第4話 来訪者

 ある日の真夜中。アラームで叩き起こされた俺たちは、村を襲撃してきた盗賊の対応に追われた。幸いな事に、こういった事態を想定して配備しておいたガードロボットとライガーの活躍で、大半の盗賊は捕縛、残りは逃げ出すという形となり村の被害は軽微な物で済んだ。しかしその後、再びガードロボットのレーダーが新たな来訪者の存在を告げてきた。


「え~っと、村長は~~っ!?」

 俺は今村の中を駆け回り村長を探していた。

「あっ!居たっ!」

 走り回っていると、村の周囲を囲う柵の近くに村長が居るのを見つけた。どうやらおっちゃんらと一緒に、盗賊に壊された柵を直していたみたいだ。とにかく見つけたっ!急いで報告しないとっ!

「ハァ、ハァッ!そ、村長っ!村長っ!」

 俺は、村長や皆の元に走って、息を荒らげながらも声を掛けた。

「ん?どうしたニクス?そんなに慌てて」

 俺に気づいた村長や、村のおっちゃん達が『なんだなんだ?』と言わんばかりに手を止めて俺の方を向く。


「た、大変なんだっ!さ、さっき、ガードロボットのレーダーが、ハァ、ハァッ。こっちに近づいてくる騎馬の集団を捉えたみたいでっ!」

「なんじゃとっ!?」

「「「「えぇっ!?」」」」

 村長が声を上げ、更に他の皆まで驚愕の表情と共に声を上げた。


「そ、それは本当なのかニクスッ!?」

「間違いないよっ!ガードロボットのレーダーが捉えたんだっ!」

 俺はコマンドウォッチの画面を操作し、レーダーチャートを映し出す。チャートの上には村を表す点が中央に描かれており、レーダーチャートの外側から、ゆっくりと赤い光点がこちらに近づいている。 これが、今ガードロボットたちのレーダーが捉えている様子だ。


「こ、この赤い点がそうか?」

「そうだよ。速度から言って、もうすぐたどり着くと思う」

「なんという事だっ!盗賊の次は謎の騎馬集団などっ!」

 村長は焦りからか声を荒らげ右往左往している。仕方ないっ。


「村長、ここは敢えて入り口近くで相手を待ってみよう」

「ッ!?本気なのかニクスッ!?」

「相手が盗賊か、どこかの騎士団なのかは分からない。分からないからこそ、敵と判断出来ないんだよ」

「ッ。た、確かに」

 俺の言葉を、最初は驚き正気を疑っているようだったけど、すぐに続きを聞くと村長は頷いた。


「だからこそ、自分たちの目で確認するんだ。万が一敵となる存在だったら、入り口付近に待機させているガードロボットと、これから俺が連れて行って、近くに隠れて待機してもらうライガーで倒す」

「……可能なのか?ニクス?」

「正直、分からない」


 村長の静かな問いかけに俺は素直に答えた。周囲では、皆が俺と村長の会話を、固唾をのんで見守っていた。

「ライガーは相当の戦闘力があるし、それはついさっきの盗賊との戦いで証明出来た。……けど相手は騎馬兵だ。ライガーは1体だけだし、馬の機動力があるとガードロボットで追いかけて捕らえるのも難しいから、分からない。正直、敵でない事に越した事はない、かな」

「……分かった。ならばワシが入り口でその謎の騎馬集団を出迎えよう。ニクス、お主はライガーと共に近くの家の影に隠れて、待機していてくれ」

「分かった」


「村長ッ!俺たちはっ!?」

 するとそこに、傍に居たおっちゃんの1人が声を上げた。

「お主らは今すぐ、入り口の家の者たちを連れて村の奥へ下がれ。万が一の時は、ニクスのガードロボットとライガーに頼る他ないっ」

「わ、分かったっ!よし皆っ!聞いての通りだっ!急ぐぞっ!」

「「「「おぉっ!!」」」」


 村長の指示を聞き、再び皆が慌ただしく動きだした。それを見送ると、俺は大きく息を吸い込んで。

「ライガァァァァァァッ!!」


 思いきり叫んだ。数秒、俺の声が木霊した。すると俺の家の方から、猛スピードでライガーがかけてきて、俺の前で止まった。

「ライガー、連戦で悪いけど、頼む」

 俺の言葉に、ライガーは静かに頷いた。よしっ。

「村長、行きましょう」

「うむ」

 

 俺はライガー、村長と共に村の入り口に向かった。そんな時だった。

「ニクス、お主に頼みがある」

「何?村長」

 不意に村長が俺に声をかけてきた。頼み、って何だろう?

