第7話 招待・後編
盗賊の一件が解決した数日後。再び騎士団の人らが村にやって来た。理由は予想通り、俺を領主様の元へと連れていく為だった。俺としても、力の事を広められたくない、という考えから領主様に会って、お願いしておきたかった事もあり、領主様の招待に応じた。村は新しく生み出したアンドロイドの『デウス』やライガー、ガードロボット達や親父たちに任せ、俺は1人、騎士団の馬車に揺られながら村を出発した。
村を出発して、早数日。村を出発した後、俺を連れた騎士団は道中の町や村で宿を取りながら領主様の待つ屋敷がある町、ナテアを目指していた。幸い、道中で盗賊や魔物に襲われるような事は無く、俺と騎士団は無事にナテアの町の近くまでやってきた。
「おい坊主、見えて来たぞ。あれがナテアの町だ」
「え?」
馬車の荷台で揺られながらぼ~ッとしていた時、御者をしていた騎士の人から声を掛けられ、視線を正面に向けた。見ると、確かに前方に城壁で囲まれた大きな町が見えて来た。
「あれが?」
「そうだ。俺たちの目的地。そしてルクリシア男爵領の中心とも言うべき町、ナテアだ」
騎士の人は、誇らしげに笑みを浮かべながらそう語った。しかし俺の方は、緊張で心臓が早鐘を打っている状態だった。
『いよいよ、領主様とご対面か。上手く、立ち回らないと』
相手は貴族で領主だ。怒らせたら不味いし。しかも以前の女隊長さんの話を信じるのなら、ただ金と権力を振りかざすだけの、分かりやすい悪徳貴族とは違うようだ。いっそ、バカな相手ならやりやすいかもしれないが、そうじゃないとなると何かしらの駆け引きが発生するかもしれない。……そう思うと、緊張で心臓がうるさい程に早鐘を打つ。
『どんな相手なんだろうなぁ』
緊張と不安のせいか、少しキリキリと痛むお腹を押さえながら、俺はナテアの町を見つめる。
それからしばらく街道を走っていた俺たちはナテアの町を囲む城壁の前に到着。入口でもある関所の前で軽く確認作業を行うと、すぐに城壁の中へと通された。城壁を越えて、町の中を進む馬車の中から俺はナテアの町並みへ目を向けた。
町の風景そのものは、ファンタジー系アニメによくある、中世ヨーロッパの町並みに似た景色だった。そんな町中を老若男女が行きかっている。そんな中で気になったのは、道行く人たちの表情だ。少なくとも、何かに嘆き憂いているような暗い表情の人は見かけない。
「なんだか、平和で穏やかな町ですねぇ」
「そりゃそうさっ!」
と、俺が独り言を漏らした時、御者の人が自慢げに答えた。やべ、独り言聞かれてたかっ。
「なんと言っても、今の領主であるルクリシア男爵様は下々の人の事を考えて下さる名君なんだからなっ!どこぞの金と権力ばかりの悪徳貴族とは大違いだぜっ!」
「へ、へ~~。そうなんですかぁ~」
咄嗟に、若干棒読みになってしまったが御者の人の言葉に相槌を打つ。
とはいえ、この人の反応やこの間の女隊長さんとの問答、それに町の様子から考えても、少なくとも周りの人々からは反感を持たれたりしている様子は無いけど。……しかし領主様、か。会った事は愚か、その姿を見た事も、詳しい素性とかも聞いた事無いし。イメージ的には老齢の男性って感じだが、どんな人なんだろう?
いよいよ領主様とご対面の時が近づいて来た事もあって、俺はその領主様がどんな人なのか?と言う推察を頭の片隅で行っていた。
そうこうしている内に、俺たちはルクリシア男爵家の屋敷に到着。そのまま敷地内へと馬車で入っていく。貴族の屋敷は見た事が無いから、今目の前にある男爵家の屋敷が凄いのかどうかは分からない。ただ、少なくともこっちの世界に来てから見て来た建物の中では、一番立派な洋風建築の建物だった。
ここに領主様が暮らしているのか。初めて見る建物への興味から、俺は思わず屋敷のあちこちを見回していた。
『ん?』
その時、視界の端で誰かと目が合った気がした。咄嗟に視線を戻すと、1人の『女の子』と目が合った。
その子は、屋敷の2階の窓際からこちらを見つめていた。銀髪のポニーテールが特徴的な、高そうな服を着ていた女の子だった。歳は、見た目通りなら俺と同い年くらいだろうか?平民のそれとは違う、高そうな服を着ているし領主様の娘、かな?
