第2話 転生
~~~事は、14年ほど前に遡る~~~
場所は、現代の日本。そのとある地方都市の駅の近くで、事故は起こった。ある日の夕暮れ時。帰宅ラッシュでごった返す駅近くの交差点付近で警察と薬物中毒者の運転する車によるカーチェイスが発生した。
パトカーが怪しい車を発見し、職質を掛けようとした所、突如として車が急加速し逃げ出したからだ。それをサイレンを鳴らしながら咄嗟にパトカーが追う形となった。
そして薬中の男が運転する車は、信号無視で交差点に進入。信号が変わった直後だった事もあり、人々は横断歩道に踏み出した直後だった。大勢の人々が慌てて引き返す中、一人の女の子が群衆に押されて倒れ、逃げ遅れた。
あわや車がその女の子を跳ね飛ばすかと思われたその時、一人の学生が女の子を突き飛ばし、結果女の子は擦り傷程度で助かった。
だが、その学生は暴走した車に撥ねられ、亡くなった。
その学生こそが、のちのニクスである。
~~~~~
「ッ!あ、あれ?こ、ここどこだ?」
体をバラバラにするような衝撃と共に、意識が暗転したと思ったら次の瞬間、俺は真っ白な空間に居た。辺りをキョロキョロを忙しなく見回すが、何もない。ただ真っ白な世界が広がっているだけだ。
「お、俺、確か女の子を庇って、それで……」
なぜ自分がこんなところに居るのか、まったく理解できなかった。何とか記憶を掘り起こし、状況を整理する。俺は学校からの帰り、駅に向かっていた。そしてそこでパトカーと乗用車のカーチェイスを目撃して、逃げようとしたけど、逃げ遅れた女の子がいたから、反射的に戻って、その子を突き飛ばした所までは覚えている。
そして、最後は体を引き裂くような衝撃で、意識を手放して、それで……。
それでなんで次の瞬間にはこんな場所に居るんだ?俺?全く脈略が無い。……って待てよっ!?あんなことがあったんだから、俺は十中八九、死んだよなっ!?って事はまさかっ!?
「もしかしなくてもここって死後の世界っ!?」
まさかと思い叫びながら周囲を見回す。周囲には何もない。ただ真っ白な空間が広がってるだけだ。し、死後の世界がこんな何もない世界なんて、それこそ退屈で死にそうだな。
そう、考えていたその時。
「残念ながらここは死後の世界ではないぞ」
「ッ!」
声が、聞こえた。けれどその声は、普通じゃなかった。耳で聞こえているはずなのに不思議と声が頭の中にまで響いて来た。その気持ち悪い状況に戸惑い、少しの恐怖を感じながら俺は声がした方、後ろへと振り返った。
そこに『居た』のは、『人の形をした光』だった。真っ白な世界で真っ白な光が人の形をしているせいで、輪郭がぼんやりとしか分からない。ただ、人の形をした光、という事だけが分かった。
「あ、あなたは?」
その人の形をした光が声の主なのか分からず、問いかけた。
「ふぉっふぉっ、驚いておるようじゃのぉ、人の子よ」
人の形をした光は、また声を発した。耳で聞こえ脳にまで響くその声は、明らかに人が知る生物の物ではない。真っ白な空間、真っ白な光。そして事故にあって死んだかもしれない俺。となると。ま、まさか……。
「あ、あなたは、神様、ですか?」
自分の身に起きた出来事と今まさに起こっている出来事を考えると、どうしても目の前にいる存在が『神』。もしくはそれに連なる存在なのではと思てしまう。
それが如何に荒唐無稽な考えだとしても、今の俺はそう考えてしまっていた。
「左様。ワシはお主ら人の子の言う『神』じゃ」
「ッ!」
人の形をした光、否。『神』は俺の言葉を肯定し頷いた。その現実に俺は驚き、冷や汗を浮かべながら息を飲んだ。だって神様が目の前にいるんだ。驚くな、なんて無理な話だ。
「ど、どうして神様が?それに、ここは?」
「そうさのぉ。まぁ、順を追って話すとしよう」
そう前置きをして神様は話し始めた。と言っても、内容はとてもシンプルだ。要約すれば、『君女の子助けたから異世界転生ね(チート能力付き)』。って感じだ。うん、なんとな~く、『まさかなぁ?』とは思っていたけどその通りだったわ。
「異世界転生って。俺が?ホントに?」
「左様。お主のような現代の日本の男児なら大体は知っておろう?」
「まぁ確かに。ラノベによくありがちな話ですけど。……ってなんで神様が最近のラノベのトレンド知ってるんです?」
「ふぉっふぉっ。神は全知全能ゆえに神なのじゃよ」
「ははっ」
さいですか、と思いつつ自慢げに笑みを浮かべる神様に、俺は苦笑で答えた。しかし、チート能力付きかぁ。
「神様、少し質問しても良いですか?」
「ん?なんじゃ?」
「さっき神様は、この転生は能力をつける事も出来るって言ってましたよね?」
「あぁ。言ったとも。お主らの知ってるラノベ風に言うのであれば、転生特典、とでも言うべきものじゃ」
「じゃあその特典についてさらに質問なんですけど、特典ってなんでも良いんですか?こういう能力が欲しい、とか。自分専用の弾切れしない銃が欲しい、とか」
「あぁ。なんでも良いぞ。よっぽど世界に悪影響を及ぼす事。例えば魔王になりたいだの、NBC兵器を持ち込みたい、とかでなければのぉ」
「うわ怖っ!?えっ!?そんな危ない事考えてお願いした奴もいるんですかっ!?」
魔王になりたいとか、いやそれよりNBC兵器持ち込みたいってなんやねんっ!危な過ぎて怖いわっ!
