第5話 露見

 村を襲った盗賊連中を退けたのも束の間。今度は俺たちの村が属するルクリシア領、そこを収めるルクリシア男爵家お抱えの騎士団がやってきた。彼らは俺たちが捕まえた盗賊連中を追ってきたようだった。そんでもって連中を無事に引き渡してはい終わり、だったらよかったのだが。色々な事の連続だった事もあって、騎士団の人たちにガードロボットを見られ、結果俺の力を説明しなければならなくなった。



「さて、貴様にはいくつか質問したい事がある。そこにいる謎の物体について、色々答えてもらうぞ」

「は、はい」

 今俺の目の前に立っている鎧姿の隊長さん。声は女性だけど顔は甲冑のせいで見えない。ただ、甲冑越しでも分かる殺気や警戒心。そう言った物に疎い俺でも分かる。下手な事を言えば、俺や村がどうなるか。あまり部外者には知られたくなかったが、もうこなってしまっては仕方ない。腹をくくろう。


「この物体、ガードロボットは俺が生み出した存在です」

「生み出した?貴様が?」

 とにかく説明を始めたのだが、早速隊長さんは疑問符を浮かべている。後ろの騎士たちも、ひそひそと何かを話している。十中八九俺の言葉を疑っているのだろう。

「信じられないのも無理はありません。しかし俺は生まれつき、変わった力を持っていて、それを用いる事でこのガードロボットのような、特殊な存在を作り出す事が出来るのです」

「……にわかには信じがたいが」

 隊長さんはじろじろと俺の後ろのガードロボットを見つめている。


「お、恐れながら騎士様。ニクスの言葉は本当でございます」

 その時、おずおずとした様子で村長が声を上げた。

「我々、この村に住まう者たちの幾人かはニクスが実際に力を使う所を見ております。この者の発言に一切の嘘はありませんっ」

「……」

 頭を下げ、必死に訴える村長をしばし無言で見つめた後、隊長さんは俺の視線を戻した。村長だって、怯えているだろうに。けど今はそのフォローがとてもありがたい。


「よかろう。ならばその話を信じるとして。次だ。まず、そいつらはなんだ?ガード、という言葉からして守衛のようなものか?」

 村長のフォローのおかげか、とりあえず信じてくれたようだ。なら、説明を続けるだけだ。

「はい。ガードロボットの主な任務は村の防衛です。通常、ガードロボットは形を変え、地中に隠れています。その状態でも周囲の音や気配には敏感で、夜間などに盗賊などが現れると、地中から出現し村に敵対的な存在にまずは警告を行います。それに従わなかった場合は、実力で相手を拘束するのです」

「拘束。では件の盗賊たちもそのガードロボット達が拘束したのか?」

「はい。昨夜のうちに襲撃を受けましたが、連中にとっても全く未知の存在であるガードロボットに驚き、混乱している所を何とか制圧する事が出来ました」

「……話を聞くだけでは、やはり簡単には信じられんが」


 未だに部隊長さんは俺の話を疑っていた。まぁ科学技術が俺の世界と比べても数世代は確実に遅れている、このファンタジー世界の人間ならいたって普通の反応だ。

「正直、信じてもらえない事は百も承知です。しかし、盗賊を捕えた事は紛れも無い事実です。もしよければ、改めて盗賊の元にご案内しますが?」

「……そうだな。今の我々には事の真偽よりも盗賊の身柄の方が重要だ。捕えているというのなら、その場所に案内しなさい」

「分かりました。村長も、良い?」

「あぁ、構わんよ、ニクス」

 村長にも確認を取ってOKを貰った。


「じゃあ」

 連中を閉じ込めている倉庫に行く前に、っと。

「ガードロボット3機へ。音声コマンド入力」

 傍に控えていたガードロボット達に声を掛ける。すると彼らの返事でもあるピピッ、という電子音が響く。

「以後は俺に追従。有事の際には適宜俺に判断を乞うように」

『『『了解。指揮下ニ入リマス』』』

 よし。これで良いだろう。

「では、どうぞこちらへ」

 騎士様たちに声をかけ、先頭を俺と村長。その後ろをガードロボット3機、更に後ろを騎士様たちが続く。


 そのまま真っすぐ小屋に向かうのだが……。

「便利な物だな。このガードロボット、とやらは」

 後ろから女性隊長の声が聞こえてくる。声色と内容からして、少なからずガードロボットに興味があるのだろうか?