ふと、そんな事を考えていると。
「よ~しっ、到着したぞ坊主~!」
「あ、はいっ」
御者の人に声を掛けられ、そちらを向いて返事をし、あの子が気になっていたのでまた視線を戻したのだが。
『あれ?いない?』
先ほどまで立っていたはずの窓際に彼女の姿は無かった。部屋の奥に行ってしまったのだろうか?
「ん?どうした坊主?」
「あっ、い、いえっ。何でもありません」
御者の人に話しかけられ、反射的に言葉を返した。って、こんな事考えてる場合じゃないな。これから領主様に会うんだ。失礼に無いようにしないと。
改めて、自分がこれから身分の違う相手と会うんだという状況を再確認し、気を引き締めるために一度深く深呼吸をした。
その後、俺は女隊長さんに案内され屋敷の一角にある応接室へとやってきた。
「では、一度ここで待っていてくれ。話自体は男爵様の執務室で行う。準備が出来たら私が呼びに来るから、この部屋から出ないように」
「わ、分かりました」
女隊長さんは俺の返事を聞くとすぐに出ていってしまった。俺は応接間に1人取り残され、あの人が呼びに来るのを今か今かと待つ事に。
うぅ、下手に時間かけると不安感が襲ってくるんだよなぁ。何もやる事無いせいか、そういった事ばかり考えるようになっちまう。就活に来た学生の待ち時間も、こんな感じなんだろうか。なんて考えながら、しばらく待っていると。
『コンコンッ』
「ッ!?は、はいっ!!」
突然のノックに驚いて、俺は上ずった声で返事をしてしまった。やべぇ、緊張してるの丸わかりだろこれ。
「少年、準備が出来たぞ。来い」
「あ、は、はいっ!」
外から聞こえて来た女隊長さんの声。俺はすぐに座っていたソファから立ち上がり、ドアを開けて廊下へ出た。
「来たな。では行くぞ」
そこにいたのは女性だった。声からしてあの女隊長さんなんだろうけど、姿がさっきまでと違っていた。さっきまでの鎧姿とは異なり、紺色の制服らしきものを纏っていた。それに兜を取っているから顔とか、髪色も分かった。赤い髪のショートヘアと少し鋭い視線が特徴的な人だった。
そんな女隊長さんのあとを付いて行く俺。少し歩くと、女隊長さんは一つのドアの前で立ち止まりドアをノックした。
「レイラです。ニクス少年をお連れしました」
「えぇ。どうぞ」
「はっ。失礼しますっ」
ドア越しに会話する女隊長さん。この人レイラって言うのか。ってか、今のドア越しに聞こえた声って、女性のか?
何てことを考えながら、ドアを開けた女隊長さん、もといレイラさんに続いて中に入る。
「ようこそ。お待ちしていましたよ」
「……え?」
部屋に入った俺を出迎えてくれたのは、先ほど見かけた女の子だった。さっき見かけた服装と髪型。更にこうして近くで見ると、青い瞳に色白の肌がはっきりとわかる。銀髪碧眼の美少女、というものをそのまま体現したかのような、美しい女の子だった。……けれど、それ以上に気になった事があった。
その子は、領主様の執務室で、執務机の椅子に腰かけていた。あそこに座るのって領主様、じゃないの?どう見てもこの子が領主って感じには……。と、考えていた時。
「おいっ」
小声で後ろから声を掛けられ、軽く小突かれた。
「領主様の前なのだ。姿勢を正し名を名乗れ」
「あ、は、はいっ!」
女隊長さんに指摘を受け、俺はハッとなり、反射的に姿勢を正した。
「お、お初にお目にかかりますっ!お、じゃない。自分はニクスと申しますっ!」
挨拶を交わし、名を名乗る俺。……ん?ちょっと待て?女隊長さんは何といった?『領主様の前』?……え?って事はちょっと待って?も、もしかして……?この女の子が領主様ッ!?えっ!?マジでっ!?