「いやただの例えじゃよ。これまで何人か異世界に転生させたことはあるが、そのような危険な思想を持って居った者はおらんよ」
「そ、そっか。なんだ例えか。びっくりしたぁ」
「それより、お主はどうするんじゃ?どのような特典を望む?」
「う~ん」
神様に問われ、俺は腕を組みながら考えた。俺が好きな物、と言ったら機械系だ。メカだ。ロボットだ。って言うか待てよ?異世界に転生したら、ロボット物とか皆無じゃんっ!ファンタジー世界だよっ!そういうのいる可能性限りなく低いよなっ!?となると……。
「じゃあ、例えばの話だけど、俺が自分の頭の中でイメージしたロボットや機械なんかを生み出す能力、って言うのは大丈夫ですか?」
「ふむ。創造の力か。まぁその程度であれば問題ないじゃろう」
「ッ!じゃあそれでお願いしますっ!」
OKが出ると、俺はすぐに頭を下げてお願いしたっ!何しろ俺はロボットや機械が大好きな男だからなっ!それが無い人生なんて、まっぴらごめんだっ!
「分かった。ただし、お主の力にリミッターとしてある制限を掛けさせてもらう」
「制限、ですか?」
唐突な神様の言葉に俺は首を傾げた。制限って、どういう事だ?
「お主が今考えた力は、扱い方次第ではアンドロイドの軍隊を生み出しお主一人で国を落とす事も出来るだろう」
「あっ」
神様の真剣な声色の言葉に指摘され、俺は気づいた。 そうだよ。ロボット、特に戦闘用に創造したアンドロイドなんかを無限に生み出せてしまったら、俺はただ考えるだけで軍隊を作り出せるって事だ。そう考えると確かに制限を掛けられてもしかたない、と俺は考えた。
「理解したようじゃの?それでは制限についてじゃが。お主が1日にその能力で生み出せる存在の数を決める。その数は、3機じゃ」
「ッ。3機か」
分かっていたが、一桁台。それも1日に3台だけかぁ。ちょっと少ないって思ったが、すぐに頭を被り振った。過ぎた力は身を亡ぼすって言うし、これくらいの方が良いんだ。うんっ。そう考え、俺は自分を納得させた。
「どうじゃ?不満はあるか?」
「いいえっ、ありません。それで構いませんっ」
不満なんて無い。俺は真っすぐ神様を見つめながら頷く。
「分かった」
神様は俺を言葉を聞くと頷いた。
「ならばお主には力を、≪
そう言うと、神様が右手を前にかざした。すると掌から一つの光球が発生し、次の瞬間俺に向かって突進、そして俺の胸に飛び込んできた。
「うえっ!?」
突然の事に驚く俺。いやいきなりは流石にビビったっ。更に言えば、当たったのに感触も無く、光球が体の中に侵入したのに一切感覚が無かったのも少し驚いた。
「こ、これで俺に、特典が?」
「左様。お主が転生し、新たな生を得たその時からその力は発動しお主の物となる。さて、色々話をしていたがそろそろ転生の時間じゃ」
再び手を、今度は何もない空間に向けてかざす神様。すると、そこに極彩色の光を放つ穴が現れた。
「それは?」
「これは転生のための穴じゃよ。お主がここへと飛び込めば、転生は為される」
「ッ。ここに、飛び込む?」
極彩色の穴の奥には、光が広がるばかりで向こう側に何があるかは分からない。分からないからこそ、一瞬臆してしまったが、俺はすぐに頭を被り振って前を向く。
そうだ。チート能力付きで異世界転生っ!最高じゃないかっ!ラノベ大好きな俺からしたら、文字通り夢のようなシチュエーションだっ!今更、臆してられるかよっ!