「こいつらへの指示は人の言葉で事足りるのか?」

「え、えぇ。と言っても、高度に複雑化された指示は無理ですが」

 疑問符だし、質問なのだろうと思って思わず咄嗟に答えてしまったが、大丈夫だよな?


「では、複雑でなければ良いのか?どれくらいの事が出来る?」

「そ、そうですね。このガードロボットですと、指定した地点に移動し地中へ潜航しての待機と、周辺警戒や監視。有事の際の戦闘。あとは、腕がありますので少量の物資の運搬、などでしょうか?」

「物資の運搬?そんな事も出来るのか?」

「可能ではありますが、積載量は多くありません。精々、数キロの荷物が関の山です。運搬能力に特化している訳ではありませんし」

 ……ってやばっ!聞かれたからペラペラ答えてるけど、これ不味くないっ!?しかし、気づいた時には後の祭りだった。


「ならば、運搬能力に特化させることは出来るのか?」

「ふ、不可能ではありませんが、そうなると他の物が犠牲になります」

「ふむ。例えば?」

「最もな物としては俊敏性ですね。重い物を大量に運ぼうとすると、それらを乗せた荷台と本体の総重量を支えられるだけの巨大で太い脚が、それも恐らく複数は必要になります。そうなると、荷物や本体だけで相当な重さになり、必然的に動きも鈍くなります」

「では、機動性と運搬能力を両立させる事は出来ないのか?」

「正直、分かりませんね。その両方を高い水準で維持するアイデアが無い、訳でもないのですが。それを俺、あいえっ、私の能力で作れるかどうか」

「ふむ。成程」


 女隊長さんは俺の能力に興味津々、と言った感じだ。あらゆる力を持つマシンやロボットを生み出せる俺の能力を考えれば、それは仕方ないのかもしれないが。正直相手は親しくも無い初対面の、それも騎士様だ。俺の力を戦争に利用できると考えているかもしれないし、俺の力を領主であるルクリシア男爵家に報告される可能性もある。そうなれば、領主様に目を付けられる可能性も……。


 内心、そんな事を考えながら歩いていると……。

「騎士様、捕らえた盗賊どもは、こちらの納屋の中であります」

 村長の説明する声に気づいてハッとなって意識を戻した。見ると、いつの間にか納屋の前までたどり着いてしまっていた。


「この中か」

 騎士様は警戒した様子で呟くと背後の部下の方へと肩越しに振り返った。

「総員、念には念を入れて警戒を怠るな」

「「「「「はっ!」」」」」

 女隊長さんの指示に従い、数人が剣を抜き、2人が扉の前に立つ。そして2人は頷き合うと、扉を開いた。剣を持った騎士たちがすぐさま中へと入っていく。直後、中に捕らえられていた盗賊と、それを連行しようとする騎士たちの怒号が響き渡る。数秒もすれば、縄で雁字搦めの盗賊を連れた騎士たちが中から出てくる。


 数分もすれば、捕らえられていた盗賊全員が女隊長さんの前に跪かされる。

「ふむ。村長、捕らえた盗賊はこれで全員ですか?」

「えぇ。確かにこれで全員です」

「そうですか。では」


 村長から確認を得た隊長さんは部下たちに命じて盗賊たちを馬車の方へと連行させた。喚きながら連行されていく盗賊たち。

 と、そこに入れ替わるように何故か村の子供達がやってきた。

「ニクス兄ちゃんッ!」

「み、皆っ!?どうしたのっ!?」

 なんでみんなが来るんだっ!?と俺は子供たちがやってきた意味が分からず首を傾げた。


「父ちゃんたちから話聞いたんだっ!ライガーたちが悪い奴らやっつけてくれたんだろっ!?」

「でも、私たちライガーが心配でっ!どこにいるのっ!?」

 あ、あぁ成程ッ!皆ライガーの事を心配してきてくれたのかっ!それ自体はライガーの生みの親として大変ありがたい事なんだけどっ!けどっ!