こんな、俺と大して歳に違いが無さそうな女の子が領主って、ホントにッ!?どっきりッ!?どっきりかこれっ!?いやでも、そんな悪ふざけをする意味が……。
思いもしなかった事態で俺が混乱していると、どうやらそれが表情に出てしまったようだ。
「ふふっ。その様子だと、余程驚かれているようですね?」
領主様だという女の子は、してやったりと言わんばかりにニヤリと笑みを浮かべた。
「あ、え、えと、い、いえっ。ただ少しっ、少~~しだけ、領主様がこんなに若い女性の方だとは、知らなかったものでっ」
我ながら今更、とは思うが俺は咄嗟に言い訳じみた言葉を彼女に返した。
「そうですか。しかし、いつ見ても楽しいものですね。私が領主だと分かった時の、初対面の方の驚きようというのは」
そう語る領主様は、物事を楽しむ年相応の、女の子のように笑みを浮かべていた。改めて見ても、この子が領主だなんて思えなかった。
「お嬢様。いつものお楽しみは分かりますが、ご自身も名乗るべきではありませんか?」
「あら、そうだったわね」
レイラさんの、少し呆れたような声に指摘され領主様だという女の子は、一度小さく咳払いをしてから、椅子より立ち上がり自己紹介を始めた。
「改めまして。私の名は『アイリーン・ルクリシア』。現ルクリシア男爵家当主にして、このルクリシア領をまとめる領主です。以後、お見知りおきを」
「は、はい。こちらこそっ」
彼女、もといアイリーン様は確かに領主だと自分で名乗った。傍に居た女隊長のレイラさんの反応からしても、これはおそらく、本当の事なんだろう。……正直、初老の男性辺りが出てくると思ってた俺からすれば、予想外な事この上ないんだが。
いや、今そのことは良い。それよりも俺には、領主たるアイリーン様にお願いしなければならない事がある。今の問題は、その話題をいつ切り出すか、だが。
「さぁ、まずはどうぞおかけ下さい。立ち話もなんですし、あなたの事は部下で騎士団長のレイラより報告を受けています。何やら『特別な力』をお持ちとの事ですし」
「ッ」
特別な力、という単語に俺は思わず反応し息を飲んでしまった。それをわざわざ切り出すあたり、やっぱりその辺りについて聞きたいのか。
「私としても興味があります。その辺りの事を、ゆっくりお話ししたく思いますので」
「わ、分かりました。では、失礼します」
緊張しつつも、俺は手近なソファに腰を下ろした。すると傍に居たレイラさんはアイリーン様の傍へ。アイリーン様も、再び椅子に腰を下ろした。そして、近くにあった鈴を手に取り、チリンチリンと鳴らした。何を?と思って居ると。
「失礼いたします。お呼びですか?お嬢様?」
部屋のドアが開いて、執事服姿の男性が現れた。
「私と、こちらの彼の分のお茶をお願い。あぁ、ニクスさんは何か飲めない物とかありますか?」
「い、いえっ、大丈夫ですっ」
突然話を振られ、咄嗟に答える。
「そうですか。では、お茶の用意を」
「かしこまりました」
執事さんはそう言って一礼をするとドアを閉め退室した。
「さて、ではお茶が来るまでの間、色々お話ししたい事もありますし。よろしいですか?」
「は、はいっ」
「ではまず。今回の盗賊団捕縛の件について、騎士団長レイラより詳細な報告は聞いています。なんでも、あなたの持つ不思議な力で生まれた、不思議な存在によって盗賊団の大半を捕らえる事が出来た、と。結果的に私の配下の騎士団は一滴も血を流す事無く盗賊団を捕縛出来ました。まずはそのことについてお礼を。ありがとうございます」
「い、いえっ。俺、じゃない。自分としましても、故郷の村を守るために応戦しただけですのでっ。お礼なんて……」
驚いた。貴族が平民にお礼を言って、会釈程度とは言え軽く頭を下げたぞ。おかげで考える暇もなく反射的にありきたりな返事をしちまった。
「そうですか。……しかし、今回の一件は運がよかった、という他ありませんね」
「え?運がよかった、ですか?」
俺は彼女の言葉の意味と、少し安堵するような様子の意味が分からず、思わず聞き返してしまった。運がよかったって、何がだ?見当が付かないが。
「聞くところによれば、ニクスさんの村は、ニクスさんの力で生み出した特殊な存在、ガードロボットやライガーなる存在が守護しているそうですね?」
