も落ち、初夏にしては涼しい夜風が吹く。

流石にもう大丈夫だろうと大丈夫だろうとタカをくくっていたが、自転車だとどうしても風を切る。俺は少し後悔していた。

……いや、それにしても昼間と比べてこの気温差は、落差あり過ぎでは?

この季節に涼しいとか思ったこと今まで無いんだが…異常気象?

とはいえ、ここから家まで5分もかからない。

もう少しの辛抱だ。

表の大通りから裏道に入り、途端に人の気が無くなる。

小川沿いのタイル床を、がたがたと進んで行く。

空気が澄んでいるので、街灯の光が眩しくオレンジ色に道を照らし出していた。

「…………」

ふと、先ほどのことを思い起こす。

入島先輩の嘆願を受けた俺ー…もとい茶談部は、この件に協力する事にした。

部長として五月女に最終判断を任せたものの、もし何らかの不都合で茶談部として了承することができなかったら、俺一人で協力していただろう。

……そもそも、茶談部として何か不都合があったのなら、あの校長がこちらに回してくるのは不自然だ。と言う、割と単純な考えによるものだ。

そして五月女と話し合った結果、まずは調査活動から、と言う事になった。

入島先輩から弟さんー…敢えて正確に言うならば、入島御堂が夜中に進入していったとされる、件のビルを教えてもらった。

なので、調査は入島御堂自身について、である。

細かいところは明日話し合う事にし、今日のところはお開きとなったが、何について話し合うのか、少しは考えておけと五月女から部長命令を預かった。

無駄に歯向かってもしゃあなし。

「そうだなー…」

まず当たってみるなら…交友関係とかからだろうか。

だがまあ、不登校になってから荒れ始めた事が分かっており、不登校になる直前まで普通に学校の事を会話の上で話していた様なので、突発的に起きた交友関係のトラブルとかで無い限り、直接解決に助力する様な情報は得られないかも知れない。

それでも、不登校になったのが荒れた事と密接な関係にあるのは間違い無いだろう。

何も無いとは思えない。調べるべき…と言える。

次いで……サッカー部だろうか?入島御堂はサッカー部に何人もの知り合いがいた様だし、そもそも本人がサッカー部だ。

何か情報が得られると、期待していいだろう。

一縷の望みとして、まだ誰かが連絡を取り続けている可能性もある。

そう言うことを探るためにも、サッカー部員への質問は必須となる。

調べるべきだ。

タイルの小川沿いを抜け、再度表通りに出た。

信号待ちで、足を止める。

「あとは……報道部……とかか…」

正直なところ、部員全員パパラッチ、みたいなメンタルのあの変態集団にはできるだけ関わりたくないが、そこはどうにかするとしよう。

俺の憂いなんて、釈放への一歩と考えれば安いものだ。

奴らは変態で、記事のために色々かなぐり捨てている集団だが、情報通なのには違いない。

聴いて損は無い……いや、聴かない手はないだろう。

しかし……単なる趣味であそこまでやれるというのは…本当に変態の“それ”であろう…。

信号を渡り、直進して数回角を曲がって少し。

ブレーキを握り、自転車から降りる。

アパートの雨曝し吹き曝しの駐輪場に自転車を止め、カゴからスーパーのレジ袋に入った食材を取り出す。

今日はシンプルに、スパゲッティナポリタン。

ケチャップが切れていたから買ってきた。……いや、この言い方だと、過程と結果に齟齬が生まれそうだな?

ナポリタンを作る為にケチャップを買って来たのではなく、ケチャップが切れていたから、スーパーで安くなる時を見計らって買って来た。

ナポリタンはケチャップの復活を祝う祭典のようなものだ。

我ながら意味不明だし、本当にどうでもいいことだが…。

所々錆びて剥げた金属製の階段をカン、カン、と軽快な音を立てて上っていく。

今日はいろいろあったがー…ひとまず、美味い夕飯を作るとしよう。

考えるのはそこからだ。

そう思いながら視線を上げた。

そこには、お世辞にもこの普遍的なアパートの共用廊下に似合うとは言えない、高級感漂うミニスカートの黒ドレスを身に纏いながらスマホを見る少女がいた。

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