「もし、ワシにもしもの事があったら、村を頼む」

「ッ。そんなこと、絶対にさせないよ。ライガーだっているんだ。誰一人、死なせるもんか……っ!」


 俺はバッドエンドも誰かが泣いて悲しむのも嫌いだ。そんなの認めない。

「もしもの時は、じゃよ。……お主のおかげで村の生活は豊かになった。それにお主は賢い。その力と知性があれば、村長に十分じゃ」

「買いかぶり過ぎだよ」


 力は与えられた物だし、知識だって。ただ前世で高等教育を受けていたから、ってだけだ。この世界の農民じゃ学校に行くなんて、ありえないし。……っと、今はそれどころじゃないな。


「とにかく、この村は俺の故郷なんだ。ライガーたちだって、この村を守るための存在だ。……相手が盗賊だって言うのなら、この村を脅かすって言うのなら、全力でそれに抗ってやるさ」

「ほっほっ、頼もしいのぉニクスは」


 村長は分かっているが、不安を押し殺しているだけだ。現に村長の手が僅かに震えている。それを前にして、俺は決めた。絶対に、何が何でも皆は俺が、俺の子供たちが守るっ!それにいざとなれば、この力で武器を作って、俺がこの手で……っ!


 人と戦った経験はないけれど、村を守るためだ。覚悟は、しておくべきだよな。そう考えながら歩いていたけど、前方に村の入り口が見えて来た。


「ニクス、お主はあの家の裏にライガーと隠れておれ。万が一の時は、頼むぞ」

「……分かった。ライガーと、いつでも飛び出せるように準備しておくから」

「うむ」

「ライガー、行くよ」

 村長の返事に頷き返すと、俺はライガーを伴って村長から離れた。


 すぐに近くの家の影に隠れ、入り口や村長の周囲の様子を伺う。手首のコマンドウォッチの画面を叩き、レーダーチャートを呼び出し確認する。レーダーの通りなら、そろそろのはずだけど。


 と、思った時。聞こえてきた。地面をたたく馬の蹄の音と、ガタガタと揺れる馬車の車輪の音。それが複数、音は小さいけれど確かに聞こえてきた。いよいよか、緊張しながらも、いつでも飛び出せるように壁の角から入口辺りの様子を伺う。


 やがて、俺の位置からも村の入り口に近づく騎馬や馬車の姿が見えて来た。

「ん?あれって?」


 そして真っ先に俺の目に入って来たのは、旗だった。馬車などが掲げている旗。更に近づいてきて分かったが、騎馬に乗っている人も馬車を引いている人も、皆同じような甲冑を纏っていた。それを見る限りでは、貴族お抱えの私兵の騎士団か、いずこかの国に属する騎士たち、と考えて良いのかもしれない。


 まぁ、騎士団に扮した盗賊、という可能性も捨てきれないけど。やがて騎馬と馬車の集団は村の入り口の前で止まり、その中から3騎ほど、騎馬兵が馬に乗ったまま村の中へと入って来た。


 ん?よく見ると、3騎の騎馬の中で1番前にいる馬に乗ってる人、他の人たちと鎧の意匠が少し違う。部隊長、か?フルフェイスのヘルメットのせいで顔は見えないが。とにかく、3騎が村長に近づいている。周囲には、よし。近くにガードロボットが2機。いざとなればこの2機とライガーで足止めしつつ、村長を連れて村の奥へと下がる。


 俺はいつでも飛び出せるようにしながら、様子を伺う。

「我々は『ルクリシア男爵家』に仕える騎士団であるっ。貴様は、見たところこの村の長か?」

「は、はい。左様でございますっ」


 隊長らしい奴の言葉に村長が緊張した様子で頭を下げている。声の感じからして、あの隊長女性か?いや、今そのことは良い。それより確か、ルクリシア男爵家って、確かこの辺りを収めている貴族様の名前だったような。つまり連中は領主お抱えの騎士団、って事か?なんだってそんな連中がこんな田舎の農村に。


「我々はルクリシア男爵領内に侵入した賊を追ってきた。連中がこちらの方角へ来た事は間違いない。村長、あなたは何か知っているか?」

 成程。つまりあの人らは、昨日この村を襲った連中を追跡してきたって事か。

「ぞ、賊でしたら……」


 村長は少し答えに迷っていたようだ。そして不意に俺の方をチラ見してきた。だが、それが不味かった。

「ん?」

 村長の視線を追って、隊長らしい人がこっちを向いたっ!?