「え、えぇまぁ」
「その存在は、やはり今回のような事を想定して生み出されたのですか?」
「はい。農村ともなれば、自衛力はたかが知れています。戦闘訓練を積んだ兵士の方もおりませんし。なので、魔物や盗賊の夜襲などを警戒して、私が力を使い生み出しました」
「そうでしたか。……ですが、もし今回の襲撃にあったのが、ニクスさんの村では無かったとしたら。ニクスさんのおっしゃるように、農村部の自衛力は都市部と比べて脆弱です。それを考えれば、口にするのも憚られるような、最悪の事態になっていた可能性も否定できません」
「ッ!」
そこまで聞いて、ようやく理解した。そうだ、俺の村には俺が生み出したライガーたちが居るから、自衛力は高い。でもそれ以外の村だったら、盗賊からの夜襲に気づかなかったかもしれないし、気づけたとしても負傷者や死傷者無しで撃退出来るのは不可能に近い。
そういう事を考えると、確かに領主様の目から見れば農村の被害も0で連中を捕らえられたのは、運がいいという他ない。
「た、確かに。そういう意味では、運がよかったと言えなくもない、ですね」
「えぇ。ニクスさんのおかげで、私は領地の農村一つ守れない無能領主、などと言われないで済みました。本当にありがとうございます」
「ッ。い、いえっ、お役に立てて、何よりですっ」
その時の領主様の微笑みは、本当に綺麗で思わず息を飲んでしまった。ってやばいやばいっ!顔が赤くなるのを何とかしないとっ!
俺は咄嗟に俯いて赤くなった顔を見られないようにした。
「そう言っていただけると助かります。ですが、更に私からお願いしたい事があるんです」
「え?お願い、ですか?」
突然の言葉に、俺は顔を上げた。なんだ?お願い、って?
「領主としてはもちろんですが、1人の人間として、ニクスさんの持つ力に興味があるんです。ですので、お話しいただけませんか?あなたの能力の、詳細を」
「……」
正直、この質問が来る事は予想通りだった。問題は、どう答えるかだが。これは、正直に答えるべきだろう。嘘を言い過ぎて、後でバレて打ち首、なんてのはごめんだ。
「分かりました。俺の力、『
その言葉に、領主様は満足げに笑みを浮かべた。
そうして俺は、領主様に俺の力について説明を始めた。俺の力は生み出したい物体を頭の中で『想像するだけで創造』する事が出来る力である事。お金や物質と言った、リスクや対価を必要としない事。無機物、つまり人や生き物、食べ物でなければ、ロボットやパワードスーツのような機械を生み出せる事などなど。そして……。
「俺の能力は今まで説明した通り、『対価を必要としない創造の力』、と言えますが、この力には一つだけ欠点があります」
「それは?」
「1日に使う事の出来る回数が決まっている事です。どれだけ簡単な物だとしても、1日の使用限界の回数を越えて生み出す事は出来ません」
「成程。それで、その回数というのは?」
「……2回です」
ここで、俺は一つだけ嘘を交える事にした。もちろんバレればどんな事をされるか分かったもんじゃない。だが、真実の中に嘘を織り交ぜる事で少しでも隠せればと思ったんだ。
それに、俺の持つ力の3回という回数制限。その内の3回目は俺にとっても、非常時の切り札のようなものだ。だからその存在を、この人らに知られたくなかったんだ。俺にとっての最後の切り札を。
「2回、ですか。少ない、というべきか。それともその凄まじい能力を日に2回も使えると評価するべきか。悩ましい所です」
そう言ってアイリーン様は息をついた。
「それで、他には何か?」
「いいえ。お伝えする事はこれですべてです」
「そうですか」
俺の話が終わった事を確認すると、アイリーン様は話の途中で執事さんが持ってきてくれたティーカップを取り、お茶でのどを潤した。
「ふぅ。……それにしても、素晴らしい力ですね。ニクスさんのアイアンファクトリーなる物は。1日にたった2回しか使えないとしても、リスクや対価を必要としない創造の力。加えて今回の盗賊撃退の報告を鑑みれば、ニクスさん1人で農村一つの防衛力を強固な物に出来る、という前例も出来た訳ですね」
「確かに、出来ない訳ではありませんが。今の私の故郷と同程度の防衛設備を設置するとなると、一か月は掛かりますが?」