「神様っ!ありがとうございましたっ!」
最後に神様にお礼を言って頭を下げると、穴の方へと向く。
「っしゃぁっ!行くぞぉぉぉぉぉぉっ!!」
自分の頬を叩いて気合を入れると、俺は声を上げながら穴に向かって走り出し、飛び込んだ。
そして、そこで俺の意識は暗転した。
でもそれも一瞬。次の瞬間には、俺は異世界に赤子として生を受けた。
「おぎゃぁっ!おぎゃぁっ!」
自我こそ有していたものの、赤子の体は自由に動かす事は出来なかった。それでも俺はその日、元日本人の俺は特殊な能力と共に異世界に『ニクス』として転生した。
それが俺の、新たな人生の始まりだった。
~~~~~
紆余曲折を経て、俺が異世界に転生して、数年が流れた。俺が転生したのは、とある国のとある地方貴族が収める貴族領、その一部にあるありふれた農村だった。
そんな農村の、とある一家の3男として俺は第2の生を受けた。だが、そんな農村の生活は決して楽な物じゃなかった。
「おいニクスッ!今日も仕事だ行くぞっ!」
「は、は~いっ!」
ある程度の歳にまで成長すると、子供だろうが関係なく畑仕事に駆り出された。種まきや雑草取り、収穫や荷運び等々。重労働と言う単語がふさわしいほどに農業というのはキツかった。
「ハァ、ハァ、ハァッ!きっつっ!」
毎日毎日、汗水を流して、ヘロヘロになりながらも働くけど。
「なんだニクス、だらしないぞ。明日もまた同じような仕事があるぞ」
「え~~~~っ!?」
農家に休日と言う物は、無いに等しかった。
更に、農業って言うのは収入が不安定だ。大雨なんかで作物が被害を受けるとそれだけで収入が減る。更に作物も決して一つ一つの単価が高い訳じゃない。だからこそ、数を作って、村から馬車で数時間ほどの隣町まで売りに行くしかない。しかも価格自体は市場価値によって変動するからさぁ大変だ。
だからこそ、少しでも多くの人手を使って、少しでも多くの作物を作って売りに行くしかない。それに加えて重労働。おかげで子供の頃から毎日大粒の汗を流しながら働く事になった。
転生したばかりの頃の俺は、大きくなったら冒険者になろうかな?なんて甘い夢を抱いていたが、そんなのは夢のまた夢だった。何しろそれより畑仕事しないと家族が大変な事になるからだ。
毎日毎日畑仕事の連続。休みだってあってないような物。だからこそ、俺は思った。『今すぐ労働環境を改善するアイテムがいるっ!』と。
それから俺は、肉体労働の仕事環境で近年注目されていた存在であるパワードスーツの事をすぐに思い出し、すぐに頭の中で設計図を描き始めた。
大まかな設計図。動力源はどうするか?稼働時間の目安は?何を想定するのか?そう言った事を考え、まとめ、そして神様より貰った≪
スキルを使う事自体は大した事じゃない。ただ脳裏に強くイメージを浮かべ、後は『生まれろ~』とか『出てこい~』と念じるくらいで良い。スキルが発動すると、俺の前に白い魔法陣が現れ、そこからイメージしたものが出てくる、という訳だ。
そして、農業用パワードスーツを親に内緒でこっそり作った翌日。
「親父っ!」
「ん?どうしたニクス」
その日は午前と午後の二つを使って仕事をしていた。午後は、午前中に取り切れなかった野菜の収穫をしていたんだけど……。
家を出て畑に行く前に、俺は親父に声を掛けた。
「実は親父に試してもらい事があるんだっ!」
「俺に、か?」
ここは、重要な所だ。俺は農業用パワードスーツの第1号を作り上げた。この親父の反応次第で、パワードスーツの今後が決まるかもしれないんだっ!