 やべっ!?今一瞬目が合った気がしたっ!ば、バレてないよなっ!?

「そこっ!誰かいるのかっ!出てこいっ!」

 あっ!ダメだこりゃバレてるっ!……こういう時は、どうする事が正解なんだっ!?隠れてやり過ごすかっ?


 と、考えたのも束の間。

「出てこないのなら我らに敵意を持つ者として排除するぞっ!」

 うん、ダメだこりゃ。隠れてやり過ごせるパターンじゃないわこれ。仕方ない。

「ライガーはこのままここに隠れてて」

 俺が小声で指示すると、ライガーは『コクンッ』と無言のまま頷いた。これで良しっ。さて、行くか。

「ご、ごめんなさいっ」

 俺は出来るだけ怯えた表情を浮かべながら、建物の影より出た。


「ん?子供か。そこで何をしている?」

「お、大人の人たちに、村の奥に居ろって言われたんですけど、ど、どうしても気になってしまって。ごめんなさいっ」

「……村長、あの子供は村の子供ですかな?」

「え、えぇそうでございますっ」

「そうですか」


 リーダー格らしい騎士様は少し俺を訝しんだ後、村長の言葉を聞くと俺への興味を失ったようだ。

「それより村長、盗賊たちについてもう一度聞きますが、何か知っていますか?」

「は、はい。実を言いますと、ほんの数刻前に、盗賊の襲撃を受けまして」

「ッ!なんだとっ!?では賊はっ!?」

「あ、も、問題ありません騎士様っ!連中は捕らえ、村の納屋に放り込んでありますのでっ!」

「何っ?」


 襲撃があった、と聞いた隊長騎士の人は驚き声を荒らげたが、村長の言葉を聞くと、今度は怪訝な声を上げた。

「その話、本当ですか?」

 声色からしても、疑っているのは間違いないだろう。

「ほ、本当でございますっ。よ、よろしければご確認下さい。一部は逃しましたが、リーダーと思われる輩を含めて、何人かは拘束し納屋に閉じ込めておりますっ」

 緊張した様子で村長が説明する。隊長騎士はしばし無言で村長を見つめていたが、やがて息をついたのか兜が小さく上下する。


「良いだろう。ならば、その納屋に案内なさい」

「は、はいっ!」

 隊長騎士さんは村長が頷くと後ろへと振り返った。


「総員、馬を降り数人はここで待機っ!残りは私と共に盗賊が居るという納屋に向かうっ!」

「「「「「はっ!!!」」」」」

 隊長の指示を受けた騎士たちが慌ただしく動き出す。

「では村長。案内を」

「は、はいっ」

 村長は緊張している様子だ。無理もない。貴族の騎士団なんて、早々こんな田舎の村に来るもんじゃない。まして相手は武装してるんだ。


「村長、俺も行くよ」

「あ、あぁ。ありがとうニクス」

 俺は震える村長の手を取り支えながら、村長を気遣いつつゆっくりと歩き出した。そして馬から降りた隊長騎士を筆頭に、俺たちに付いてくる騎士連中が、ざっと20人。ライガーは、気づかれてないな。上手く家屋の影に隠れてるみたいだ。


 それから俺は村長を気遣いつつ納屋へと向かった。

「あ、あそこが盗賊を捕えている納屋でございます」

 そう言って村長は震える指先で前方に見え始めた納屋を指さす。俺もつられてそちらに視線を向けたが……。


「あっ」

「ん?」

 ふと、ある事に気づいて思わず声を上げてしまったっ!しかも隊長騎士らしい人に聞こえていたのか、後ろで微かに声が聞こえたっ!しかし気にしている場合じゃないっ!問題があったのだっ!


 その時俺が気づいた問題は、ガードロボットだったっ!万が一盗賊が逃げないように、3台を納屋の周囲に配置していたっ!もちろん、威圧目的もあって、地中に埋まっている待機モードではなく、手足やカメラアイが展開された通常モードでだっ!つまり近づこうものなら、騎士の人たちは間違いなくガードロボットを目にするっ!


