第3話 事件
女の子を助けた結果死亡した俺は、神様から転生特典を貰って異世界転生、というテンプレ的な転生をすることになった。そして転生した先の農村では日々重労働が当たり前となっており、それを改善するために、俺はパワードスーツを生み出した。
転生してから早14年余り。ありふれた農村へと転生した俺は、まぁ農作業のキツさに悲鳴を上げ、これをどうにかするために神様より与えられたチート能力、≪
そして、そんなある日の夜中に、事件は起こった。その日の昼間は、特に何の問題も無く、いつも通りの平和な村だった。でも。
『ビーッ!ビーッ!ビーッ!』
「んがっ!?な、何事っ!?」
気持ちよ~く眠っていた所を、俺は大音量のアラームで叩き起こされた。なんだなんだっ!?とベッドから飛び起き周囲を見回すと、アラームの元は机の上に置かれたコマンドウォッチだった。画面が赤く点滅しているが……。
「ッ!?」
それを見た瞬間、俺はベッドから離れ机に駆け寄るとすぐさまそれを拾い上げる。赤い点滅の意味は『非常事態発生』だっ!
一体何がっ!?と思ったのも束の間、聞こえてくるアラートはコマンドウォッチからだけじゃない。村の方からも、恐らくガードロボットの物と思われる警告音が聞こえてくるっ!まさかっ!
「おいニクスッ!なんだこの音はっ!?」
と、そこに燭台を持った親父、母さんに兄貴たちが駆け込んできた。どうやら親父たちもアラームで飛び起きたみたいだ。
「わ、分かんないけど多分ただ事じゃないっ!これは多分、『襲撃』だっ!」
「なんだとっ!?」
「そ、そんな……っ!」
俺の言葉に親父は驚き母さんは顔を青くしている。とにかく今は状況確認が先だ。俺はすぐにコマンドウォッチを手首に巻き、画面を指先で叩いてウィンドウを呼び出す。空中に表示されたウィンドウは、村の地図を映し出した。その地図の上では、青い光点、ガードロボットが赤い光点の周囲で動き回っていた。
地図上の赤い点は、ガードロボットが『敵』と判断した存在だ。でも、ここで一つ大きな問題があった。
「な、何だこれっ!?」
地図上の赤い点の多さに、俺は戸惑った。何しろ赤い点が20個以上あるのだからっ!
「どうしたニクスッ!この絵から何か分かるのかっ!?」
「ひ、人か魔物か分からないけど、ガードロボットが敵だと判断した存在の数が、およそ20体。ガードロボットの倍くらい居るっ!」
「なっ!?だ、大丈夫なのかっ!?それはっ!?」
「……正直、分からない。相手はガードロボットの倍だ。押し込まれる可能性も……っ!」
「ッ!だったら俺も行くっ!」
「ッ!?あなたっ!?本気なのっ!」
親父の言葉に母さんが驚いて声を上げている。
「大丈夫だっ!きっと他の家の奴らも来るっ!それにここは俺たちの村だっ!魔物か盗賊か知らんが、好きにさせるかっ!ニックッ!お前たちはここで母さんを守ってろっ!」
「お、おぉっ!」
親父の言葉に兄貴が少し興奮した様子で頷く。
「ニクスッ!お前は……」
「俺も行くよっ!前線でガードロボットたちに直接指揮するし、ライガーならガードロボットの何倍も強いっ!時間を掛けると被害が増えるだけだっ!ライガーで一気に敵を叩くっ!」
「ッ!……わ、分かったっ!なら行くぞっ!」
親父は俺が付いて行く事に少し迷った様子だったけど、すぐに頭を被り振って頷いた。親父だってライガーの強さは知ってるからなっ。
俺は親父と共に家を出て、納屋へ向かった。そしてその扉を開けるなり、中からライガーが飛び出してきた。
『ヴヴヴヴヴヴッ!!!』
そして飛び出してくるなり、ライガーは唸り声をあげている。これは準戦闘態勢を意味している。つまりライガーも敵の存在を察知しているって事だっ。でも分かってるなら好都合だっ!
