第4話 来訪者
思わず呆然と入口を見てしまう。
五月女が立ち上がり、パイプ椅子が重ねられて置いてある部屋の後ろ隅の方へ行く。
「……お、おお」
そこでようやく、恐らく彼女が「訪問者」なのであると気付き、立ち上がって俺もパイプ椅子の方へ向かう。
「あー…。俺がやっから、五月女は紅茶を注いでくれよ」
「………」
微妙な顔をしてから、戸棚の方へ向かってくれた。
まあ、俺も無用な心配だってのは分かってっけどよ……。
杞憂だと分かっていたとしても、条件は守らねえといけねんすよ…。
ガチャガチャとやって、比較的新しめなパイプ椅子を引っ張り出す。
「ま、取り敢えず…座ってください」
「何よその喋り方……」
う、うるせ。
ちょっと動揺してんだよ。
「ど、どうも……」
女子が、席に座る。
第一声からも感じた、たどたどとした雰囲気を振りまきながら、教室内を見回している。
まるで新居に来たてのペットの様だな、とかなり失礼な事を思い浮かべつつ、なんとなく目線を下ろした。
「………」
ん…?
上履きの色が違う……と言う事は、他学年か。
そんなことに気付いた時に、五月女が彼女の分の紅茶をカップに注ぎ、持ってきた。
「熱くは無いと思いますけれど、一応注意してください」
なんかつっけんどんな感じだったものの、敬語だった。五月女も学年が違うと言うことに気付いていたらしい。
うーん、中学の学年識別方法がプラ板みたいな名札の色だけだったからなのか?
未だに、校内で出くわした人の足元を見ると言うのに慣れない…。
「あ、ありがとう…」
お……こんな先輩でも、年下にはタメ口なんだよな。
どことなく格式貼った中学校とは、違う感じだぜ。
……なんと言うか…今更高校生だと言う実感を感じて、少し心踊った。
いやまあ、冷静に考えると、年下に“ありがとうございます”まで言う方が少し違和感あるかもだけどな?
「それで…今日はどうされたんですか?…ええとー…」
「あ、い、入島ここみ…です」
どうでもいい事を考えていた内に、話が進んでいた。
この女子の先輩は、入島先輩というらしい。
「では…改めて、入島先輩。今回は茶談部になんの御用で?」
五月女が、単純な疑問を口にする。
「う、うんー…」
そこで何故か俺をちらりと一瞥する先輩。
…なんだあ?
「まず…私は風紀委員なの」
………。
ああ…まあ、確かに?
一瞬意味が分からなかったが、そう言う意図かと納得はできた。
自分で言うとなんだかな〜と思っていたが、俺が退学一歩手前だったと言う事ー………まあ端的に、“不良だった”言う事は、知れ渡っているのだろう。
……高校1年目の梅雨明けそこらだと言うのに退学手前だったと言うのはなんとも違和感ある話だが…今そこは省く。
だからこそ…風紀委員と言う不良と対極に立つ様な立場上、この場が余り良く無い雰囲気になる事を危惧したのだろう。
なるほど理解はしたが……様子を伺う様な空気がくすぐったいぜ…。
「…お気になさらず。噛み付きゃしませんよ」
「そ、そう…ですか?」
け、敬語?
警戒されてるな……まあいた仕方ないか。
「それにしても、わざわざ立場明かしたって事は風紀委員が絡んでる様な…事件?なんですか?」
「え、えっと…事件ってほどじゃ無いんだけど…」
「いいんですよ、入島先輩。茶談部は、“お茶を傍に話す”と言う事が活動内容らしいんですから」
五月女がそう言って、話を促す。
らしい…ね。まあ、らしいだよな。
俺らは明確な活動内容を知らないし、組織した校長だって知ら無い筈だ。
意味不明だが。
「じゃ、じゃあー…」
そうして、先輩は話し始めた。
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