「ちょっと、見て、いや、体に装着してみてほしいんだっ!上手く行けば、畑仕事が今までより楽になるからっ!」
「装着?一体何を言ってるんだニクス」
親父は意味が分からない、と言わんばかりに怪訝な表情をしている。
「分かってる。いきなり変な事言ってるよね。でも頼むよ。試してみてほしいんだっ!」
「むぅ。……何か分からないが、1回だけだぞ?」
「ッ!ありがとうっ!」
とにかく親父の興味を引く事は出来た。とりあえず兄貴たちは先に畑に行かせ、俺は親父を連れて納屋に向かった。
「おいおいニクス。納屋に一体何の用なんだ?」
「納屋じゃないよ。目的は、この中にある物だよ」
そう言って俺が納屋の扉を開けると。
「ッ、何だこいつはっ」
親父は納屋の中、そこにあった木箱の上に置かれていたパワードスーツ――正確にはその試作1号機――を見て驚きつつ、戸惑っているようだった。
「ニクス、何だこれは?」
「それが親父に着けてもらいたい物、パワードスーツだよ」
「ぱ、パワー、なんだって?」
「パワードスーツ。簡単に言うと、道具で人の握力を補助するんだ。こいつがあれば、滅茶苦茶重い荷物も軽々と運べるようになるよ」
「ホントか?こんな良く分からない道具が?」
親父は怪訝そうな目でパワードスーツを見つめている。だが無理もない。前世の知識がある俺とこの世界で育った親父じゃ、言っちゃ悪いけど知識に差があり過ぎる。でも、ここは『論より証拠』って事。要は、直に試してもらうっ!
「まぁとにかく試してよ。ほら、そこに立って」
「お、おぉ」
俺は戸惑う親父に、パワードスーツを装着していった。背中にユニットを背負ってもらい、そこから伸びるパーツを四肢に装着させる。
「ホントにこれ、役に立つのか?」
パワードスーツを纏った自分の腕や足を見つめながらも、親父は少し眉を顰め、疑っている様子だった。
「まぁ物は試しだよ。って事で、スイッチオンッ」
俺は背中に会った電源のスイッチを入れ、パワードスーツを起動した。スーツが動き出した合図として、スイッチ傍にあったランプが点灯し緑色の光を放っている。
「お、おぉ?な、何だ?」
スーツが動き出した事で戸惑い各部を見回している親父。驚いてるなぁ親父。でも、驚くのはこっからだっ。
「親父、試しにあそこのじゃがいもたっぷりの木箱、持ってみてよ」
「ん?これ、か?」
俺は湧き上がる笑みを必死に隠しながら、近くにあったじゃがいもが満載の木箱を指さした。
「こいつかぁ。じゃがいも満載の箱は、重いんだよなぁ」
と、気だるげに呟く親父。でも無理もない。俺だって兄貴たちを手伝ってじゃがいも満載の木箱の運搬を手伝った事があるけど、滅茶苦茶重くて指が千切れるかと思ったくらいだ。
でも、そんな痛みとはもうおさらば出来るはずだ。
「頼むよ親父。試してみてくれ」
「お、おぉ。分かったよ」
親父は木箱の前で屈み、両手で箱を持つと。
「せー、のっ!?うぉっ!?」
掛け声で持ち上げようとしたんだろうけど、どうやら思っていたよりも軽い力で持ち上がったからか、親父は思わず後ろに向かってたたらを踏んだ。
「う、嘘だろ?普段ならあんなに重い箱が、こ、こんなに軽いなんてっ!」
親父は戸惑いながらも箱を上下に動かしてみたり、置いてまた持ち上げたりしている。
「どうだい親父?すごいだろ、パワードスーツは」
「あぁ凄いぞニクスッ!こんな重い箱が、こんなに軽々と持ち上げられるなんてっ!」
さっきまでの不安と疑いに満ちていた様子はすっかり無くなり、親父は純粋にパワードスーツに驚いていた。
「それじゃあ親父、今日はそのパワードスーツを使って仕事してみようよ。折角だから実地テストもしたいんだ」
「おうっ!何だか良く分からねぇが、やってみるかっ!」
こうして俺は、上手く親父にパワードスーツの存在をアピールする事が出来た。そしてその後は親父が仕事でパワードスーツを使いまくり、更には周りに自慢するもんだから、兄貴たちどころか村の男衆の殆どがパワードスーツを欲しがって、仕方ないから共用倉庫の一つにパワードスーツとそれの充電に使うポッドやらソーラーパネルなんかを設置。
更に親父や皆に俺の力を説明し、パワードスーツは仕事を楽にする道具、として皆に受け入れられていった。
更にしばらくして村長に『村の防衛についてどうにかならんかのぉ?』と相談を受けてガードロボットを生み出したり、念には念を、とライガーを生み出しした。
そして俺がこの世界に転生して14年。すっかりパワードスーツもガードロボットもライガーも、皆村に馴染んでいたある日の事だった。
ある日、事件は起こった。
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