第3章 小等部に入学ですわ 第1話

王家との秘密裏の話し合いが終わり、とうとう学院の小等部に入学する日となった。

私は真新しい制服に身を包み、お兄様達と共に馬車に乗り込んだ。


「チェルシー、何かあればいつでも来てくれよ?」

「えぇ、心配しないで下さい。

クラスでは隣に王子殿下もいらっしゃいます。」

「あのね、それが1番心配なんだよ。

私と同じであれは目が笑っていないからね。

十分に警戒してね。」

「はい、わかっています。

まぁ、あれが校舎ですのね!」


馬車の中から外を見ると、目の前に広がる大きな校舎。

小等部は1番人数が多いので、この大きな校舎で学ぶことになっている。


学院に到着した私は、少し先に止まっている王家の馬車を見つけた。

…ちゃんと学院に来られたのね。

そう、微笑ましかった。


「チェルシー、行こう。」

2人の兄の手を借り、馬車から降り立ったその時、王家の馬車の扉が勢いよく開かれて、こちらに走ってこられる王子。

あら、あの子、あんなに早く走れたの?と感心してしまう。


「チェルシー!」

走ってこられた王子殿下は私の手を握る。


「待っていた。」

あんなに走ったのに、息1つ乱すこと無い王子。


「まぁ、ありがとうございます。」


そんな王子の後ろから駆けてくる人。


「リカルド様、飛び出されては困ります。

護衛も戸惑いますから。」


「同じに走ればいい。

ブランは遅い。」


その言葉に溜め息をつくその人は、私と兄達に気づき、頭を下げた。


「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。

私は王子殿下付きのブランと申します。」

彼は20歳くらいだろうか。


「先日も一緒にお伺いしたかったのですが、友人の家に行くだけだから、どうしてもご家族だけで外出したいと言われてしまい、同行できませんでした。

ご挨拶が遅れて申し訳ございません。

どうかお見知りおきを。」


「ブラン、もういい。」


「はい、かしこまりました。

では、昼食の折りにまた参ります。」


「うん。」


王子付きの彼は頭を下げて一歩下がる。


「改めて、おはようございます。

私を待っていて下さったのですか?」


「うん。」

そう頷く彼は大きな尻尾をフリフリしているワンちゃんみたいに見えた。


「教室には殿下と参りますので、兄様達、大丈夫です。」

心配そうな兄2人に告げる。


「チェルシー、昼ご飯もあるよ。」

「お昼ご飯ですか?」

「うん。

王家のご飯。」

「まぁ、嬉しいですわ。」


王族である彼は学院の食堂を利用することは出来ない。

常に暗殺を警戒しているからだ。


「兄達のもあるよ。」


「え?俺達のもですか?」

「へぇ…。」


予想外の王子の言葉に驚く兄様方。


「母様がチェルシーは兄達と食べるって。

だから4人分用意した。」

そう恥ずかしそうに俯く姿に、なんて可愛いの?とキュンとする。


「兄達と昼食なんて嬉しいです。

ありがとうございます。」


「うん。」



そして、兄達は自分の過ごす教室へと向かう為、そこで別れた。

教室を目材していると、どこか苦しそうな殿下。


「どうかされましたか?」

「悪い言葉がいっぱい。」

「あぁ…、そうですのね。

噂話も辛いですものね。」

「うん。

何も言ってこないけど、でもここのは嫌いなんだ。」

そう話す王子。

きっと噂している声も魔力量が多い彼には届いている。


「何か聞こえましたか?」

その問いかけにチラリと私を見る。


「…人の心の声が聞こえた。」


「心のですか?」


「うん。

魔力が弱い奴らの声、聞こえる。

…チェルシーのは聞きたくてもわからないけど。」


私の心の声は聞かれていなくて良かったと思うと同時に、心無い声を聞いてしまう彼に同情してしまう。


「でしたら、耳を塞いで差し上げますわ。

私、光属性が使えますの。

これで耳に心地のいい声しか聞こえません。