「ライガー?」

 この女隊長さんがいる前ではやめて欲しかったなぁっ!

「ねぇねぇっ!ニクス兄ちゃんっ!ライガーはっ!?」

「だ、大丈夫だよみんなっ!ライガーは無事だからっ!」

「ホントにッ!?なら呼んでよっ!」

「え、えぇっ!?」

 呼ぶってここにっ!?でもそんな事したら、部外者の騎士様にライガーの事を知られるッ!流石にそれは……っ!


 と、その時。

「それはそれは。ぜひとも詳しく話を聞きたいのだが?」

「ッ!!」

 不意に、肩にポンと手を置かれ振り返ればそこにいたのは、女隊長さん。


「あ、え、え~っと」

「君たちの言うライガーとは、何者なのだ?」

「ライガーはねっ!大きな猫みたいなんだよっ!」

「ちょっ!?」

 どう答えるべきか、素直に話すべきかどうか迷う暇すら与えられなかった。女隊長さんに問われると、子供たちが即座に話し始め、更に驚いて俺の反応が遅れてしまうっ。や、やめてぇっ!


 しかし俺の願いは届かなかった。

「違うよっ!ライガーは虎って言う大きな猫みたいなのがモデルなんだよっ!ねっ!ニクス兄ちゃんっ!」

「え、えぇっと、そう、だけど」

 頭が事態に追い付いてないせいで、殆ど反射的に答えてしまった。

「ほう?聞いている限りだと、そこにいるガードロボットとは、また別の存在のようだな」

 女隊長さんは、そう言うと再び俺の肩にポンッと優しく手を置いたが、俺はそれだけでビクッと体を震わせた。だってもう無理だよ、ごまかし出来ないよここまで来たら!


「ぜひ、私も会って見たいのだが?どうだろう?」

「は、はは、わ、分かり、ました」

 無理だよもうっ!どうだろう?じゃねぇよっ!もうここまで来たら隠せないよっ!誤魔化せないよっ!せめてライガーの存在くらい秘匿したかったけどもう無理だよっ!


「お~~いっ!ライガーッ!悪いけど来てくれ~~!」

 俺は大きく息を吸い込み、そして村中に響くように大声で声を上げた。そして数秒もすれば、村の入り口の方からライガーが足早に駆け寄って来た。


「ほう?これが?」

 どうやらガードロボットで耐性でも付けたのか女隊長さんは驚いた素振りは見せず、ただ興味津々と言った様子でライガーを注視していた。

「「「「ライガーッ!!」」」」

 そしてそんなライガーに子供たちが群がる。


「ライガーッ!大丈夫っ!?怪我してないっ!?」

「ねぇねぇ!ライガーが悪い奴らやってくれたんでしょっ!?」

 子供たちは口々にライガーを心配するが、肝心のライガーは皆を安心させようとしているのか、優しく鳴きながら尻尾を振っている。皆それに安堵したのか、ライガーを囲って嬉しそうに笑っていた。


 それを見守っていた俺だが、そこに女隊長さんが近づいて来た。

「凄いものだな。あれも、お前の力の産物か?」

「……えぇ。そうです」

 もう、ここまで来たら隠す意味はない。そう思うと口と体が少しだけ軽くなった。


「先ほどまでのガードロボットとまるで違うな。まるで本物の生き物のようだが、こいつを作った目的は?」

「……ライガーは、この村の最強戦力。言うなれば切り札ですよ」

 女隊長さんは俺の隣に並び、俺と同じようにライガーと子供たちの様子を見つつも、俺の方に興味があるのかチラチラとこちらを見ている。

「切り札、か。しかしこの村にはガードロボット、とやらが居るのだろう?必要なのか?」

「えぇまぁ。確かにガードロボットは優秀ですが、だからと言って一機で10人の悪漢を止められる訳ではありません。更に、この辺りに強力な魔物は居ませんが、何かの理由でそう言った存在がやってこない、なんて確証はありません。そういった、未知の脅威に対抗する最後の切り札的存在がライガーなんです」