「ライガーッ!よく聞いてくれっ!今村に敵性集団が攻撃を仕掛けているっ!お前にはそれを迎撃してほしいっ!とりあえず最優先は殺さずに無力化ッ!ただし無力化が無理なら致死性攻撃も許可するっ!分かるっ!?」
『ガウゥッ!』
ライガーは俺の言葉に頷くと短く吠えた。
「よし行けっ!」
最後にそう俺が叫ぶと、ライガーは大地を蹴って駆け出した。本物のトラにも勝る脚力で、ライガーは飛ぶような勢いで村の外周へと向かって走り出した。
「ニクスッ!ライガーはっ!?」
そこに納屋の奥から、藁なんかを集める時に使うデッカイフォークみたいな農具、ピッチフォークを2本手にした親父がやってきた。
「今敵のいる方に向かったっ!親父っ、俺たちもっ!」
「おぉっ!急ぐぞっ!」
俺は親父からピッチフォークを1本受け取るとそれを手に、親父に続いた。村の外周辺りまで走って行けば数分。そして俺たちがたどり着いた時には……。
「ひぃっ!?な、何だこいつっ!?」
『グルアァァァァァァァァッ!!!!』
威嚇の咆哮を上げながらライガーが男の一人に体当たりする姿を目の当たりにした。
ライガーに体当たりされた男は吹っ飛ばされ、後ろにいた別の男に激突。2人して更に吹っ飛ばされ、地面を転がると動かなくなった。
「く、クソっ!?なんなんだこいつらっ!?」
「し、知るかっ!良いから戦っ、うわぁっ!?」
命令しようとしていた男を次の瞬間、ライガーの体当たりが吹っ飛ばす。そこからライガーは別の男に襲い掛かる。
その様子を見つつ、俺は周囲全体を改めて見回した。夜中だけど、ガードロボットたちの胴体に内蔵されている、サーチライト級の明るさを誇るライトが男たちを照らしているため、真夜中だってのに明るいから、状況確認はしやすかった。
村の周囲を固める木製の柵、その一部が破壊されている。そしてそこから入り込んだであろう、薄汚れた服装で武装した、どう見ても堅気には見えない男たち。十中八九、盗賊かっ!?連中はそれぞれが剣や槍、弓らしき武器で武装していた。
けれど、そんなものライガーの前には無力だ。
「この野郎っ!」
弓を持った奴がライガー目がけて矢を射かける。しかしライガーの速度に追い付けておらず、矢は森の方へと消えていく。そしてライガーはその弓の男に肉薄し……。
『ガウゥッ!』
「ひっ!?げふぅっ!?」
盛大に腹部にタックルをかました。避けきれず、吹っ飛んだ男は盛大に吐しゃるとそのまま動かなくなった。更に……。
「く、クソっ!一体全体なんなんだこの村はっ!?」
ライガーに仲間をやられたせいか、盗賊連中はライガーにばかり目が言っているようだ。それは、ガードロボットの絶好の攻撃チャンスだっ!
そしてそんな見え見えの隙を見逃す程、ガードロボットのAIは甘くないっ!複数のガードロボットが、隙だらけの男へと迫り、そして4本足の脚力を生かして飛び掛かった。
「はっ!?ぐへぇっ!?」
男は気づいたが、遅いっ。数百キロの重さを持つガードロボット数体に伸し掛かられちゃ、動けるわけがない。
「ぐ、ど、どけぇっ!ど、ぎゃぁぁぁっ!?」
叫んでいた男だが、その間にガードロボット1体の腕が、男の腕を掴むと掌の放電機能、つまりスタンガンで男に電流を流し込み気絶させた。ガードロボットたちは、男を気絶させるとすぐさまその場を離れ、次の目標へと向かった。
よしっ!ガードロボットたちも上手くやってくれているっ!何より、ライガーがそのパワーと機動性で場を引っ搔き回して盗賊どもを混乱させ、隙だらけの盗賊をガードロボットが複数機で抑え込み、スタンガンで気絶させ確実に無力化していくっ!おかげで今は痺れて動けない盗賊や、体当たりで吹っ飛ばされて動けない盗賊の方が多いっ!
このままならいけるっ!
「おいっ!何の騒ぎだぁっ!」
と、そこへ村の方から俺たちみたいにピッチフォークや農具、たいまつで武装したおっちゃん達が走って来たっ!