でも、この光のことは2人だけの秘密ですからね。」


ポウッと明るく光る殿下の耳。


「…うん。

君の声しか聞こえないね。」


「えぇ。

悪意は知らない振りしましょうね。」


「うん。

チェルシーは嫌な声も殺してくれたんだね。」


その表現はやっぱり慣れないけれど、でも、彼を守れるのならそれでいいかと思った。





お昼の時間帯になり、私は王子に促されるままに食堂の奥の部屋に連れて行かれた。

そこにはブランがもう待っていた。


「遅かったな。」

「何も不自由は無かった?」

私の兄2人はすでに来ていて、遅れてきた私達を気遣ってくれる。


「えぇ、大丈夫ですわ。

ね?」

私の問いかけにコクリと頷く王子。


その様子を見てみると、改めて美形が揃っているなと見惚れてしまう。


王子は王族の象徴とも言える金髪の髪を肩より少し上で切りそろえ、幼い可愛らしい容姿だ。

エメラルド色の瞳も大きく、子犬の様で本当に愛らしい。


ジェイク兄様はお父様譲りのチョコレートブラウンの短髪だ。

瞳はお母様に似たようで、薄紫のアーモンドのような形の整った瞳だ。


そして、ユースフ兄様と私はお母様譲りの淡いブルーグレーの髪。

兄は少し伸ばした髪を1つに纏めている。

私はお母様に似て癖っ毛であり、緩くウエーブがかかっている髪を下ろしている。

瞳は、兄はお父様に似てオリーブ色、私はこれもお母様に似て薄紫色。

2人とも大きめな瞳だが、兄はいつも薄く笑っているので、あまり見開いたところは見たことがない。


私もモブなのにこんなに整っていていいのかな?と鏡を見ながら思う程であり、さすがはシスル家の一員だと改めて思う。


そんな、端から見たらとても美しい集団の私達が、それぞれのクラスでのことを少し話しているうちに運ばれてきた料理。


「食堂のご飯も美味しいけど、これはまた別だな。」

「王子殿下、私達までありがとうございます。」

兄達は最初に出された前菜を食べながら話す。


「うん、いいよ。

それに、王家で作られた物以外は食べられない。」


そっか。

この国の第1王子ですもの。

食べ物に毒を盛られることもあるし、それを最小限にするために信頼できる料理のみしか口にできないのね。


「それなら、リカルド王子…。」

ジェイク兄様が話すのを殿下が止める。


「リカルドと呼んでいい。」


その言葉に兄2人はお付きのブランに目配せる。

ブランがコクリと頷くと、呼び捨てでもいいのだとわかった。

私は年下でもあるので、「私はリカルド様とお呼びしますね。」と告げた。


「では、リカルド。

君は知らない人から毒を盛られるんじゃないかと、懸念しているんだよね?」


「うん。いつも。」


「だったら、毒に慣れることを覚えては?」とユースフ兄様。


「毒に?」


「えぇ、我が家では幼い頃より毒に耐性を付ける為、少しずつ服用してきました。

ですから、リカルドも少しずつ慣れたら、もしもという場合を防げます。」


「…チェルシーも?」


「えぇ、私も物心ついた時から。

それに、ユースフ兄様がちゃんと身体に合うように調合して下さいますから、大丈夫ですよ。」


「うん、チェルシーと同じならいいよ。」


「では、我が家から王家に打診してみますね。」


「リカルド、ユースフに任せておけばいいよ。」


王族として、毒への耐性は必要だろう。


「…うん、ありがとう。

ジェイ兄、ユー兄、助かる。」


「え?

ジェイ…兄?」

「おや…、ユー兄と?」


「駄目?」


「いや、少し照れたぐらいだ。

リカルド、その呼び方が嬉しいよ。」

「えぇ、そう呼ばれると私でも照れくさくなりますね。

チェルシーが君を可愛がる気持ちがわかったよ。」


兄達は自分達に懐いてくれた王子が可愛く思えたようだ。

わかるわ、その気持ち。

私達はデザートまでしっかりと頂いた。

これから、このように過ごせるなら嬉しいな。


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