「成程。しかしとなると、あのライガーなる存在は、強いのか?」

「えぇまぁ。実際、昨日の真夜中の戦いでは大活躍でしたよ」

「……そうか」


 俺の答えに女隊長さんは少し不服そうだ。まぁそれもそうだろう。今の会話、女隊長さんはライガーの具体的な強さを聞きたかったのだろうが、俺は曖昧に答えた。流石にライガーはこの村の切り札だ。おいそれとスペックまで公開出来るか。


 ……とはいえ、剣とか使って脅されたら喋るしかないんだが。そんな事までしてくる、野蛮な相手だとは思いたくないな。俺は静かに女隊長さんの様子を伺った。


「まぁ、良い」

 やがて女隊長さんは息をつきながらそう漏らした。

「当初の目的であった盗賊団も、大多数をそれもこちらが無傷という形で捕縛出来た」

 そう言って女隊長さんは俺の方に向き直った。

「お前の活躍は我々にとって嬉しい誤算となった。おかげで兵も傷つかずに済んだ。礼を言う。ありがとう」

「ッ、い、いえ」

 なんと女隊長さんは俺に向かって感謝の言葉と共に頭を下げて来た。それが予想外過ぎて、驚いて思わず声が上ずってしまった。が……。


「しかし、これだけは言っておく」

「ッ」

 不意に、女隊長さんの声が堅い物になって、俺は思わず息を飲んだ。

「お前のその力は、我々が使える主、ルクリシア男爵家に報告しなければならない。我々にはその義務がある。お前にとっては良い話ではないとしてもな」

「……えぇ、それは分かってます」


 この人らに知られた以上、その上の存在である男爵家に俺の力の事が知られるのは確実だ。しかし、確実に知られるのなら俺としても知りたい事がある。


「あの、一つ聞いて良いですか?」

「ん?なんだ?」

「今の領主様が俺の力を知ったら、俺をどうすると思いますか?例えば、俺を捕まえて奴隷のようにして、力を使わせる、とか」

「………」


 女隊長は何も言わず俺の方を見ている。しかし肝心の俺だって、内心冷や汗ダラダラの状態だ。こんな質問、おいそれと出来ないし、下手をすればこの女隊長さんに『主を侮辱した罪で逮捕』、なんて言われるかもしれない。でも、聞かなければならない。今後の『対応策』を考える上では、絶対に。


 それから俺はしばし、兜越しに女隊長さんと視線を交差させた。が……。

「ふっ。その点なら安心するが良い」

 やがて女隊長さんはそう言って小さく笑ったようだった。


「我らが使える主は、聡明なお方だ。あの方ならば、そういった手段がどれだけ愚かな選択なのか分かっている」

「そう、なのですか?」

「あぁ。以前、あの方は似たような質問をされてな。その時こう返した。『そんな方法しか取れない者は二流。一流は自らを信頼させ、心酔させ、心から相手の力になりたいと思わせてこそ』、だそうだ」

「そ、そうですか」


 何だその人心掌握術の基本、みたいな言葉っ!いやでも言ってる事は実際その通りなのかっ!?けどまぁどっちにしても、言葉通りならただ権力を振り回すアホ、って感じじゃなさそうだ。……何てことを考えている間にも、女隊長さんは言葉を続けた。


「あの方は、ただ金と権力にしか目が無い、薄汚い貴族連中とは違う。あの方は、真にルクリシア男爵領の発展を願い日々努力されている。素晴らしいお方だ」

 そう語る女隊長さんの表情は、兜のせいで分からなかったが。声色からしても、領主様を信頼しているのが分かった。

「信頼、されてるんですね。領主の男爵様の事」

「あぁ。何しろ私はあの方と。……っと、これはお前に聞かせるような事ではなかったな」

 そう言って、女隊長さんは途中でハッとなり、言葉の最後を濁した。


「ともかく。領主たるあのお方がそのような卑劣な手段でもって、お前を脅し労働を強いる事が無い事だけは私が保障しよう。……もっとも、あの方は才ある者を勧誘したがる。恐らく、我々は再びここを訪れる事になるだろう。それも近いうちに、な」