「みんなっ!盗賊の襲撃だっ!今ニクスの作ったロボットとライガーが戦ってるっ!」
おっちゃん達に、親父が簡潔に、少し早口で状況を伝える。
「盗賊だとっ!?ふざけやがってっ!俺たちの村に手を出すとはいい度胸だっ!お前らっ!奴らをぶちのめすぞっ!」
「「「「「おぉぉぉっ!!!」」」」」
ッ!?なんかおっちゃん一人の言葉に反応して、皆臨戦態勢になってるっ!?けど相手は盗賊だっ!それに、怪我でもしたら今後に関わるっ!
「待って皆ッ!」
だからこそ、今にも駆け出しそうなみんなの前に俺は飛び出て、両手を広げて止めに入った。
「ッ!?なんで邪魔するニクスッ!?」
「相手は戦闘経験もある盗賊なんだよっ!?そんなの相手におっちゃん達が挑んでどうなるってのっ!?怪我でもしたら、それこそ畑仕事に関わるんだよっ!?人は、腕を切り落とされたって、足を無くしたって生きていけるっ!でも畑仕事はもうできなくなるかもしれないんだよっ!?いや、俺の力で失った手足を補う事は出来るかもしれないけど、でも今までとは違う生活を強いられる事になるよっ!?」
「うっ、そ、それは分かってるっ!しかし村が襲われてるのに黙ってみてるわけにはっ!」
「大丈夫っ!」
おっちゃんの言い分も分かる。それでも俺は、そう声を上げた。そのまま俺は皆の方へ背を向け、戦うライガーとガードロボットたちへと目を向けた。今、俺の子供たちは奮闘している。
ライガーがかき乱し、動きの鈍った敵をガードロボットがスタンガンで気絶させていく。
「俺は、俺の子供たちを信じてるっ!あの子たちは、俺が村を守るために、あぁ言う奴らをぶっ飛ばすために作り上げたんだっ!俺の子供たちが、あんな夜盗風情に負けるわけがないっ!!」
自らの自信を、あの子たちへの信頼を、俺は声高に叫んだ。
『グルァァァァァァァァァッ!!!!!』
すると、それに答えるようにライガーが大きく咆哮を上げた。
「ひっ!?」
「じょ、冗談じゃねぇっ!こんな化け物相手にしてられるかっ!?」
咆哮を聞いた盗賊たちは怯え、1人、2人とこちらに背を向けて逃げ出し始めたっ。
「お、おいお前らっ!逃げるんじゃねぇ戦えっ!俺の命令が聞けないのかっ!おいっ!」
すると、残っていた男の1人、左頬に大きな傷のある男が叫んだっ。あいつがボスかっ!ならっ!
「ライガーッ!その左頬に傷のある男を狙えっ!そいつがリーダーだっ!」
『ガァウッ!!』
俺の指示を聞いたライガーが、傷のある男に狙いを定め、襲い掛かった。
「くっ!?このっ、化け物がっ!!」
男は焦燥感に駆られた表情のまま剣を振るった。だが……。
振るわれた剣は、ライガーの鋼鉄の装甲に傷つける事など出来なかった。出来なかったどころか、斬りつけた剣が音を立てて中ほどから折れてしまった。
「なっ!?」
男は驚いているっ。それは、ライガーにとって絶好のチャンスだ。
『ガゥゥゥゥゥゥッ!!!』
「がっ!?」
唸り声と共に繰り出されたライガーの前足が男の側頭部を捉え、そのまま地面に叩きつけたっ!男は地面に叩きつけられ、1度バウンドするとそのまま地面に横たわり、動かなくなった。
「お、お頭っ!?」
「お頭が、やられたっ!?」
「クソっ!?もう終わりだっ!俺は逃げるぞっ!」
「あぁっ!?おい待てっ!!」
「畜生っ!なんなんだこの村ぁっ!?」
リーダーがやられたからか、残っていた盗賊連中は我先にと逃げ出した。
『ヴゥゥゥゥゥッ!!』
それをライガーが追おうとするが……。
「ライガーッ!……追わなくていい」
俺が声をかけて制止した。
「村を守ってくれれば十分だ」
俺は声を掛けながらライガーに歩み寄る。
「ありがとう、ライガー」
優しく声をかけ、俺はライガーの働きを労うようにその頭を優しく撫でた。するとライガーは戦闘態勢を解き、気持ちよさそうに喉を鳴らしている。
ある程度ライガーを撫でると、俺は次いでコマンドウォッチの画面を叩いてガードロボット全機の状態を表示した。
行動不能になった機体は0。多少、装甲がへこんだり斬られて僅かに傷を負った機体もあるけど、動けなくなるほどの状態まで損傷した機体は無かった。
