第5話 風紀委員長「鎧塚沙紀」

「このクラスに下田剛しもだつよしという男はいるか?」


 長い髪を一つに括った気の強そうな女がガツガツと教室に入ってきた。

 クラス内は静まり俺の心臓の音だけが鮮明に聞こえてくる。

 なんだ、何で呼ばれている? 


「下田、お前何やらかしたんだよ!?」


 いつも余裕そうな春人の声が少し震えていたせいか緊張が一気にこっちにまで伝わってきて手足の先が冷たくなるのを感じた。


「あの人はな、この学校の風紀委員長でありながら他校の風紀まで勝手に取り締まってる頭のおかしい女、鎧塚沙紀よろいづかさきだぞ。噂だとあの人に風紀指導された生徒は、廃人のような状態で高校生活を送ってたらしい。」


 鎧塚という女は品定めをするかのように俺と春人に視線を向け問いただしてきた。


「下田というのは君か?」


「えーっと…」


 まずい。

 何か言い訳を考えなきゃ……そもそも何の言い訳を考えればいいんだ。

 駄目だ、思考がまとまらない。


「えーっとじゃなくて君が下田かというのを聞いてるんだ」


 喉が詰まった感じがする。なんだこの女の威圧感は……怖い


「は、はい」


「ちょっとついてこい」


 俺はクラスメイト達の冷たい視線を浴びながら教室を出た。

 その中には肉倉もいて、何故だか入学してから今日までの全てが恥ずかしくなった。……そんな目で見ないでくれ。


 俺は鎧塚先輩の一メートルほど後ろをついていきこれから行われるであろう

 廃人コース確定調教に身震いが止まらなかった。


 三階の生徒指導室に着き鎧塚先輩の対面に座った。


「君は自分が何をしたかわかっているのか?」


 正直さっぱりだ。俺は何をやらかしたんだ。だがここはとりあえず謝って早めに解放してもらうしかない。


「すみません」


「やっぱり理解していないんだな。君はこの高校にきてまだ一カ月も経ってないだろう。入学してから今日までの間、君は何人に告白した?」


「お、覚えてないです。」


 そのことがどうしたんだ。何故そんなことを聞くんだ……

 鎧塚先輩はそんな俺の反応を見かねて声を荒げ食い気味に答えた。


「15人だ!! 15人。君がこの短い期間で告白しまくったせいで、風紀は乱れに乱れ告白ブームとやらが校内で蔓延している」


「はぁ」


 そんなに広まってたのか。俺が告白してたの


「君は本当に何もわかってないんだな。このままいくと再来週にある中間試験は絶望的だろう。だがそんなことは許されない。私は先代の風紀委員の皆様と誓ったんだ。必ずこの学校をより良いものにしていくと」


 そんなことは知ったことじゃない。テストの点数が悪くなるからなんだ、俺には関係ないだろ。


「中間試験まで皆が色恋にうつつを抜かし生徒達の学力が低下するようなことがあれば、この空気を生み出した首謀者である君には罰を与えなければならない」


「いや、ちょっと待ってください。そんなこと俺には関係ないしそもそも告白するのだって自由じゃないんですか?」


 俺は人としての真っ当な権利を臆しながらも主張した。


「黙れ。私は君みたいな節操がない男が一番嫌いなんだ。まぁでも、すぐに罰を与えようってわけじゃない。再来週までに君がこのブームを終わらせれば許さないわけじゃない。だがもしも失敗に終わるようなら原因を教育委員会に直ちに報告し、登下校及び学校生活のすべてを男女別に分けさせてもらう」


 この人、頭がおかしいわ

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