「……」

 近いうちの再訪。それが意味する事は分かる。要は俺を領主様の所へ連れていく為だ。俺としては、今はまだ村の外で自分の力を振るう気にはなれなかった。俺のこの力が凄いのは、俺が一番良く分かってる。


 リスクや素材無しで、ロボットを作れる力。これは文字通り神の力だ。これがあれば、凄まじい破壊兵器を作る事だって夢じゃない。そんな力の使い方を悪意ある連中が知れば、俺は絶対に狙われる。

 だからこそ、今はまだ村の外に出て力を振るう覚悟が俺には無かった。


 と、そんな事を考えていた時、ふと目の前に差し出された手に気づいた。

「何はともあれ。お前のおかげで我々は盗賊を捕える事が出来た。改めて感謝を示そう。ありがとう」

「あ、い、いえ。こちらこそ。お役に立てて良かったです」

 俺は若干しどろもどろに返事をしながらも、彼女の手を取り、握手を交わした。

「ではな」

 そして最後にそう言うと、女隊長さんは俺から離れていった。


 その後、騎士団の人らは捕らえた盗賊連中を馬車に乗せると、最後に女隊長さんが村長や傍に集まっていた人らに『それでは。失礼します』とだけ言って村から出ていった。俺はライガーと共にそれを遠巻きに見つめていたのだが……。


「ハァ~~~」

 あの人らが見えなくなると、俺は息をつきその場に座り込んだ。ったく、真夜中から今の今まで色んな事があり過ぎだよ。おかげで、今になって疲労感がドッと襲ってきた。


 すると、そんな俺を心配したのかライガーが小さく鳴きながら俺の顔を覗き込んでくる。

「あぁ、悪いなライガー。大丈夫だから」

 俺はそんなライガーの頭を優しく撫でる。……とはいえ、心配事があるのも事実。正直、今すぐベッドにダイブしたい程に疲れているが、一応村長に報告しておかないとな。……ってか、俺が村を離れたらパワードスーツのロック解除、出来ねぇじゃん。あれの起動認証は俺の指紋だし。あ~、そうなると一時的でも親父か村長辺りの指紋も起動認証出来るように設定しないと。……まだまだやる事は多いなぁ。そう考えると体が怠い。けど、やるしかないのも事実。


 俺は怠い体に力を入れて立ち上がり、村長の元へと向かった。そして、あの女隊長さんが言っていたように、『近いうちにまた来るかもしれない』、という話の説明を村長にした。


「成程のぉ。ニクスの力を知って、ニクスに興味が沸いた領主様がニクスを自分の所に呼び寄せる、か。確かにニクスの力を領主様が知れば、確実に興味を持たれるじゃろうなぁ」

「あぁ。だから多分、あの騎士団の人らはまた近いうちに村に来ると思う。俺を、領主様の所に連れていくために。でもそうなると、最悪俺が数日は村を離れる事になるから。そうなるとパワードスーツのロックが解除できないから、一時的だけどウチの親父と村長でもパワードスーツのロック解除できるようにしておきたいんだ。後でちょっと時間貰ってもいいかな?」

「あぁ。構わんよ」

 村長は静かに頷いた。


「しかし……」

「ん?どしたの村長?」

 ふと村長が何かを考えこむように俯いた。しかし、の次が気になったので俺は声を掛けた。 


「もしニクスの力を領主様が知れば、ニクスも貴族様の家臣となるやもしれんな」

「えぇ?俺が貴族の配下になるかも、って事?」

 俺は思わず自分を指さしながら眉を顰めた。俺としては誰かの配下になるつもりは無かった。どちらかと言えば、自由にロボット達を生み出しながら、時に人助けをしながらゆっくりと生活できればそれでよかった。それを考えると、貴族に仕えるという事に対しては前向きになれなかった。