「はぁ~~~~」
その様子を見た瞬間、俺はライガーもガードロボット全機無事だった事に安堵すると同時に、張りつめていた緊張感がほどけたからか、今更ながらに体が震えてきた。
「ニクス?大丈夫か?」
「あぁうん。大丈夫だよ親父。ちょっと、今更になって体がね」
「そうか。とにかくお前は休んでろ。お前とライガー、ガードロボットのおかげで人の被害は無し。柵が壊れて畑が少し踏み荒らされたが、これくらいなら訳ない」
「そっか。それなら、良かった」
物は直せるし、作物は植え直せば良い。でも人の命はそうもいかない。だから死人が出なかっただけ良かった。そこはホント、ライガーとガードロボットたちのおかげだ。
「お~~いダンッ!お前も手伝ってくれぇっ!こいつらが起きる前に全員ふんじばってやるんだっ!」
「おぉ分かったぁっ!」
声がしたのでそちらを向くとおっちゃん達が、遅れてやって来た村長の爺さん指示の元、気絶している盗賊連中を次々と縄で縛りあげていた。
「じゃあニクス。お前はここに居てくれ。俺はあいつらを手伝ってくる」
「うん。分かった」
俺は歩いて行く親父を見送ると、その場にへたり込んだ。俺が何かをしたわけじゃないけど、皆も、ライガーもガードロボットたちも無事で良かった。そう思うと気が抜けてしまう。
と、そこに歩み寄って来るライガー。ライガーは心配そうに俺を見つめている。
「心配してくれてるのか?ありがとうなライガー。お前だって、疲れただろうに」
俺は傍にあるライガーの顔や頭を撫でてやる。
「本当にありがと、ライガー」
その時の俺はただ、感謝の気持ちを表すためにライガーをひたすら撫で続けた。
その後、盗賊団連中はとりあえず共用の納屋の中に全員縄で雁字搦めにして放り込んだ。念のため、周囲を無傷だったガードロボット3機で警戒している。
残りの7機は位置を変えて村のあちこちに再配置。ちなみにガードロボットは全機がバッテリーで駆動する。そしてバッテリーの予備は村の、パワードスーツとは別の共用倉庫の中に設置した、大型のタンスくらいある充電器に差し込んである。この充電器も外にある太陽光ソーラーパネルと繋がっていて蓄電システムも兼ねている。
10機すべてのバッテリーを交換してから再配置の設定をしたりしていると、結構時間が掛かって、いつの間にか空が白み始めていた。
「ふぁぁ。もう、朝かぁ」
すっかり夜が明けてしまった。正直今、すごく眠い。どうしよう、一回家に戻って寝ようかな?
なんて充電器のある納屋の傍で考えていると……。
『ピピピッ!』
「おっと?今度はなんだぁ?」
また俺の手首に巻いているコマンドウォッチに反応があった。それはガードロボットからの通信だった。ったく、今度はいったいなんだ? 俺は眠い瞼を擦って、ウォッチの画面を叩いてウィンドウを立ち上げた。
『警告。街道方面より接近する機影多数。全機騎馬兵の可能性あり。対応の指示を求む』
「はっ!?騎馬兵だってっ!?」
通信内容は、街道へと出る村道の出入り口近くに配置した機体からだったけど、それは村に何者かがまたしても接近してくる事を伝える物だった。というか全員が馬に乗ってるとしたら、ただ事じゃないかもしれないな。
とはいえ、だからと言ってこっちから攻撃を仕掛けるのもな。やむを得ないけど。
「音声コマンド。村の外周を警戒するガードロボット7機に通達。現在村に謎の騎馬集団が接近中。ただし相手が敵か味方か分からないため、準戦闘待機。いつでも戦闘開始できるように準備を」
『『『『『『『了解。指令受諾』』』』』』』
俺が音声コマンドで、コマンドウォッチを介して指示を出すと7機から一斉に返事のメッセージが飛んできた。
さて、これでガードロボットは俺が指示を出さない限り攻撃はしないけど、あぁクソッ!こっちはすげぇ眠いってのに、今度はいったい何が来たって言うんだっ!
若干の苛立ちを覚えながら、俺はすぐに村長を探して走り出した。とにかくこのことを他の皆に伝える為に。
第3話 END
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