 かといって今ここで、腕に巻いたコマンドウォッチで指示を出しても、絶対聞かれるっ!そう考えた俺は、無意識のうちにコマンドウォッチを手で覆うように隠した。


「……」

 な、何か後ろから視線を感じるが、仕方ないっ!

「あ、そ、村長っ!俺皆に騎士団の人たちが来た事伝えてくるよっ!良いでしょっ?」

「ん?あ、あぁ、構わんよ?」

 村長は少し緊張した様子だ。申し訳ない、とは思うが、下手にガードロボットを見られると、魔物と勘違いして戦闘に発展する恐れもある。それだけは何としても避けたい。


「じゃ、じゃあ俺っ!みんなの所にっ!」

 そう言って足早に離れようとした。が……。

「待て」

「ッ!」

 隊長騎士さんに呼び止められてしまった。

「な、何でしょうか?騎士様?」

 俺は足を止めて振り返り、出来るだけスマイルを浮かべる。

「……お前、何か隠していないか?」

「ッ!?か、隠すっ!?そ、そんなことありませんよっ!?」


 反射的に息を飲んでしまったのは不味かったと思ったが後の祭り。何とか誤魔化そうと必死になるが、数秒してその『必死さ』もまた怪しまれるのでは?と考えてしまった。


 そして案の定だった。

「まぁ良い。だが、今私たちから離れる事を禁ずる。今私たちから離れようとすれば、私たちに何か害意や敵意、悪意を持つ者とみなし、子供でも容赦しない。分かったな?」

「は、はいっ」

 

 兜の隙間から僅かに見える鋭い視線に、俺は怯えた。今の言葉は、本気だ。下手をすれば、子供の俺でも切り捨てるぞ、と雰囲気が教えている。ここは、従う以外に道は無いだろう。


 だが、それでは不味い。彼らがガードロボットと遭遇したらどうなる?戦闘?それだけは避けたいが、もうここまで来たら、なるようにしかならないっ!頼むぞ、穏便に済んでくれ。


 俺は必死に祈った。そして納屋に近づくと……。

「ん?なんだあの黒いのは。置物か?」

 案の定、騎士団の人たちにガードロボットが見つかったっ。どう出るんだ?この人たちは……。


「村長、何ですかあの黒い物体は?」

「え?あ、え、えぇと、そ、それは、その……」

 村長は緊張し口ごもる。それにガードロボットの詳細を知っているのは俺だけだ。村長や周りの皆は、『村を守ってくれる存在』程度の事しか知らない。そしてだからか、村長はしきりにチラチラと俺を見つめてくる。


 その視線は、はっきり言って分かりやすい。だから隊長騎士さんも俺の方へと視線を向けてきた。

「お前、お前も何か知っているのか?」

「え、え~っと」

 案の定質問されたが、こういう時の事を俺は想定していなかった。仮に騎士団などの来訪があったとしても、ガードロボットは地中に隠れてもらい、ライガーも一時的に村の外の山や森に逃げ込んでもらえればいいと考えていた。


 しかし急な来訪に、対応が間に合わなかった。だから何と答えれば良いのか迷ったのだ。と、その時。

「貴様、先ほどから挙動が怪しいが何を隠しているっ!」

 

 隊長とは別の、鎧を身に付けた騎士が何と剣を抜き俺に向けてきたっ!?え嘘だろっ!?


 思わず目を見開き、向けられた剣の切っ先が怖くて、体が震える。と、その時だった。

『『『ビーッ!ビーッ!!』』』

「「「「「ッ!?」」」」

 突如として響いたサイレンに、俺や村長、そして騎士の人たちも驚いた。と、次の瞬間。


『『『警告ッ!警告ッ!管理者ヘノ敵対行動ヲ確認ッ!戦闘態勢ヘ移行シマスッ!』』』


 大音量の電子音声を響かせながら、納屋の傍に待機していたガードロボット3機が俺と村長、騎士団の人たちの間に割って入るように飛び込んできたっ!?


 その瞬間俺は『しまったっ!?』と思ったっ。ガードロボットとライガーには、管理者である俺の護衛を第1の命令、つまり最優先指令である『プロトコル1』としてセットしてあるっ。つまり俺の身に危険が及ぶと、他の作業を投げ出してでも、俺を守ろうとするのだっ!


「ッ!?こいつら動くのかっ!?」

「まさか魔物っ!?」

 突如として俺と村長を守るように飛び込んできたガードロボット3機。それに対し、騎士の人たちは驚きつつも、即座に剣を抜いて来たっ!?不味い不味い不味いッ!