 何を作れと言われるか、分からないしなぁ。

「なんじゃ?ニクスはずいぶん嫌そうな顔をしておるのぉ。そんなに貴族に仕える事が不満か?」

「そりゃまぁ、ね。何を造らされるか分かったもんじゃないし。出来る事なら、俺は自由にロボットを生み出して、そこそこ平和に暮らせればそれで良いからさ」

「成程なぁ。まぁ、欲を言えばワシらとしても、ニクスには村に残ってほしいのが本音じゃがな」

「俺だってそうだよ。ここは生まれ育った場所だ」

 俺は、部屋の窓から見える外の景色に目を向けた。


「この村を出ていくなんて、考えた事も無いよ」

 ここが俺の、第2の故郷だ。そこを離れる事なんて。俺はまだ考えてはいなかった。……だが。



~~~~~~

 ニクスの村の一件から数日後。所変わって、ルクリシア領を収める貴族、ルクリシア男爵家の邸宅がある町、『ナテア』。そのナテアの町の郊外にあるルクリシア男爵家の邸宅。


 その邸宅の一室で、騎士団を率いていた女隊長、『レイラ』が主たる領主に事の顛末を報告していた。

 あの日の鎧姿とは異なり、騎士の制服に身を包み、炎のように赤い髪のショートヘアが特徴的なレイラ。そして彼女の報告を聞いていた人物は、上々の成果に笑みを浮かべていた。

「成程。報告はそれだけですか?」

「はいっ。それで、捕らえた盗賊連中は如何いたしますか?」

「当初の予定通りよレイラ。お隣のアゼル子爵の所へ移送。そのための準備をしておきなさい。それと、もちろん移送中に逃走されないように警備と捕縛はしっかりと、ね」

「はっ」

 レイラは主に対し敬礼で答える。

「しかし、これでアゼル子爵に借りを作る事が出来ましたね」

「えぇ。アゼル子爵は典型的な貴族タイプ。金と権力に目が無く、そして自らの権威やプライドを傷つける者を許さない。自らの領内で暴れた盗賊団を、配下の騎士団で捕らえられなかったとなれば、彼のプライドが許さないでしょうね」

「しかし現に、子爵配下の騎士団は盗賊団を逃し、更には我々のルクリシア領への侵入を許した」

「えぇ。けれどそれを私たちが捕らえる事が出来た。盗賊団を私たちが国の司法機関に突き出す事も出来るけれど、そうなればアゼル子爵は領地の問題一つ解決できない阿呆と周囲に評される恐れもあります。そうなればアゼル子爵は激怒し、更には盗賊団に対処した我々に対し、『プライドを傷つけられた』と逆恨みを抱く可能性もあります。そうならない為にも、盗賊団の身柄を子爵へと渡し、彼のメンツを守りつつ恩を売る」

「それが、あなた様の考える最善の手立て、という事ですね?」

「えぇ。そう言うわけだから、移送の準備をお願い」

「はっ、かしこまりましたっ!」


 そう言って敬礼をし、『失礼しますッ』と言って踵を返し部屋を出ていこうとするレイラ。しかし、彼女の主は、ふと思い出したように『あぁ、そうそう』と口を開いた。


「レイラ」

「はっ、何でありましょうか?」

 声を掛けられた彼女が足を止めて振り返る。

「先ほどの報告にあった農村の少年だけど、迎えの用意もお願い」

「……やはり、興味がありますか?例の少年が」

 レイラは主の言葉に笑みを浮かべながら問いかけた。

「えぇ。魔不思議な鉄の人形、ロボットなる存在を生み出し操る少年。ぜひ、会って見たいわ」


 そう言って、ルクリシア領の現領主にして、ルクリシア男爵家の若き当主、先代の一人娘、『アイリーン・ルクリシア』は特徴的な銀色のポニーテールを揺らしながら、興味をそそられたニクスに会える日を楽しみにしているかのように、微笑を洩らしたのだった。



     第5話 END

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