第3話
私への礼を伝えた国王夫妻は、私達へ王子の現状を話した。
「あのね、あなた達もわかっているように、リカルドは他人への興味が薄いのよ。
だから、学院の小等部でも浮いてしまって…。」
「友達になれそうな人もいないというし、この子の将来の為にも、この性格を知らないようにと。」
そんな言葉を聞いても、1人にこやかな王子。
「早々に小等部での交友関係を諦めたのよ。
それで今は療養の為として、休学しているの。」
その言葉に、在学中の兄2人は心当たりがあるようだった。
「でもね、いつまでもこのままではいけないと思っていた時にチェルシーちゃんと出会ったの。」
「うちの子?」
「えぇ。
リカルドとチェルシーちゃんは1つ違いでしょう?
だからね、チェルシーちゃんが学院に入るタイミングで療養を終えて、同じ学年として通うのはどうかと考えたの。」
「まぁ、療養だったら1年ぐらい遅れても外聞も保てるわね。」
「リカルドにも聞いたらね…。」
「チェルシーがいるなら学院へ行くよ。」
「そう言うのよ。」
私、どうして気に入られちゃっているのかしら?
それも私が生き延びる為には避けなければいけない王族に。
「チェルシーちゃん、友達との関係に邪魔で無いほどでいいの。
どうかリカルドと友達になって、学院生活を共に過ごしてくれないかしら?」
母の言葉にコクコクと頷く王子。
その様子が可愛くなってしまって、私は了承してしまった。
「王妃様、わかりました。
お役に立てるかわかりませんが、王子殿下がお1人で過ごされないように、側にいます。」
そんな私の言葉に王妃様の表情が明るくなる。
「まぁ、ありがとう。
あなたの出来る範囲でいいのよ。
私、本当に嬉しいわ。」
そんな王妃の姿に母も同じ立場として子どものことを考えたのだろう。
学院で共に過ごすことを了承した。
だけど…。
「アイシア、まさかだとは思うけど、学院の延長上での将来はお断りするわよ。」
「え?
あぁ…そうね。
私達はそういう未来を望んでいるのは確かよ。」
「だが、我々は望んでいない。
妻の意見と私は同じだ。
我がシスル伯爵家は政治的な結婚はさせない。」
「わかっているよ、エスター。
別に取って食おうなどとも考えていない。
ただ…な?」
王妃と目を合わせる。
「えぇ、そうね。
シスル家のことはわかっているわ。
カイラの時によく聞いていたから。
それに、私達も息子が可愛いの。
王子だからと言って、政略的に結婚はさせたくないのよ。」
意外な国王夫妻の言葉だった。
「実は宰相がな…。
自分の娘をと薦めてきているんだ。
王宮に連れてきてはリカルドに会わせ、どうにか婚約をとりつけようとしている。」
「あの宰相が?」
「あなた、違うわ。
宰相の夫人よね?」
「さすがカイラね。
そうなの、あの夫人がけしかけているのよ。
私はあの方のことが苦手だし、何よりリカルド自身がね…。」
「あぁ、マカレナ嬢は嫌だと言うんだよ。」
国王夫妻の言葉に貼り付けた笑顔が固まる王子。
そんな風になるなんて、本当に嫌なんだろうな。
「だからどうにか他にと…。
そうしていたら、チェルシー嬢と出会った。
リカルドの考えが変わったんだ。
チェルシー嬢がいいとね。」
え?
私、モブ令嬢だったはずなのに、メイン攻略対象者から所望されているの?
うっそだぁ。
な?と問いかける国王に、王子は答える。
「チェルシーがいてくれたらそれでいい。」
嘘でしょ?
そこで顔を赤らめちゃうの?
その様子に、お父様がお母様にせっつかれて発言する。
「だがなぁ、我が家は王家と繋がるメリットも無い。
何なら、王家に頼らずとも家業だけでやっていける。
だから、政略結婚などは…。」
「じゃあ、恋愛結婚ならいいのよね?」
王妃の言葉に両親が固まる。
「私も人の父だ。
エスター達がチェルシー嬢を大切にしているのはわかっている。
だから、せめて本人達が判断できるようになるまで、決断を待ってはくれないか?」
「自分で判断できるように?」
「あぁ、チェルシー嬢が15歳になる年に、再度互いの気持ちを確認しよう。
そこで、結婚してもいいと両方が思っているのであれば婚約を、そうでなければ他を探す。」
「その時にはリカルドも16歳ですもの。
ちゃんと自分の気持ちを理解出来ているわ。
それに、うちだって恋愛結婚を推奨しているのよ。」
「アイシア…、えぇ、そうね。
今判断しろと言っても子どもだもの。
親が決めていいことでも無いし。
わかったわ。
もしもその頃にお互いを想っていたら、私だって反対しないわ。」
父も母の言葉に頷き、賛同する。
「良かったわぁ、一歩踏み出せて。
リカルド、あなたの気持ちを伝え続けるのよ。」と王妃様。
「リカルド、チェルシーに好かれるように頑張れるか?」
そう、国王は息子に問う。
その問いにコクリと頷く王子。
「できます。
チェルシー以外は石ころにしか見えませんので。」
わぁー、美しく育つはずのマカレナ様も石ころなのね。
これって、ゲームの展開とは違うけれども良かったの?
そもそも、ゲームの展開を変えたのは家庭教師から恐れられたユースフ兄様と、剣術の指導を拒んだお父様が原因のような気がする。
だから王子は家庭教師から王子としての心得も学べなかったし、剣術も煩わしいものとしか思えずに、魔獣の知識も無かった。
私が知っているゲームのメイン攻略対象者のリカルド王子は、メインらしい爽やかな風が吹くようなそんな典型的な王子様だったはず。
なのに、ここまでねじ曲がるとは…。
それに、悪役令嬢となるマカレナ様との婚約も王家が拒んでいる。
私はゲームの世界が確実に変わっていくようなそんな気がしていた。
王家との話が終わり、王妃様が私に話しかけた。
「チェルシーちゃん、学院ではリカルドと毎日会うでしょうが、それだけでは寂しいわ。
王宮にも月に1度は遊びに来てね。」
「えっと…。」
「王宮の図書館も、薬草を植えている庭園も、望めばどこでも入れるようにするわ。」
それはとても興味をそそられる。
「王妃様、それは私も同行しても?」
ユースフ兄様もキラキラとした目をしている。
「もちろんよ。
家業の役に立てるならいくらでも。」
「お茶会があるのなら、私も行くわ。」
「まぁ、カイラが?
とても嬉しいけれど、どうして?」
「もしもの未来、チェルシーが婚約者になる可能性があれば今から動くわ。
宰相夫人にも牽制しないといけないものね。
あの人は学生の頃から性格が意地悪いから、この私がお茶会で徹底的に潰すわ。」
「ふふっ。
物騒だけど、私もあの人嫌いだからいいわよ。
周りに理解させないとね。」
母と王妃は子ども達の未来の為に結託したようだ。
そして、2人は話し合いの後、少しお茶の時間を過ごした。
「ねぇ、カイラ。
お願いしたいことがあるんだけど。」
「私で役に立つの?」
「もちろんよ。
実はね、リカルドに弟や妹がいたらって、そう思うんだけど、こればっかりは上手くいかなくてね。
妊娠しやすいような薬とか、そういうのをお願いしたくて。」
「そういう悩みは他からも聞くから作っているわ。
早く言ってくれたらよかったのに。」
「ふふふ、そうね。
カイラとちゃんとお話したらよかった。
私もカイラみたいに3人は産みたかったの。」
それから王妃様とお母様は2人でも会うようになられた。
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