ガードロボット10機にそれらの動力源となるバッテリー。それらを充電するソーラー発電設備と、そこで発生した電力を蓄えておく大型コンデンサ。それにライガーと同程度の戦闘力を持った存在にそのバッテリー。場合によってはその充電設備。これら全てを揃えるとなると、一か月は最低でもかかる。
「成程。……しかし、それは裏を返せば『一か月もあればその程度の防衛設備は整えられる』、とも言えます。これが人となれば、そうはいきません。人を集めて訓練し、更には彼らの衣食住の用意もしなければなりません。そうなると一か月という期間はあっという間に過ぎますし、加えて人を兵士として雇う以上、彼らの給金なども発生しますから。その点、お金の掛からないニクスさんの力であれば、そういったお金の面などを気にせずに防衛戦力を整えられます」
そこまで言うとアイリーン様は一度息をついた。
「領主として、あまり声を大きくしては言えませんが。領地を運営するのにもお金がかかります。その点、お金がかからず防衛設備を整えられる力というのは、私としては大変魅力的に映るものです。加えて、その力はそれ以外にも使えるとなれば、私でなくともニクスさんを『欲しがる』でしょうね?」
「ッ」
欲しがる、という言葉に俺は息を飲み表情を強張らせた。が、直後。
「あぁ、そんなに怖い顔をしなくて大丈夫ですよ。ニクスさんをどうこうしよう、などとは考えておりませんから」
「……大変失礼な質問である事は、重々承知しておりますが、それは本当なのですか?」
相手は領主様とはいえ初対面。素性も良く分からないんだ。言葉を鵜呑みには出来なかった。
「えぇ。もちろん。ニクスさんの力は大変魅力的ですが、先ほどのお話をまた違った角度から解釈すると、ニクスさんは時間さえあればたった一人で軍隊や要塞を作る事が出来る、とも考えられます」
「……確かに、時間さえあればそれは出来ます」
俺の能力さえあれば、土木作業用のロボットや戦闘用ロボットを用いて軍隊を形成。更に土木作業用ロボットの集団を生かせば、要塞、とまではいかなくても軍隊の野営陣地モドキを作る事だって出来るだろう。
「それを考えれば、ニクスさんの怒りを買う事は、軍隊を敵に回すのも同じ。それが分かっていてニクスさんを敵に回すような愚かな行為はしません。それに、ニクスさんの力の有用性は理解しているつもりです。それを分かった上でニクスさんを手放す程、私も愚かではありません。そんな事をするくらいなら、我が領地の発展に寄与してほしいくらいです」
そう言ってアイリーン様は微笑んだ。……彼女も俺の力の事は知ってるし、俺の力は使い方次第で領地を大きく発展させることだって出来る。それを考えれば、今はその言葉を信じるか。
「分かりました。今はアイリーン様の言葉を信じます」
「そう言っていただけると、助かります」
俺の言葉にアイリーン様は笑みを浮かべるだけだ。今の言葉だって、表面上言っただけという可能性もあるから、まだまだ油断は出来ないが。
「さて」
その時、アイリーン様の声が聞こえ俺は意識をそちらに戻した。
「ではここからは、『本題』に入りたいと思います?」
「本題?なんですかそれ?」
突然の単語に俺は思わず体を強張らせた。これからが本題だって言うのなら、ここまでのはただの雑談だったってのか?
「まぁ、そう警戒なさらないでください」
彼女はそう言うと席を立ち、テーブルを挟んだ、俺の向かいのソファに腰を下ろした。
「これから私が行うのは、言わば交渉、取引です」
「取引?俺と、アイリーン様がですか?」
「えぇ。ですがそう難しく考えないでください。私がニクスさんに求めるのはただ一つ」
アイリーン様は笑みを浮かべながら人差し指を一本立てたが、一体何を求められるんだ?俺は冷や汗を流しながらアイリーン様の言葉の続きを待った。
「土木作業用のロボットという物を生み出してほしいのです。我が領地の発展のために」
アイリーン様は、そう言って俺に右手を差し出してきた。アイリーン様の言葉に、俺は………。
第7話 END
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