『『『警告ッ!警告ッ!武装勢力ニ告グッ!タダチニ武装解除セヨッ!』』』

「なんだこいつらはっ!総員抜剣ッ!戦闘用意っ!」

 あぁ最悪だっ!隊長さんの指示が飛んで全員が剣を抜き始めたっ!


「村長ッ!貴様、一体何を囲い込んでいるっ!よもや貴様ら、魔物を手懐ける術でも編み出していたのかっ!!」

「い、いえっ!そのような事はっ!」

 村長は、怒号を上げる隊長騎士に怯えた様子ながらもそう答えた。しかし既に騎士全員が殺気だっているっ!このままじゃ不味いッ!


 ガードロボットも騎士たちも臨戦態勢だっ!このままじゃ殺し合いになるっ!ここでガードロボットたちが騎士を一人でも殺したら、それは領主であるルクリシア男爵家に弓を引くようなもんだっ!間違いなく領主への反逆罪で村もろとも俺も家族も皆殺しにされるっ!!! そんな事態は、絶対に避けないとっ!


「総員、戦闘態勢っ!」

 騎士団の人たちもやる気だっ!ガードロボットたちも警告を止め、両掌から威嚇の放電を繰り返しているっ!


 だがここで俺がガードロボットたちに指示を出せば、俺とガードロボットたちの関係が判明し、俺は色々問い詰められ、スキル、鋼鉄の工房アイアン・ファクトリーについても話さざるを得ないだろう。


 けど、もうここまで来たら、俺が止めるしかないっ!後はもう、なるようになれっ!!!


 そう思った瞬間、俺は思いきり息を吸い込み、叫んだ。


「緊急介入プロトコル発動ッ!!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 きっと騎士団の人たちには、俺が叫んだ言葉の意味を1割も理解できてないだろう。これは緊急時、ガードロボット達にプロトコル1以上に優先される命令を与えるためのプロトコル、言わば『プロトコル0』。最優先の絶対命令だ。すると指示を受諾するためにガードロボット達から『ピピッ』と短い電子音が響く。後は音声で指示を入力するだけだ。


「ガードロボット3機に告ぐッ!直ちに武装解除ッ!戦闘行為を停止し俺の後ろへ下がれッ!」

『『『了解。プロトコル0ヲ受諾シマシタ』』』

 ガードロボット達は、威嚇のための放電を止めるとすぐさま俺の後ろへと下がった。これで騎士団の人たちと殺し合いにならなくて済む、と思った俺は思わず息をついたのだが……。


「お前、これは一体どういうことだ」

 次の瞬間には隊長騎士に剣の切っ先を向けられました。うん、ですよねぇ。傍から見たら魔物かも分からない正体不明のガードロボットを従えてる子供。うん、怪しいでしょうねぇ。


 でも剣は収めて欲しいなぁ。だって普通に怖いしっ!いやまぁ疑われてるのは分かるけど俺子供なんだけどっ!?せめて剣を向けるのだけは勘弁してよっ!


「どうした?何か言ってみろ」

 剣を向けるのはやめてぇ、と言いたいがそんな事を言える雰囲気ではない。騎士の人たち全員が、俺と、後ろにいるガードロボットを警戒している。ここで対応を間違えると、俺の首が飛ばされかねない。えぇいままよっ!


 こうなりゃ話せるだけ話してやるっ!

「ベ、弁明。いえ。せ、説明を、させてください」

「説明?何についてだ?」

「お、俺の後ろにいるこいつら、ガードロボットの存在とか、こいつらが敵じゃない事とか。あと、俺の力について、とか」

「………」


 隊長さんは少しばかり無言で何かを考えていた様子だったが、やがて俺に向けていた剣を鞘に納めた。

「良いだろう。ならばその説明とやらを聞こう。ただし、嘘は許さん。また、再び我らに敵意を向けるような事があれば、その時は子供であろうと我らの敵とみなす。良いな?心しておけ?」

「は、はい。分かりましたっ」


 殺気を滲ませる隊長さんに、俺はただ引きつった笑みを浮かべながら頷く事しか出来なかった。


 あぁ、ったく。今日は厄日だ、なんて事を俺は頭の片隅で考えながら、どう説明するべきか、思案を巡らせていた。


 そしてこの騎士たちの来訪が、俺と言う存在の転機のきっかけとなるのだが、それを俺はまだ知らない。


     第4話 END

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