第4話 ウチな、そーゆーの、憧れててん♪


 「ほな、連絡先交換しよ!」



 注文を終えて待ってる間に彼女はスマホを取り出した。


 「さっきもゆーたけぇ、分かっとるじゃろうけどウチ、友達おらんけぇあんさんが男ではオトン以外で最初の登録や。ありがたい思わなあかんで!」


 ポチポチしながら喋る彼女の口角は上がっていた。


 「気ぃ悪くしたらゴメンね。桜蘭さくらんって、……お父さんと二人暮らしなの?」


 「せやで、オカンはウチが物心つく前に病気で亡くなっとるけん、だからオカンの事はよう分からんねん」


 「そうなんだ、……じゃあご飯とかどうしてるの?」


 「家事全般は得意やで、何せ小ちゃい頃からやってるけぇの! どやあんさん、ウチ、掘り出し物やろ? えぇ奥さんになるでぇ!」


 言いながら顔が赤くなってる。

 最初の印象がアレだったけど、案外照れ屋なんだな、……よしっ!


 「じゃあ今度は桜蘭の手料理、……食べてみたいな」


 それを聞いて更に顔を赤くして、


 「なっ、何言うとるん? コレだから東京のオトコは口が達者で気をつけぇてオトンが言う訳やわ」


 「だっ、駄目、……かなぁ?」


 「ずっ、ずるいわぁ、ナニその目? 子犬ちゃうねんなぁ、あんさん、たいがいにせーよ!」


 それでもじっと彼女を見つめていると、


 「ま、まぁ、駄目……じゃないけど♡」


 「ぐはぁっっ」

 

 ちょっと上目遣いになった顔が威力抜群でこっちが玉砕してしまった。



 ※



 「……ところでさぁ、『恋人ごっこ』って

何するんだ? 『友達』と何が違うの?」


 すると、またテレながらストローで謎ミックスジュースをグルグルとかき混ぜながら、


 「そりゃあんさん、『恋人』ゆーたら、朝、手ぇ繋いで学校行って、お昼はウチがこしらえたお弁当食べて、帰りはこーしてお茶したり、買いもん行ったりすんねん!」


 真っ赤になった彼女は、氷が飛び出しそうな位ストローを回して言った。


 「そーゆーの、憧れててん♪」


 俺は頭の中で、さっき言われた事を彼女としてるのを想像したら、顔から火が出る程熱くなった。


 「そんな事、……ホントに俺でいいの?」

 「逆にウチでええの? 迷惑やない?」


 すがるような目で俺を見てるんだけど、こっちとしては夢のような提案だよっ!


 「よっ、喜んでっ! こんな可愛い子にならこっちからお願いしたい位だよっ!」


 思わず両手で彼女の手を握ってしまった。


 「ほっ、ホンマにあんさんは口が達者やけんど……、その、……ウチの方こそよろしゅう頼むわ!」



 ※



 ん、…………? 恋人って事は?



 「あ、……あのさ、桜蘭、『恋人』ってことは、……その、…………キ、キスとか、そっ、その後の事…………」


 「あんさんっっ!!」


 彼女は真っ赤になってテーブルをパーで叩いて、


 「ホンマ東京のオトコはケダモノて、オトンの言う通りやったわ!! たいがいにせーやっ、全く、もうっ!」


 「そっ、それは違うよ桜蘭っ! 東京関係なく男なら誰だって自分の彼女とならしたいって思ってるよ!」


 「そ、……そうなんか? あ、あんさんもウチとそないな事したいと思うてはるんか?」


 もうストロー高速回転で、グラスの氷が溶けて無くなっていた。


 「しっ、したくない訳、ないだろっ! …………俺だって、男やさかい!」


 俺もストローをかき回す手が止まらない。


 「なっ、何で関西弁やねん? ……ま、まぁオトコはそういうもん言うのが分かったきに、……ウチが悪かったて」


 そしてまたすがる様な目で俺を見て、


 「そういうの、『ごっこ』やけぇ『無し』ちゅう事であきまへんか?」


 「そっ、そうだよねっ! そりゃそうだ、そうだ…………」


 俺のグラスの氷も溶けて無くなっていた。


 「改めてなんじゃが、その、……『恋人ごっこ』して、……くれんかの?」


 そう言って彼女は水っぽくなった混ぜ物を一気に飲み干した。


 「大丈夫! こちらこそよろしく!」


 俺も薄くなったアイスコーヒーをストロー無しで飲み干した。


 すると嬉しそうに握手を求めて来て、


 「あんさんっ、『大丈夫』てナニ? 何が『大丈夫』なんや?」


 「そっ、それは……、もっ、もう飲み物は大丈夫っちゅー事や!」


 そう言って俺は両手で彼女の手を握ってブンブンと振った。


 「あははは、ホンマにあんさんは面白おもろいわぁ! ウチ、隣の席で転入そうそうラッキーやったわ!」


 

 ※



 「お待たせしましたぁー、ハンバーグセットとオムライスですっ!」


 愛想の良い店員さんが手際良く料理を並べてくれて、俺達二人は手を合わせて、


   「「いただきまーす!」」




 「……て事はさ、桜蘭」

 「何や、あんさん」


 「明日のお昼はお弁当、作って来てくれるって事、……だよね?」


 ハンバーグをナイフで切り分け、彼女を見たら、


 「そっ、そーゆー事になるわな! あんさん明日のお弁当、何が食べたい?」


 彼女もオムライスを綺麗に半分に分けて聞いて来た。


 「俺は、生もの以外なら何でも好きだよ、だから明日のお楽しみって事で、どう?」


 「あんさん、アホちゃう? 今時期お弁当に生物なまもんなんか入れたら腐りよるけぇ! …………それよりあんさん、お裾分けや♪」


 そう言って取り皿にオムライスを半分乗せて俺に渡した。


 「えっ、いいの? 俺もハンバーグ、桜蘭にあげようと思って切り分けてたんだ!」


 俺も綺麗に切り分けたハンバーグを取り皿に乗せて彼女の前に置いた。


 「……なんやあんさん、優しいなぁ♡」

 「……桜蘭かて、優しいで♡」


 「もう、……マネするなや!」

 「でも、何か俺達……」



 「「気が合いそうやな!!」」

 

 



 第5話に続くさ。



 ※※



 まだ知り合って2日て! どないするん?


 ♪読んで頂きありがとうございました♪

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